保育AIの「あるべき姿」とは? ~コドモン×とりんくが描く、保育と技術のあたらしい関係~

保育AI

2024年12月、AIを活用した子ども写真解析技術を開発・提供してきた株式会社とりんくが、保育・教育施設向けICTサービスを展開する株式会社コドモンのグループに加わりました。写真共有・販売の領域におけるサービス連携はもちろん、今後はAIを活用して保育業界の課題をどのように解決していくのか注目されます。今回は、コドモン代表の小池と、とりんく代表の山中に、グループ入りに至った背景や、両社が描く「保育AIのあるべき姿」について聞きました。

出会いのきっかけは、経産省の支援プログラム

ーおふたりが出会ったきっかけを教えてください。

山中:私がmeepaという子ども向け事業を始めたばかりの2022年の終わりごろ、経済産業省の「次代のEdTechイノベーター支援プログラム」に選ばれました。その際、経済産業省から紹介されたメンターのひとりが小池さんでした。

小池:当時meepaさんは、保護者向けのアプリを企画していましたよね?

山中:そうなんです。でも、事業の方向性に悩んでいた時期で、保護者向けから保育・教育施設向けへの方針転換を検討していました。そのとき小池さんから「施設の先生方や本部の方々に受け入れてもらって、はじめてサービスが成り立つ。だから施設の方々にしっかり向き合い、価値を届けることを考えたほうがいい」と言われました。それがとても心に響いたんです。

ーその後、「とりんく」の事業責任者になられたのですね。

山中:はい。最初は、「meepaを広げるうえで、保育業界にしっかり飛び込もう」と思い立ち、エクサウィザーズに入社し、子会社であるVisionWizに参画しました。そこで、同社が運営するAI写真サービス「とりんく」の事業開発責任者になりました。

ただ、とりんくを運営していくうちに、とりんくが持つ技術の可能性と、meepaが目指す「誰もが義務感じゃなく、情熱に従って生きられる社会」が重なっていると気づいたんです。meepaを通じて、子どもたちに多様な体験の機会を提供する。とりんくを通じて、子どもたちの様子を保育者の負荷なく記録・解析することで、それまで先生・保護者ですら見えていなかった子どもの育ちが可視化され、先生・保護者の子どもへの関わり方が変わる。それによってその子の人生が変わる。とりんくの技術力があれば、そんな未来を作っていけるのではという想いが日に日に高まっていきました。

ーとりんくのサービスの考えとご自身の実現したい世界像が重なったのですね。

山中:そうですね。meepaのために踏み出したはずの一歩が、気づけば自分自身の歩みそのものになっていて、今はとりんくの代表として、この事業に全力で向き合っています。とりんくの成長が、僕の実現したい社会の実現にもつながっている。そんな実感を持ちながら、日々働いています。

「meepaの進捗報告」という名目で小池さんにアポイントを取って、とりんくのことも紹介しましたよね(笑)。

小池:「写真から子どもを理解する」という、とりんくの発想はとてもおもしろいと感じました。ただ、当時のコドモンは写真共有・販売の体制が整っておらず、連携には至りませんでした。

コドモンが注目した、とりんくの「技術」と「人」

ーその後、どのような経緯でコドモンのグループに加わることになったのでしょうか?

山中:2024年7月の「保育博ウエスト」で偶然、ブースが隣同士になり、久しぶりに再会しました。

小池:その日のうちにデモンストレーションを見せてもらい、その後、改めてオンラインでサービスの説明を聞くなかで「これはすごい」と感じました。

当時、コドモンの写真共有・販売サービスは改善が難しい時期で、マーケティングだけでの成長には限界がありました。本当はプロダクト自体の改善が必要だと感じていたものの、社内のリソースでは難しかった。そのなかで、とりんくが持つ技術と知見に可能性を感じ、グループに加わってもらえれば、よりスムーズに改善が進むのではないかと期待しました。

山中:その後、数回の打ち合わせを経て、正式に資本提携の話が進みました。当時、親会社だったエクサウィザーズはAIに特化した企業で、保育・子育て業界での成長を志す当社の支援には限界がありました。多くの保育・教育施設に導入されているコドモンと組むことで、とりんくの技術がより活かせると考えたのです。

コドモングループ入りのタイミングで、それまで、とりんくの代表をしていたエクサウィザーズの役員が退くことになり、私が代表になりました。「とりんくを自分自身の力で伸ばしたい」と感じたんです。

ーとりんくのサービスを詳しく知って、どのように感じましたか?

小池:人の顔を解析する技術は世界中で進んでいますが、子どもの写真解析はまだまだ発展途上です。子どもの顔は変化が大きく解析が難しいため、サービス自体が少ない。そのなかで、とりんくはこの分野に特化しています。とりんくの技術は広く社会に届けるべきものだと感じました。コドモンのサービスとして活用するだけでなく、子どもの写真解析の知見を倫理基準を満たした上でオープンに共有したいです。技術を社会に還元することで、新しくさまざまな価値が生み出され、子どもを取り巻く環境がよりよいものになることにつながると感じています。

ー実際にコドモンにグループインしてみて、いかがでしたか?

山中:予想通りの部分もありましたが、本当にすごいと思ったのは、働くみなさん全員がコドモンのことを心から好きだということです。なぜこんなにもコドモンのことが好きなのか、どうやってこのような人たちを集め、どのように企業文化をつくり上げたのか、とても興味があります。

小池:その点は、とりんくとも共通していると思います。コドモンでは、ミッションに共感することを出発点に、先生や保護者、地域社会の課題を解決したいというメンバーが集まった会社で、利他的であることや社会に貢献したいという気持ちを大切にしています。とりんくのみなさんも同じ考えをお持ちですよね。

どうすれば世の中の人が喜んでくれるか」を常に考えて行動している点や、子ども×コミュニケーションに関わる事業という点で、根本の価値観が近いと感じます。また、コドモンは今後さらに技術を重視して、成長していきたいと考えています。とりんくのテクノロジードリブンな文化をコドモン側にも広げ、深めていくことができたらと思っています。

保育AIは保育者の専門性を支える補助ツール

ーおふたりが考える「保育AIのあるべき姿」について、教えてください。

小池:保育者の専門性をAIが代行するような世界は、望ましくないと考えています。人と人が関わり、育み合う大切な関係性のなかで、AIが判断を下すことはふさわしくありません。AIはあくまで、保育者の専門性を補助する存在であり、業務を自動化するためのツールに特化すべきです。たとえば、保育者に指示を出すようなAIはつくるべきではないと考えています。

山中:私も同じ考えです。保育や教育のように、人間同士の関わり合いを通して子どもの成長を支える仕事は、人が担うべきものだと思っています。だからといって保育現場にAIが不要かというと、そうではありません。AIを活用することで、業務を省力化し、子どもと向き合う時間を増やすことは、保育現場においてAIにできる重要な役割のひとつだと思っています。

AIは、保育者の隣に寄り添う「相棒」のような存在であるべきです。たとえば、先生が何気なく「今日、〇〇ちゃんがこんなことができた」とつぶやいた内容を記録し、あとでドキュメンテーションや連絡帳に活用できるような。そんな「先生の隣にいる相棒AI」があってもいいなと思っています。

ー具体的に、どういったことがAIで実現できるようになるとお考えですか?

小池:たとえば写真に関しては、AIの基本的な役割として、保護者より同意を得たうえで、不適切なものを除外したり、個人を特定したり、画像の質を向上させたりすることが挙げられますが、それ以上の可能性もあると考えています。
具体的には、写真から子どもの成長や興味・関心を読み取り、保育者の視点に加えてAIの視点からもフィードバックすることで、子ども一人ひとりに最適な環境や関わり方を提供できるようになるはずです。子どもの情緒的な成長の兆しをAIが写真から読み取ることで、新たに広がる価値があると考えています。

直近では、「情報収集と要約」「保育士へのフィードバック」「保護者との円滑な連携」の3つを軸にしたAIサービスを提供していきたいと思っています。

ーそれぞれ詳しくうかがえますか?

小池:保育施設には、子どもの成長に関するさまざまなデータが分散して存在しています。身長や体重の記録、過去の保育日誌などを毎回確認しながら成長記録や計画を立てる作業は、とても大変です。こうした情報の収集・要約は、AIで省力化できる部分です。

さらに、AIが複数の情報から得られる洞察に基づいたフィードバックをすることができれば、保育者自身がまだ気づいていないことを補完でき、保育の質を高めることにつながるのではないでしょうか。

そして、保育士が時間や配慮を要する業務の一つに、保護者とのコミュニケーションがあります。一度コミュニケーションを誤ると、そのあとの関係修復はとても大変なので、慎重な対応が求められます。保護者とのやりとりを円滑にするようなAIの活用も、今後推進していきたいですね。

ーAIで解決したい具体的な保育課題について教えてください。

小池:保育業界全体では、記録をデータで残して蓄積し、活用する習慣がまだまだ根付いているとはいえません。また、発達に特性のある子どもへの支援においては、保育だけでなく、療育や自治体との連携も求められます。センシティブな話ではありますが、虐待の兆候に気づいても証拠が残らないこともあり、データを記録し蓄積しておくことが、非常に重要になる場面があります。

コドモンは多くの保育・教育施設にご活用いただいているため、データ蓄積においてもっとも貢献できる立場にあります。その自覚があるからこそ、活用に必要なデータの蓄積を全力で推進したいと思っています。そして、膨大なデータを分析・判断し、人が解釈しやすいかたちに加工する工程には、AIが必要不可欠だと考えています。

ー保育園にあるさまざまな記録は、今目の前にいる子どもに向きがちですが、データとして次世代の子どもたちにつなげるということですね。

山中:私は「保護者も保育士も時間に余裕がない」ことが大きな課題だと感じています。その「余裕」を作るのがAIの役割だと思っています。子どもが何に興味を持ち、何を感じているのか。小さな変化に気づくための時間をどうすれば生み出せるのか、そこにこそ技術が貢献できると考えています。

一定期間の写真を振り返ることで、子どもの興味や関心、成長のポイントに気づけることがあります。「なんとなく感じていたけれど言葉にできなかったこと」や、「気づいていなかった視点」が、写真を通じて言葉になったり、見えてきたりすることもあるかもしれません。
単に業務の省力化を目指すのではなく、こうした「気づき」の視点も含めて、職員のみなさまにとっての時間的なゆとりを生み出していきたいと思っています。それこそが、私たちが目指す方向であり、そしてこれからの伸びしろだと感じています。

今後の展望、「子ども理解」を深めるプロダクトへ

ー今後どのようなことを実現していきたいか、展望をお聞かせください。

山中:とりんくの価値や可能性を、保育ICT、写真販売事業等を運営するさまざまなパートナーとの協業を通して業界全体に広めていきたいと考えています。とりんくの画像データと、パートナー各社の持つデータを組み合わせることで、子どもへの理解を深め、保育者や保護者がより早く、本質的に子どもを理解できるよう、価値を高めていきたいです。まずは、最も身近な存在であるコドモンと協力して新たな事例をつくり、日本の保育業界を支える存在になりたいと思っています。

コドモンとの協業の第一手としては、コドモンの写真共有・販売サービスにとりんくの技術を取り入れて、保育者の整理業務を補助することで、保護者がより手軽に多くの写真を受け取れるようにしていきます。保護者は保育園からの写真を通じて、子どもの様子を知り、安心感を得ることができます。子どもに関する情報が増えることで、保育者と保護者の関係も自然と良好になり、ストレスなく子育てができるようになるのではないかと期待しています。その後は、写真共有・販売だけでなく、連絡帳や記録など、写真を活用するあらゆるサービスで連携を進めていきたいです。

小池:とりんくにコドモンへ加わっていただいたのは、コドモンのICTサービスを強化することだけが目的ではありません。子ども・保育分野におけるAI技術をコドモンに集約し、さまざまな企業や公的機関、個人がオープンに技術を活用できる環境をつくりたいと考えています。

コドモンは、これまで蓄積してきた膨大なデータを、十分に社会へ還元できていませんでした。とりんくが持つ保育×写真AIの技術と、コドモンが持つ膨大なデータから匿名化・統計化した知見を、保育の質向上の役立てる形で安全に社会に還元することで、私たちのミッションである「子どもを取り巻く環境をよりよいものにする」ための基盤づくりに取り組んでいきたいと考えています。

今後は、とりんくとの連携を加速していきますが、そこには実証実験としての意味合いも大いに含まれています。さまざまな試験的な取り組みを行い、成功したものは積極的に外部にも提供していきたいです。

コドモンのAIの取り組みについてはこちらから>あるべき姿から考える「保育AI」

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