「すてきな園長先生」は、コドモンが運営する保育施設の園長先生のインタビュー企画です。2024年の連載開始からちょうど1年が経ちました。企画が生まれた背景や、業界内での反響、取材を通じて見えてきたことなどについて、企画を担当する普及推進部の増田に話を聞きました。
増田早希
普及推進部 マーケティンググループ所属。出版社、子育て系のITベンチャー、女性向けサービスでの起業等を経て、2024年8月コドモンに入社。
増田:保育施設の園長先生を対象に、保育に対する熱い思い、ご自身のこれまでのキャリアや経験などを丁寧に伺い、記事として紹介するインタビュー連載です。
当初、取材対象の先生を探すときには、「この企画に合った先生を知りませんか?」と社内で推薦を募りました。その後は、園長先生同士の紹介や、一般向けに公開している推薦フォームなどを通じて広がり、これまでの1年で30名以上の園長先生にお話をうかがいました。
増田:現在の保育業界では、園長先生の思いや考えが外部に伝わる機会がなかなかありません。結果として、現場の職員の方々が自分のキャリアプランを描きづらく、園長職を希望する方が年々減っているという話を聞いていました。
また、これまでの園長先生が紹介されている取材記事では、どうしても園長先生の親しみやすさや、施設の方針・特徴に焦点があたりがちで、保育のプロフェッショナルとしての姿勢が紹介されている記事はあまり多くはありませんでした。
さらに、ネット上では、不適切保育など保育に関するネガティブなニュースが目立ち、現場の先生たちが感じる「仕事のやりがい」や「子どもたちと向き合う喜び」といったポジティブな面に光が当たりにくい状況があります。
こうした現状に対して「コドモンで何かできないだろうか?」という話になり、園長先生の思いを丁寧に掘り起こし、将来、保育者を目指す若い世代をはじめ、より多くの方に保育業界の魅力や希望を伝える企画として「すてきな園長先生」を立ち上げることになりました。
増田:最初に依頼するときは、かなり緊張したんです。というのも、保育現場の先生方はとても忙しく、そんな中で時間を割いていただくのは、むしろご迷惑になってしまうのではと心配だったからです。
ですが、実際にお声がけすると、多くの園長先生が「次世代の保育士たちや保育現場のためになるのなら」と快く応じてくださり、むしろ私の方が驚かされました。謙虚で前に出ることを好まない先生が多い中、「これからの保育業界をよりよくしたい」という覚悟を持ってインタビューに応じてくださっていると感じます。
増田:園長先生お一人おひとりが持つ背景の多様さに驚きました。また、保育施設と一口に言っても本当にさまざまで、園の数だけ個性があると感じます。
以前、「園長は人格がそのまま出る仕事。誤魔化しがきかない」とおっしゃっている先生がいましたが、本当にその通りで。園長先生の振る舞いや考え方によって、その園の雰囲気、職員や子どもたちの心持ちに違いが生まれるのだと思います。
おかげさまで、私は取材でお邪魔するたび「今日の園は素晴らしかった! 自分の子どもができたらぜひ入れたい」と感化され、次の取材でもまた「今日もよかったなあ……」と感じ入る、をひたすら繰り返しています(笑)。
増田:今の話と矛盾しますが、複数の先生が共通して話されることもあるんです。例えば、これから保育の世界を目指す方へのメッセージとして、「保育はあなたらしさがそのまま活きる仕事」だという話をたびたびうかがいます。
ギターを弾くのが好きな先生はライブ感覚で保育に音楽を取り入れ、絵を描くのが得意な先生は子どもたちと一緒に作品づくりに励む。苦手なことを無理に頑張らず、それぞれの得意を活かしながら、チームとして子どもたちを支えていく。
ご自身もピアノが苦手だったという先生の「先生にも苦手なことがあることで、子どもたちが苦手に向き合うときに気持ちに寄り添ってあげられる」という話も印象に残っています。無理に自分を変えようとせず、「そのままでいいのだ」と言ってもらえたような気がして、温かい気持ちになりました。
増田:そうですね。複数の先生から「子どもたちと地域との関係の土台をつくるのが園長の役目」だという話をうかがいました。
ある園では商店街の組合に加入していて、子どもたちが園の帰り道に商店の方々と自然にふれ合い、地域全体で子どもを見守る文化が育っています。
また、ある園では年に一度、子どもたちが地域の農家さんや商店の方々にインタビューし、それを紙の「地域ニュース」として近隣に配布しています。実際に園にうかがった際には、中学生や地域の方が子どもたちと会話する姿も見られました。
子どもたち、職員、保護者、地域、そしてこれからの保育のために今、何ができるか。幅広い目線を持ちながら活躍されている園長先生たちの話を近くで聞ける自分は、とても贅沢な経験をさせていただいているなあ、と感じます。
増田:取材させていただいた園長先生からは、「保護者の方から『記事を読んで泣いちゃいました』『やっぱりこの園に入れてよかったです』といった感想をいただいて嬉しかった」という声をよくいただきます。記事を通じて、園長先生の人となりや保育に対する思いが伝わることで、園に対する信頼と安心感が深まっているようです。
また、職員の方々によい変化があったという話もありました。例えば、体調不良でも無理して働いてしまう傾向のあった先生が、記事を通じて「職員には自分と家族を一番大切にしてほしい」という園長先生の思いを知ったことで、休暇を取得したり困りごとを相談してくれるようになったという話も聞いています。
「職員採用に効果があった」という園長先生もいました。週数回しか勤務できず、求人に応募するか悩んでいた方が、「週数時間だけでも土曜日だけでも歓迎。長く働き続けられる雇用形態を整えたい」という園長先生のインタビューを読んだのだそうです。記事が後押しになり応募されて、現在は職員として働かれていると聞きました。
増田:そうですね。推薦フォームにも、「企画に共感したから」という理由で、自園の園長先生を紹介してくださる職員の方や、お子さんが通っていた園の先生を紹介してくださる保護者の方など、多くの方からお便りをいただいています。
またありがたいことに、保育園の運営をしている法人本部の方や経営者から共感の声をいただくことも多いです。「保育者に園長のかっこよさを伝える、貴重なロールモデルになりうる」という声をいただいたり、「共感したので、うちの園長にもぜひ出てほしい」と推薦をいただくことが増えています。業界内にこの企画に賛同し、応援していただける方の輪が広がってきていることがとても嬉しいです。
増田:企画に共感してくれているチームでつくっているからだと思います。取材対象の先生はもちろん、記事を執筆するライターさん・カメラマンさんも保育業界に想いと感謝がある方ばかりです。
「業界をよりよくしたい」「園長先生のプロとしての姿をたくさんの人に届けたい」といった想いが重なることで心温まる記事が生まれ、読者に共感していただけているのだと思います。
社内でも、記事を共有する度に大きな反響があり、「過去やりとりしたことがある先生の想いを知れて感動した」「更新がとても楽しみ」といった声があがります。直接企画に関わる限られたメンバーだけでなく、「子どもを取り巻く環境をよりよくしたい」「保育現場の役に立ちたい」という、多くのコドモン社員の想いがこもった企画だと感じています。
増田:現在は人員の関係で、関東エリアを中心に取材を進めていますが、ゆくゆくは取材対象を全国に広げたいです。先日、以前は北海道で勤務していたという先生から「雪の有無だけでも保育内容は大きく変わる」という話をうかがいました。そういった地域ごとの違いも含め、全国の園長先生がどんな想いを持って園運営に向き合われているのか、ぜひうかがいたいですね。
また、企画に共感してくださる方の輪もさらに広げていきたいです。園長先生、職員のみなさん、保育学生や保護者の方……ひいては保育業界以外の方まで。「こんなすてきな先生がいるんだ」「いつかこんな風になりたい」「保育って楽しそう!」。そんなふうに思っていただける、ひとつのきっかけになれれば本望です。
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