園長先生の負担を減らしたい! 5分で学べる基礎研修「自学自習モード」ができるまで

コドモンの取り組み

2024年3月にリリースし、現在3,000以上の施設で8,000人以上の職員のみなさまにご利用いただいている、オンライン基礎研修サービス「基礎研修(自学自習モード)」(以下、自学自習モード)。スキマ時間を使って、すべての職員が「必要な知識」と「自ら学ぶ姿勢」を身につけるためのサービスです。今回は、サービスの発案者である執行役員 兼 普及推進部ゼネラルマネージャーの足立賢信と、ディレクションを担当したマーケティンググループの鈴木真理子に、自学自習モード誕生の裏話と今後の展望を聞きました。

はじまりは「園長先生の研修負担を減らしたい」という想いから

ー自学自習モードが生まれたきっかけを教えてください。

足立:始まりは2022年の秋ごろ、園長先生の負担が少ない形で、職員の方が自ら学ぶ状態をつくれないかと考えたところからでした。コドモンカレッジ(保育の質向上・学びの機会創出を支援する無料オンライン研修事業)をご案内していく中で、それまでの研修形態では解決できない課題があることが見えてきました。それは、研修における園長先生の負担の大きさです。

コドモンカレッジを活用している施設の先生方にヒアリングをしたところ、活用が進んでいるかどうかは「園長先生がどれだけ研修準備に時間や手間をかけられているか」に比例する傾向がありました。職員が研修を受けるために、こまめに受講を呼びかけたり、シフトの調整をしたり。また職員が学んで問題がない内容なのか、事前に自分で研修動画を見て確認してから共有したり……。とにかく園長先生が研修環境を整えるためにありとあらゆることをやっていることがわかりました。

それだけ手間をかけてでも職員に学んでもらいたい想いがある一方で、多くの園長先生は他の業務もあり、忙しい中でそこまで手がまわらないのも現実。結局、職員任せになってしまうと、一部の意識の高い職員以外は、研修の受講が思うように進まない状態にあると知りました。

ー多忙な園長先生にとって、研修が大きな負担のひとつになっていたのですね。

足立:そうなんです。この園長先生の負荷が高い状況をなんとかできないかと思っていたとき、たまたま介護施設の職員に研修サービスを提供している会社の方と話す機会があったんです。その方が「短時間で学ぶ『マイクロラーニング』と呼ばれる研修手法をオンラインで提供することで、忙しい介護職員さんにもたくさん研修を受けてもらってます」と言うのを聞いて、「これだ!」と思いました。

マイクロラーニングの効能を調べたところ、ベネッセさんの研究で一度に長時間学ぶよりも、短時間に区分けして勉強した方が学びの定着率も高いことがわかりました。そこで、その会社さんにご相談したところ、快くOKをいただいて、保育園・幼稚園・こども園・学童の職員の方向けに同じようなマイクロラーニングを提供できるサービスをつくろうということになりました。

鈴木:足立さんから話を聞いて、実際に介護施設向けに提供されている研修サービスをさわらせてもらったときは「なんだか、おもしろそう!」と思いました。それまで施設にヒアリングをする中で、研修実施はすごく大変そうな印象がありましたし、私の子どもも保育園に通っているので、職員の方の多忙さは日頃から感じていました。もし5分で受けられる研修があれば、忙しい先生たちにも負担なく受けていただけるかもしれない、と可能性を感じました。

保育士メンバーの意見を受けて、テーマは「どの施設・職員にも必要な基礎的な領域」に

ー扱う研修テーマは、どのように決めたのですか?

足立:マイクロラーニングで提供する研修内容としてどんなテーマを扱うかはすごく悩みました。なぜなら保育は正解がひとつではなく、施設によってそれぞれの方針があるからです。施設ごとに正解が異なる研修テーマを扱うと、これまでのように園長先生が自園に合うか、問題がないか、職員共有前に事前チェックする手間が必要になってしまいます。それでは園長先生の負担は減りません。そこで、事前チェックが必要なく、かつ職員の方たちに学んでもらった方がいいテーマってなんだろう? と考えました。

鈴木:テーマ選びでは、コドモンカレッジを運営する元保育士のメンバーの意見がすごく参考になりましたよね。

足立:そうでしたね。コドモンで働く元保育士のメンバーたちに相談する中で出てきたのが、衛生管理や安全面、 社会人としてのマナーなど、すべての保育にまつわる人が学んでおくべきテーマを扱うのがよいのでは? という案でした。特に衛生管理などは、コロナが流行したことでだいぶやり方も変わりましたし、法令・人権についても、厚生労働省の「保育所保育指針」が数年に一度変わるので、都度、認識をアップデートする必要もありますし……。

ーどの施設でも変わらない、基礎的な部分を扱うことにしたのですね。

足立:はい。こういう必ず抑えておくべき基礎的な知識って、教える側からしても教わる側からしても、正直、学んで楽しいジャンルではないと思うんです。でもやっぱり、こども施設の職員だったらどこで勤務するにしても、全員が共通認識として押さえておきたいところでもあります。だとしたら、基礎的な研修ジャンルに的を絞ることで、「園長先生の研修にまつわる負担を減らせるのではないか?」「 私たちが関わることで、職員の方が自主的に学びたいと意欲が湧くような環境づくりができるのではないか? 」と考えたわけです。

ー社内の理解はすぐに得られたのですか?

足立:鈴木さんは「おもしろそう」と言ってくれましたが、当時周りに共有したときは「正直、ちょっとイメージが湧きません」「それ、本当にニーズあるんですか?」といったリアクションが多かったです。小池さん(コドモン代表)からは、「いったんお客さまに話してみて、もし本当に求めている方が多いのであれば、つくってみましょう」と言ってもらえました。私自身、介護施設さんでうまくいった研修が、そのまま保育施設で受け入れられるのか、またこの研修ジャンルで大丈夫なのかは不安だったので、全部で20施設ほどに直接ご案内をさせていただきました。

ー実際に話してみて反応はどうでしたか?

足立:やはり従来の研修では「職員に声がけするのが大変」とか、「事前に全部自分で見てからなので、研修準備は時間がかかる」といった声が多かったです。もし職員が自主的に学んでくれる形になればすごくいいし、特にどの職員でも絶対に必要な基礎的な領域を研修テーマに扱ってくれるのはすごく有難いです、と言っていただきました。

鈴木:私もヒアリングしていく中で、「まさしくそこ!保育の本丸ではなく基礎の部分の徹底なんです!」って言ってくださる施設さんがたくさんありました。新人研修はもちろん、実は「ベテランの先生にこそぜひ受けてほしい内容」だと言っていただけたのがすごく印象的でした。保育業務における基準や常識は変化が大きいので、久しぶりに保育現場に戻ってきたブランクがある先生こそ、今の基礎知識の習得が必要だと聞いたとき、これは喜んでいただけそうと思いました。全体的にすごく好意的な声が多かったですね。

足立:そうですね。お客さまの反応から手応えを感じ、2023年秋ごろに自学自習モードの開発を始めることが本格的に決まりました。

1研修5分〜。スキマ時間にいつでもどこでも受講できる

ーサービスを開発するうえで、特にこだわった点を教えてください。

足立:一番は研修動画を短時間で受講できるようまとめたことです。ひとつの研修を5分から10分の短時間でつくっているので、大きなシフト調整をしなくても、少し時間が空いたので……といった保育のスキマ時間にも受講いただけます。研修の内容面については、基礎領域はあまりおもしろがって学べるジャンルではないからこそ、少しでも楽しんで受講いただくために何ができるか? というところは意識していました。

鈴木:そうですね。「研修への抵抗感がなくなる内容・デザイン」は、開発チームとも一番大事にしていたポイントです。レベルの切り替えボタンひとつとっても、思わず押したくなるような遊び心のある見た目になるよう工夫しています。


(自学自習モードのレベル切り替え画面。イラストも多くポップな印象)

足立:例えば、楽しんで学んでもらうための工夫のひとつとして、レベルアップの演出があります。当初は、ひとつのレベルをクリアしたときに表示されるお祝いの画面も、無音だったんです。そのままでも十分お祝い感はあったのですが、チームで話しているときに、誰かが「これ、お祝い感がある音を出してもいいのかも?」と言い出したんです。それで、みんなでいろんな音を聴き比べて、最終的に「先生たちが一番喜ぶのはこれなんじゃないか」となったのが、子どもたちが「わーい!」とはしゃぐ声でした。レベルをクリアするたびに、子どもたちが盛り上げてくれますので、それはぜひみなさんに聞いてみてほしいです。


(パソコン版のクリア画面。スマホ版では、合格を祝う子どもたちの歓声が流れる)

足立:あとは、端末の台数が足りない施設でも気軽に受講いただけるように、私物のスマホからアクセスしてもらえるような環境を用意しました。

鈴木:自学自習モードができる前は、コドモンカレッジはパソコンからしか視聴できなかったんです。でも今回、職員の方が受講しやすいように、私物のスマホからでもセキュリティ上問題なく、研修だけにアクセスできる専用ログイン画面をコドモン本体とは別に新たに制作しました。利用者が抵抗感なく、スマホでどこでも使えるようにと意識してつくっています。

足立:あと、園長先生向けの開発でいうと、都度職員に研修を受けたかを確認しなくても、「誰がどれだけ学んだか、進捗状況がひと目でわかる管理画面」をつくりましたよね。

鈴木:そうですね。この管理画面も施設外で個人情報が見れないようにIPアドレス制限をかけている施設についてはそこに対応できる形をとり、セキュリティ面もクリアにしました。実は今回、外部の開発会社さんの力もかりながら制作したんです。社内外の調整は、大変なこともありましたが、どの施設でも安心して使っていただくためにこだわったポイントです。

ブランクがある先生にも、今の時代に合った保育観に切り替えてもらえた

ー実際に自学自習モードをリリースしてみて、いかがですか?

足立:おかげさまでリリースから8か月で、すでに3,000施設以上・8,000人超の職員の方に使っていただいています。できるだけ多くの施設様に使っていただきたかったので、コドモン利用施設であれば、追加料金なしにどこでも使える基本サービス「コドモンベーシック(月5,500円〜)」の料金内で使っていただけるように設定しています。

ー利用施設のみなさんの反応はいかがですか?

足立:「職員が自主的に学ぶようになった」とか「互いに声を掛け合って学ぶ姿に感激した」とか、嬉しいお言葉をたくさんいただいています。あとは、監査の際に行政の担当者に自学自習の管理画面を見せたところ、「もうこんなに進められてるんですか? 職員研修ばっちりですね!」と言われた、という話もすごく嬉しかったですね。

鈴木:ある施設の園長先生が、「職員一人ひとりが、一次情報として研修での学びを得られるようになった」と言ってくださったのが印象的です。外部研修だと、施設から1人しか参加できないことも多いので、他の職員は伝聞形式でしか内容を学べなかったそうなんです。
さらにその後、自学自習モードを受けた職員の方が、短時間の研修だと物足りなさを感じて、自主的にコドモンカレッジの60分動画を視聴する動きも生まれたと聞きました。「自学自習モードを使い始めたことで、学びへの抵抗感がなくなった」とおっしゃっているのを聞いて……涙が出るくらい嬉しかったです!

足立:「どうしたら研修への抵抗感を減らせるか」は、自学自習モードをつくる上でずっと意識していたことだから嬉しいですよね。

鈴木:本当にそうですね。自学自習モードを受けることで、新たに職員間のコミュニケーションが生まれたというお話もありました。「これ受けた?」「どうだった?」といった会話って、多分、職員全員が同じものを見ているからこそ生まれる会話だと思うんです。先生たち同士で意見交換しながら、楽しく学んでもらえる研修になっているのだと感じて、やってよかったと思いました。

足立:ブランクがある年長者に対して、過去と現在の保育の違いをどう伝えるか、苦心していた園長先生が「自学自習モードを受けてもらうことで、今の時代に合った保育の考え方に切り替えてもらえてとても助かっている」と言ってくださったのも、嬉しかったですね。自学自習モードは受講する職員数に上限がないので、保育補助の方やパートの方など雇用形態や職種に関わらず、こども施設の職員すべての方に見ていただくことができるんです。

健康診断感覚で、毎年受講を。知識をアップデートするきっかけに

ー今回、施設の困りごとを起点とし、ヒアリングを重ねながらサービスを形にする、非常にコドモンらしいものづくりの姿勢を感じます。

足立:そうですね。実は、自学自習モードの大元になったコドモンカレッジも、現場の保育者の方々の声から生まれたサービスなんです。数年前「クラブハウス」という音声SNSが流行ったとき、コドモン代表の小池さんが保育者の方たちが集まるルームに参加したそうなんです。そのとき、参加者の方から「コロナの流行で、研修する場所がなくなってしまいました。なんとかなりませんか、コドモンさん」と、言われたことがきっかけで、すべての保育者が場所や時間にとらわれず、オンラインで学べる研修を提供できないか? と考えてつくったサービスがコドモンカレッジなんです。

鈴木:すごくコドモンっぽいエピソードですよね。常に施設の声をベースにものづくりをするコドモンの姿勢には、私もすごく共感しています。保育現場には、まだ解決策が見えていない困りごとがたくさんあると思うので、施設の方の声を大切にしながら、どんどん新しいアイデアを出していきたいです。

足立:鈴木さんは前職までは、他社から依頼を受けてサービスを開発する受託会社で勤務していたんですよね。コドモンに転職後、自社サービスに携わるようになって何か変化はありましたか?

鈴木:受託の会社でサービスをつくっているときって、「つくって終わり」だったんです。そのあとの集客方法や、機能改善を私が考える必要はありませんでした。だから今は、どうしたら自学自習モードをよりよくできるか、いろんな人の声を聞きながら「ああでもないこうでもない」と考え続ける日々が、すごく楽しいです。こうした体験は、私にとってははじめてのことで、これまでのつくって終わりからもう一歩、思考が深くなったような気がしています。

ー今後、どんな施設に自学自習モードを使ってほしいですか?

足立:職員が自主的に学んでくれる職場環境をつくりたい場合はもちろん、職員間で知識量や知識の定着に差があるなと思う園長先生には、ぜひ使っていただきたいです。保育観がどんどん変わるこの時代、施設内だけで最新の情報をアップデートし続けるのはとても大変だと思います。自学自習モードは、最新の情報に合わせて随時内容を更新するので、健康診断のような感覚で、毎年受け直して基礎を学んでいただくのもよいのかなと感じています。

鈴木:「研修時間が足りない」という意識がある施設の方にこそ、一度使ってみてほしいです。おこがましいですが、私たちとしては、研修を少しでも楽しんでいただきたい、抵抗感を下げて先生同士が学び合える環境を整えたい、という想いでつくっているので、どんなものなのか一度試してみていただけたら嬉しいです。

足立:最近、新たに「手遊び」というテーマを追加しました。まずはこういったとっつきやすいテーマから見ていただいて、慣れたら広げていただくのもありですよね。あとは「正解がよくわからない」「職員によって考え方や意見が割れる」とたくさんの方からご相談いただく「児童の発達支援」も、最近加わったテーマのひとつです。


(渋谷区子ども発達相談センター チーフアドバイザー / 公認心理師 市川奈緒子先生の講義より)

足立:年々、支援の対象になるお子さんも増えてきていると聞いています。まずはベースとなる知識や職員間の共通認識を揃えるために、自学自習モードを活用していただけたら嬉しいです。

ー最後に、今後の目標を教えてください。

鈴木:自学自習モードについていえば、職員の方の学びへのモチベーションを上げるための機能はもう少しつくり込んでいきたいです。勉強って、強制されるとやりたくなくなるじゃないですか。だからこそ自分から、やってみようかな? と思える「楽しさ」があるサービスにしていきたいんです。

足立:大きい目線でいくと、コドモンのサービスコンセプトである「すべての先生に子どもと向き合う時間と心のゆとりを」を実現していきたいです。代わりがないだけで、本当は保育者がする必要がない業務など、今は時間がとられてしまっている部分を、できるだけテクノロジーの力で代替したいです。

それによって、本来保育者の方々がもっとも時間を割くべき、子どもたちに向き合う時間や、よりよい保育を追求する心のゆとりを生みたいという想いは常に持っています。ICTという枠組みにとらわれずに、今後もコドモンとしてこういったサービスをどんどん増やしていきたいです。

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