「保育AI」のあるべき姿とは? 〜とりんくが考える、子どもの未来を広げるためにAI写真ができること〜

保育AI

「子どもの写真がきっかけで家族の会話が増えた」「保育士の写真の選別・仕分け、撮影が大幅に軽減された」──。保育現場にそんなうれしい変化をもたらしているのが、画像認識技術を用いた保育施設向けのAI写真サービス「とりんく」です。

そんなとりんくが、2024年12月にコドモングループに加わりました。今回は、代表取締役の山中と開発をリードするプロダクトマネージャーの若狭に、保育におけるAI写真活用の意義や今後の展望について聞きました。

「AI技術で社会課題を解決したい」──異業種から保育業界へ飛び込んだ理由

── まずはお二人のこれまでのキャリアについて教えてください。

若狭:私は新卒でIT企業のDeNAに入社し、営業、マーケティング、エンジニアなど、さまざまな職種に携わってきました。スマートフォン向けゲームのプロデューサーやタクシーの配車アプリなど、幅広い分野のサービス開発に関わる中で、「ユーザーを楽しませる」だけではなく、「課題を解決する価値提供」がしたいという思いが強くなり、AIベンチャーのエクサウィザーズに転職しました。

当時(2020年頃)は、AIの精度もまだ低く、実用化の可否も不透明でした。でも、それがむしろ「自分の頑張り次第で社会に広められる可能性がある」チャンスだと感じたんです。

山中:私は、「子どもたちが本当の『好き』に出会える世界をつくりたい」という思いで2020年からプロジェクトとして取り組んでいたmeepaを、2023年に兼業で法人化しました。その中で、保育現場をもっと深く理解しなければサービスを成長させるのは難しいと感じていたところ、エクサウィザーズからとりんくの事業責任者のオファーをいただきました。

とりんく参画後、魅力的なプロダクトに加え、高い専門性と人間性を持って現場の課題に真摯に向き合うチームと出会いました。「ここなら本気で保育の未来に貢献できる」と感じて、どんどんとコミットメント度合いを高めていくうちに、2024年12月のコドモングループ入りのタイミングで、とりんくの代表に着任することになりました。

「撮影は楽しい。でも、その後が大変」現場の声から見えてきた本当の課題

── とりんくが生まれたきっかけをうかがえますか?

若狭:最初は、定点AIカメラを活用してよい写真を自動で撮影・選別できるカメラを使った事業を立ち上げよう、という技術主導の発想からスタートしました。
どの業界がAIカメラとの親和性が高いのか、いくつか実験を進める中で、室内が明るく撮影者と被写体との距離が近い保育園はAIカメラと技術的な相性がよいことが見えてきたんです。

しかし実際に、複数の保育園に定点AIカメラを設置させてもらい実証実験を進める中で、定点カメラの設置や運用にはさまざまな課題があることがわかってきました。たとえば、カメラの設置自体が大変だったり、設置することで園の美観を損ねたり、画角が固定されてしまうためにいつも似たような写真になってしまうことなどです。

若狭:そこから会社としても方針を転換し、AIカメラに固執せず、保育課題にしっかり向き合ってサービス提供することに決めました。AIで解決すべき「保育現場にとっての課題は何なのか」を改めて見つめ直したんです。

ー改めて保育現場に向き合う決心をされたのですね。具体的には、どんな課題が見えてきましたか?

若狭:撮影後の写真の整理が現場の負担になっていることがわかってきました。先生たちに話をうかがうと、写真撮影自体は楽しんでいる方が多かったのですが、撮影後の写真の選別・管理の負担が大きく、それが撮影控えにつながっている施設もあると知りました。「撮るのは楽しい。でもそのあとの写真の『整理』が大変」という本質的な課題に気づきました。

山中:これは大きな転換点だったと思います。「AIで写真を撮る」から「AIで写真を整理する」へ。プロダクトの方向性が大きく変わった瞬間でした。

若狭:そうですね。写真の選別、仕分け、販売準備、個人情報への配慮など、写真販売の裏側の作業はとても煩雑です。楽しく撮った写真も、管理の負担を考えると、なかなか撮れなくなってしまう……。そんな悩みを抱える先生がたくさんいらっしゃいました。

だからこそ、撮影は先生にお任せし、その後の管理をAIで徹底的にサポートする。そこに大きな価値があると感じました。

「とりんくの写真を通じて子どもとの会話が増えた」の声に涙

── 現場での反応はいかがでしたか? 特に印象的だったエピソードがあれば教えてください。

若狭:ある保育園が保護者向けに実施した、とりんくについてのアンケート結果を共有してくれたんです。そこで、9割近い保護者の方が「とりんくの写真を通じて子どもとの会話が増えた」と回答されていて、泣くほどうれしかったです(笑)。

実は、とりんくというサービス名には、「子どもとつながる(リンクする)」という意味があるんです。アンケートでは、「『今日何したの?』と聞いても答えてくれなかった子が、写真を見ながらだとたくさん話してくれる」「お友だちの名前を教えてくれた」「お父さんも会話に参加するようになった」などの声をいただいて、まさに「とりんく=つながる」だと感じました。

山中:私は、ある園長先生から聞いた忘れられないエピソードがあります。その園では「不適切保育のニュースを見て不安だったけど、とりんくで送られてくる写真を見て安心した」という声が保護者からあったそうなんです。
それまで私たちは、写真にまつわる業務負担を減らすことができるのがとりんくの最大の価値だと思っていました。ただこの話を聞いて、それだけでなく、写真が保護者の安心や園への信頼につながり、保育者にとっても働きやすい環境が生まれるという好循環が実現できると強く感じました。

── お二人が、特に思い入れのある機能や技術があれば教えてください。

若狭:やはり「AIによる写真のスコアリング」ですね。子どもの写り具合や表情、構図などをAIが自動で評価して、いい写真を選んでくれる機能です。園児の顔を判別して、ひとりずつスコアリングできるのは、保育業界だけでなく、一般的にもまだ珍しい技術だと思います。

もうひとつは「自動レタッチ」機能です。逆光や暗所で撮影された写真も、自動で明るく補正してくれます。iPod touchなど、画質があまりよくない端末でも、販売できるレベルの写真が撮れるようになったのは大きな成果です。

山中:私もスコアリングには強い思い入れがあります。この機能があるからこそ、写真販売事業者さんにも「とりんくと一緒に取り組みたい」と言っていただけることが多いです。保育者・販売者・保護者、すべての関係者にとってメリットがある機能だと感じています。

なぜコドモングループに?──グループ入りの決断と、その裏にあった想い

── とりんくにたくさんの強みがあるなかで、コドモングループにジョインすることになった背景を教えてください。

山中:とりんくを今後さらに大きく成長させ、よりよいものにしていくには、「非連続的な成長」が必要だと感じていました。グループ入り前も、おかげさまで年間200〜300施設のペースで利用いただく施設は増えていたものの、目指していたのは年間2,000〜3,000施設の新規導入でした。10年かけて少しずつ……という道のりではなく、もっとスピード感を持って広げ、より多くの施設で活用いただくためには外部の力が必要だと考えていました。

とりんくの親会社だったエクサウィザーズはAIに強みがあり、さまざまな業界への横展開を進めていましたが、保育業界に特化した知見やネットワークは持っていませんでした。とりんくをより多くの保育施設に届け、価値を提供していくためには、業界での知見がありプロダクトとして顧客基盤を持っている会社と連携するのがいいのではないかと思い、自然とコドモンにたどり着きました。

── では、グループ入りが決まったときのお気持ちは、いかがでしたか?

若狭:私はもう、素直に「嬉しい!」という気持ちでした。4年ほど前に、たまたま「Clubhouse」というSNSで、代表の小池さんが若手保育者の方々と対話しているのを聞いたことがあったんです。

その中で、「“営業”ではなく“普及”」であるとおっしゃっていて。「導入してもらうこと」をゴールに置くのではなく、その先で「使ってよかった」と思ってもらうところまでを見据えてサービスづくりしているんだと感じました。コドモンが単なるツール提供にとどまらず、本気で保育業界の変革を担おうという強い使命感が伝わってきて、深く感銘を受けました。

だから今回、「志ある仲間」であるコドモンと一緒に歩めること、とりんくの技術がより多くの子どもたちに届く未来を描けることに、大きな期待と喜びを感じています。

── そう言っていただけてうれしいです。山中さんはいかがですか?

山中:僕も同じ想いです。代表の小池さんには、meepaとして採択された経済産業省のプログラムでお世話になりました。また執行役員の足立さんと一度、保育施設への普及活動について1時間ほどお話させてもらったことがあって。そのときの話が本当に背筋の伸びる内容で、「自分たちはもっと保育業界について考えなければいけない」と強く感じさせられました。その後、「この視点を自分たちのサービスにどう活かせるか?」と試行錯誤していました。

なので今回、一緒に仕事ができることが本当に嬉しいですし、保育ICTの未来を本気で考えている仲間と手を取り合えることが、いまの自分の大きなモチベーションのひとつになっています。

若狭:私もです。特に「普及の担い手でありたい」という考え方に共感していたので、同じ方向を向いて取り組めることが、何より心強いです。

学びや個性を可視化し、子どもの人生を変える

── AIで解決したい、具体的な保育業界の課題についてもうかがえますか?

山中:私は「保護者も保育士も余裕がない」ことが大きな課題だと感じています。その「余裕」を作るのがAIの役割だと思っています。子どもが何に興味を持ち、何を感じているのか。小さな変化に気づくための余裕をどうすれば生み出せるのか、そこにこそ技術が貢献できると考えています。

若狭:そうですね。写真関連の課題でいうと、最も大きいのは「写真の共有頻度が少ない」という点です。仮に先生たちがもっと気軽に毎週、できれば毎日写真を共有したいと考えていたとしても、それが実現できていないのは、写真の管理作業が煩雑だからです。

とりんくがその負担を限りなくゼロに近づけることができれば、「撮るだけで保護者に写真が届く」世界が実現できるはずです。そこから生まれる親子の会話、施設への信頼、さらに写真販売による収益が新しいスマートフォンの購入などの環境整備につながる──。そんな好循環を描いていけたらと思っています。

── 今後、とりんくが実現していきたいことについて教えてください。

山中:とりんくの価値や可能性を、コドモンというプロダクトを通して業界全体に広めていきたいと考えています。とりんくの画像データと、コドモンのテキストデータを組み合わせることで、子どもへの理解を深め、保育者や保護者がより早く、本質的に子どもを理解できるよう、価値を高めていきたいです。コドモンと協力して新たな事例をつくり、日本の保育業界を支える存在になりたいと思っています。

若狭:そのための第一歩として、まずは「どの施設でも、当たり前に写真を保護者と共有できる世界」を実現したいです。連絡帳、写真販売、ドキュメンテーションなど、コドモンのサービスと連携しながら、撮るだけで「共有が完了する」未来をつくっていきたいです。

山中:私たちの最初の目標は「写真の整理と共有」でした。次のステップは、「子どもの様子をAIが言語化する」ことです。たとえば、写真から「この子はコマを回すことに興味がある」「風と凧の関係性を学んでいる」といった具合に、それまで見えていなかった子ども一人ひとりの学びや個性を見える化することで、保育者や保護者の子どもへの理解が深まり、その先でその子の人生が変わる可能性もあるのではないかと考えています。

コドモンのAIの取り組みについてはこちら>あるべき姿から考える「保育AI」

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