保育現場に広がるAI活用の今とこれから~活用事例や国の取り組みに学ぶ~

保育AI 政策解説

社会全体でDX化が進むなか、保育の現場でもAIの活用が少しずつ広がり始めています。こうした動きを受けて、政府も保育現場でのAI活用に向けた支援や制度づくりを進めています。

背景にあるのは、少子高齢化による労働人口の減少という社会全体の課題です。特に保育業界の人手不足は深刻化しており、保育者の負担を軽減し、子どもたちによりよい保育を届けるために、AI活用への期待が高まっています。

この記事では、保育の現場で広がり始めたAI活用の具体例と、それを後押しする国の取り組みについてご紹介します

保育現場でのAI活用の具体例

保育現場におけるAIの活用は、自治体や保育施設の自主的な取り組みを中心に広がり、国もその動きを受けて支援策やガイドライン整備を進めています。まずは、実際に保育現場で活用が進みつつある注目の保育AI活用の具体例を紹介します。

子どもの安全管理

午睡中の体動や呼吸の異常を検知する午睡センサー、AI画像解析による見守りカメラの活用が進んでいます。AIカメラと画像認識技術を組み合わせることで、必要に応じて見守りができる仕組みも整い始めており、特に午睡時の見守りシステムは、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク低減に効果を発揮すると考えられています。センサーやカメラが「もうひとつの目」として見守りを補助してくれることで、保育者の省力化と心のゆとりにつながっています。

ただし、子どもの呼吸や顔色、体勢など、微細な変化や異常は人の目でしか捉えられないこともあります。機器による見守りはあくまで補助的な役割で、保育者による定期的な目視確認が重要であることに変わりはありません。


(午睡チェックサービスの具体例)

写真撮影・分類・販売

AIを活用することで、保育中の子どもの写真撮影・分類・販売を自動化します。子どもの表情や動きを検知して自動で撮影ができる他、AIの顔認識技術で自動的に子どもごとに写真が分類できたり、ブレやボケを自動判別することで高品質な写真だけを販売することもできます。
また、撮影した写真をオンライン上で販売することで、保育者にとっては写真の掲示や集金等の業務を省力化でき、保護者にとっては利便性が向上します。

保育計画・書類作成のサポート

保育計画や児童票などの書類作成をサポートするAIも登場しています。保育者はキーワードや子どもの発達データを入力するだけで、その子に合った保育活動の提案や、わかりやすい文章の自動生成が行われる仕組みです。これにより、経験の浅い保育者でも質の高い計画を短時間で立てることができます。その他、過去に記録したデータをAIが読み取り、集約した文章生成をするAI技術も広がっており、1年の振り返りや時系列での成長記録の作成にも応用されています。
また、発達支援が必要な子どもに対しては、専門的かつ客観的な視点をもった高度な活用が可能になることにも期待が高まっています。

シフト作成・労務管理の効率化支援

保育現場の労務管理は、子どもの人数や年齢に応じた配置基準に加え、職員ごとの勤務条件や休憩時間の確保など配慮が必要な点が多くあり非常に複雑です。AIを活用したシフト作成支援システムでは、こうした多様な条件をもとにシフト案を自動でつくることができます。作成にかかる時間や手間を軽減しながら、人為的なミスを防ぎ、公平性や働きやすさ、法令にも配慮したシフト管理を実現できます。

保護者とのコミュニケーション支援

AIチャットボットを用いた問い合わせ対応システムが実用化されており、保護者からの質問や相談に、必要に応じて24時間自動で応答できる仕組みもあります。また、多言語対応のAI自動翻訳機能があれば、外国籍の保護者とも円滑なコミュニケーションが可能になります。

入所選考の自動化

保育所の入所選考においてもAIが実用化されています。数千人分の児童の選考を数秒で完了できるのはもちろん、複雑な入所選考基準にもとづいた優先順位付けやきょうだい同時入所希望など、さまざまな要望を踏まえて最適な入所判定をすることができます。

国の方針から見る保育AI活用の位置づけ

保育現場でAIの活用が広がり始める中、国もさまざまな支援や制度づくりを通じて、この流れを後押ししています。国の方針や支援制度を知っておくことは、今後、AI活用を考えるうえでの大切なポイントになってきます。
ここでは、保育AI活用に対する国の構想(ビジョン)や、現在進められている取り組みについてご紹介します。

デジタルの力で都市と地方の垣根をなくす構想

国は、デジタル技術によってどの地方でも都市部と同じ利便性を叶え、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を実現するためのビジョンを掲げています。
これを「デジタル田園都市構想」といい、保育分野はこの構想の重点分野のひとつとされています。

(参考:デジタル田園都市構想リーフレット

保育施設のICT導入を支援する補助金

こども家庭庁は、将来的なAIの活用を見すえた保育のデジタル化の第一歩として、保育施設のICTを支援する補助金(ICT補助金)を交付しています。この取り組みを「ICT化推進事業」といいます。登降園の管理や保育記録などをデジタル化することで、保育者の負担を低減し、保護者にとっても便利な環境を提供します。

(令和7年5月時点の保育ICTシステム導入に使える補助金)

保育現場の安全対策ツールの導入を支援する補助金

重大事故の防止や子どもの安全確保に向けて、午睡センサーやAI見守りカメラといった安全に関わるテクノロジーの導入を支援する補助金が交付されています(上図の安全対策事業①・②)。
この取り組みは、こども家庭庁の「保育環境改善等事業」の一環として実施され、保育現場における安全対策の強化が図られています。

参考:こども家庭庁┃令和7年度 保育関係予算概算の概要

ICT・安全対策事業の導入補助金については「【最新版】保育ICTシステム導入に使える補助金を解説~種類・金額・申請の流れがわかる~」もご参考にしてください。

ICT・AI活用のロールモデルとなる施設の創出

保育施設、民間事業者、自治体が連携し、日々の業務にICTやAIを取り入れ、業務負担の軽減や保育の質向上をめざすモデル事業が計画されています。この取り組みを「保育ICTラボ事業」といいます。取り組みの結果は、他の施設でも活用できるよう事例集として整理・共有される予定です。

保育現場における生成AI活用ガイドラインの策定

こども家庭庁では、自治体の子育て支援や保育現場の生成AI活用に向けたガイドラインの検討が進められています。有識者による検討会で、活用できる業務の内容や想定されるリスク、トラブルが起きたときの対応方法などについて話し合いが行われています。また、いくつかの自治体で行われた実証実験の結果もふまえながら、保育現場でも安心してAIを活用できるよう、基準づくりが進められています。

国の支援体制が進む中、保育AIの活用はすでに多くの現場で実践され始めています。一方で、導入には慎重な姿勢も必要です。次に、保育AIの活用に伴う課題と今後の展望について考えていきましょう。

保育AI導入における課題と展望

AIは保育の現場をよりよくする可能性を秘めていますが、同時に倫理的な課題も存在します。ここでは、子どもの権利や現場の実情に配慮した慎重な導入の必要性と、今後の課題と展望を整理してみましょう。

倫理的な課題

保育AIの導入にあたっては、個人情報の管理に加え、保育者が子どもとしっかり関わる時間や関係性を損なわないような活用方針が求められます。こども家庭庁が現在策定を進めている「AI利活用ガイドライン」では、こうした倫理的課題への対応策が示される見込みです。

今後の展望

今後、保育AIは、ガイドライン策定を経て成功事例が蓄積されることで、より幅広い施設での導入が期待されています。同時に、すべての保育施設がAIを利用するための環境整備や研修の提供も求められています。

保育AIは単なる省力化のツールではなく、保育の質を高めるパートナーとして活用されていくことが期待されています。データを活かした個別対応や早めの課題発見、保護者との連携強化など、その活用の幅はさらに広がっていくでしょう。

まとめ

本記事では、保育AIに関する国の取り組みや、実際の活用事例を紹介しました。
国が保育AIをここまで積極的に推進している背景には、保育現場の負担を減らし、子どもたちの未来のためによりよい保育を提供したいという強い思いがあります。
まずはこうした国の動きを知ることから始め、「自分たちの園で使うとしたら、どんな可能性があるか」を一緒に考えてみませんか。

コドモンは、新たな技術である「保育AI」を、子どもたちや保育の未来のためにどう活かしていくのか、「保育現場でのあるべき姿」をもとに保育者のみなさんと適切な活用について一緒に模索したいと考え、保育施設での実証実験や専門家へのインタビューを進めています。
ぜひこちらもご覧ください。

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