“生成AI”という言葉が日常的にも使われるようになり、「園の業務にもAIを活用したほうがいいのだろうか」「言葉はよく聞くけれど、園でどう使えばいいのかわからない」といったお悩みや疑問をお持ちの園長先生も多いのではないでしょうか。
職員の業務負担を軽減し、保育の質をさらに高める可能性を秘めた生成AI。しかし、その導入には個人情報の取り扱いやセキュリティなど、さまざまな不安があるかと思います。
そんな中、2025年3月、こども家庭庁から「生成AIの導入・活用に向けた実践ハンドブック」が公開されました。
本記事ではその全体像と、特に園長先生方に知っていただきたいポイントをわかりやすくご紹介します。
このハンドブックは、保育の現場で生成AIを安全かつ効果的に活用するための知識やノウハウがまとめられており、生成AIを活用していくうえで参考になる内容になっています。
大きく分けて、AIの基本知識や導入手順を解説する「基礎編」と、具体的な活用例を集めた「事例編」の2つのパートで構成されており、施設の状況に応じて活用できるようになっています。
これから活用を検討する施設向け
「事例編」で具体的な活用イメージを掴み、次に「基礎編」で導入プロセスを確認する
既に活用している施設向け
「基礎編」で知識を深め、「事例編」で他園の取り組みを参考に、さらなる活用を推進する
ご自身の園の状況に合わせて、必要な情報から読み進めることができます。
「基礎編」では、AIで何ができるかという可能性から、生成AIの注意点、実際の導入計画までが体系的にまとめられています。AI導入を安全かつ計画的に進めるための教科書として読むのがおすすめです。
ハンドブックでは、AIが「文章の生成」「画像の識別」「音声の文字起こし」など、多岐にわたる業務に活用できると解説されています。 特に、子ども・子育て分野では、以下のような具体的な利活用の可能性を示しています。
日々の事務作業における活用イメージとあわせて、AIが生成したものをどのような視点で人がチェックすべきかについても記載があります。具体的な活用例については、次の章でご紹介します。
ハンドブックではAIの導入を「①企画検討」「②導入準備」「③導入・運用」という3つのフェーズに分け、各段階でやるべきことを具体的に解説しています。このステップに沿って進めることで、場当たり的な導入ではなく、自園の課題に合った、計画的でスムーズなAI活用が実現できます。 各フェーズでどのようなことが書かれているかを紹介します。
フェーズ①:企画検討
現状の課題把握・目標設定
「どの業務に時間がかかっているか」「職員が何に困っているか」をヒアリングやアンケートで具体的に洗い出します。そのうえで、「職員の事務作業の時間を〇〇%削減する」などの目標を明確にし、どのように生成AIを活用していくか検討します。
サービスの検討
個人情報の取り扱いやセキュリティ要件についてもサービス事業者に確認しましょう。必要であれば自治体の関連部門などと連携をしておくと安心です。
フェーズ②:導入準備
企画検討フェーズで導入するサービスや活用方針が固まったら、次は導入に向けた具体的な準備を進めます。この段階では、職員が安心してAIを活用できるよう、環境を整えることが中心となります。
環境整備
セキュリティ対策を改めて確認したり、不適切な言葉や画像がAIによってつくられないように設定したりするなど、職員が安心してAIを使うための具体的な環境づくりを進めます。
研修の実施・マニュアル作成
職員向けの研修会を計画・実施したり、具体的な活用方法や個人情報の取り扱いルールなどを明記した園独自の「運用マニュアル」を作成したりすることもこのフェーズに含まれます。
フェーズ③:導入・運用
準備が整ったら、いよいよ導入です。しかし、最初から全職員で一斉に使い始めるのではなく、まずは特定の業務や一部の職員から試してみる「スモールスタート」が推奨されています。
実際に使ってみて、「もっとこうだったら使いやすい」といった現場の意見を吸い上げ、改善を繰り返していくことが大切です。また、「導入して終わり」ではなく、定期的に効果を測定し、さらなる活用方法を検討していくことで、AI活用による園の持続的な成長を実現することができます。
生成AIは、誤った情報を生成したり、入力された情報を学習に利用して情報漏えいを起こしたりする可能性があります。このような個人情報の取り扱いや情報セキュリティ、著作権などのリスクについて、ハンドブック基礎編では具体的な対策や国内外の指針などが記載されています。また、園で独自のルールを策定したり、具体的なツールを選定したりする際に参考となる、実証事業での対応策や事業者へ確認すべきセキュリティのポイントも解説されています。
これにより、「何かあったら怖いから使わない」ではなく、リスクを正しく理解したうえで、安全に活用できる範囲を見極めていく、という前向きな姿勢で導入を検討できるようになります。
ハンドブック基礎編の詳細はこちらからご覧いただけます。
「事例編」では、全国の自治体や保育施設での実証事業に基づいた、12件の具体的な活用事例が図を交えて紹介されています。 ここでは、実際に保育施設が主体となってAIを導入した6つの活用例をご紹介します。
おたより・連絡帳等の作成
日常の保育の情報をチャット形式でAIに入力し、AIが文章案を作成
子どもの写真整理作業
AIが園児の顔を識別し、自動で写真を整理・分類する
お知らせ翻訳作業
翻訳が必要な資料などをAIに入力し、AIが翻訳した文案を作成
イベントなどのアイデア出し
職員がイベントの検討に必要なデータ収集。調べた情報をAIに入れ込み、AIがイベントの企画アイデアを提案
職員のカウンセリング
職員がAIに悩みを入力し、AIが参考資料やアドバイスを提案
インシデント(ヒヤリハット)の検知
カメラ映像から子どもの転倒などをAIが検知し、職員に知らせる
ハンドブックでは、今回ご紹介した活用例だけでなく、その効果や実際に活用するうえでの課題、注意点も詳しく解説されています。ご自身の園ではどのような活用ができそうか、具体的なイメージを膨らませる上で参考となる内容がまとめられています。
ハンドブック事例編の詳細はこちらからご覧いただけます。
こども家庭庁が公開した「生成AI実践ハンドブック」は、「何ができるのか」という可能性から、「どう進めるのか」という具体的な計画、そして「何に気をつけるべきか」というリスク管理まで、必要な情報を網羅しています。
まずはこのハンドブックに目を通し、AI活用の全体像をつかむことをおすすめします。
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また、コドモンでは「保育AI」についてさまざまな取り組みを行っています。詳しくはこちらからご覧ください。
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