【保育ICTラボ事業】保育AI分析が開く可能性への期待 ICT活用モデル園を支える大阪府豊中市職員インタビュー

保育ICTラボ事業 保育

大阪府豊中市は、令和2年(2020年)に「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出して以降、保育ICTシステムの導入によって保育の質の向上と業務負担の軽減に取り組んできた自治体です。先進的にDXを促進してきた豊中市は、保育ICTラボ事業にどのような期待を抱いているのでしょうか。

「生成AIで得られたデータを、子どもたちの成長のために還元したい」と語る豊中市 こども未来部 こども事業課 課長補佐 兼事業所係 係長の福嶋崇之さまに、お話をうかがいました(保育ICTラボ事業の詳細はこちらから)。

■大阪府豊中市
・大阪府北部に位置
・人口:約39.8万人(2025年6月1日時点)
・市内保育施設:約200施設(認可外約70施設を含む)
・「子育てしやすさNo.1プロジェクト」を推進し、デジタル行政・地域教育などの政策を展開。

「子育てしやすさNo.1」施策に100億円を投入

―豊中市が保育ICTラボ事業に参画された経緯を教えてください。

豊中市では「子育てしやすさNo.1」というキャッチコピーを掲げ、令和5年(2023年)からこども政策の充実・強化のために5年間で約100億円規模の大胆な投資を実施しています。小学校の7時開門や、病児保育の拡充、一時保育予約システムの導入など多岐にわたる施策を展開しており、保育ICTラボ事業への参画もその一環になります。

保育ICTラボ事業への参画にあたっては、豊中市としては2つのねらいがあります。

1つ目は、現場の保育者の事務作業の省力化をさらに進め、子どもと向き合う時間を増やしてもらうことです。豊中市のすべての公立こども園でICT導入ができており、また市内すべての保育施設においても約7割がICT導入済みであるため、これにより保育者の業務の省力化や保護者への保育記録の可視化などに大きな効果を発揮してきました。現時点でも役立っていることは間違いありませんが、今後はさらに保育者の負担を軽減し、子どもと向き合う時間をより多くするために工夫していきたいと考えています。

2つ目は、ICT導入によって得られたデータの有効活用です。これまでは子どもたちに関するデータがどれだけ集まっても、十分に活用できない状態が続いていました。子どもたちのデータを、子どもたちのよりよい成長のために活用・検証するための機会をかねてより探していたので、今回の保育ICTラボ事業がそのための第一歩になればと考えています。

AI分析が保育の「見取り」を変える

―保育現場のICT化が定着した豊中市だからこそ、次なるステップへ進もうとしているのですね。具体的にはどのような取り組みになるのでしょうか。

モデル園である聖ミカエル保育園では、日々の保育を通じて子どもたちの写真や記録が大量に蓄積されています。これらのデータをAIが分析し、そこから得られた知見を保育者が活用していく実証企画になります。

具体的には、保育・教育施設向けICTシステム「コドモン」上に記録した子どもの写真や各種帳票のデータを、保育知見が高い生成AIを使って分析します。その結果をもとに保育者が「見取り」の実践に活用していきます。

ここで言う「見取り」とは、子ども一人ひとりの表情や行動、言葉から、成長のサインを読み取り、その子に合った関わり方で、よいところを伸ばしていく保育・教育の姿勢をさします。

生成 AIが提供する第三者視点での分析結果を保育に取り入れることで、多忙であったり、経験が浅い保育者であったりしても、これまで以上に一人ひとりの子どもに寄り添う「見取り」が実践できるのかを検証する取り組みになります。

聖ミカエル保育園 豊中市
(モデル園の聖ミカエル保育園は、2022年からコドモンを導入するICT活用度の高い施設)

―あくまで主体は経験豊かな人間の保育者であり、AIはサポート役という位置づけなのですね。一方で、保育現場へのAI活用に対して不安の声などは挙がりませんでしたか。

保育現場への生成AIの活用は、慎重な声が多いことは承知しています。豊中市としても、保育施設の現場で生成AIを扱った実証実験は初めての試みとなりますので、個人情報の取り扱いや利用する生成AIの安全性には細心の注意を払うつもりでいますが、それ以上に生成AIによって得られる効果や利便性に大きな期待を寄せています。

AIに関するネガティブな側面だけにとらわれず、AIがもたらすベネフィットにきちんと着目していくことが重要だと考えています。これはデジタルを専門とする部署だけでなく、豊中市すべての部署に共通している認識です。

また、ICT導入に不安を抱いていたり、導入効果を期待できないと考えている未導入園には、保育者や園長を集めての研修の実施、LINEやZoomでの相談窓口の開設、研修動画コンテンツの提供なども行っています。これらを使いながら、ICT導入とICT活用の重要性を理解してもらえたらと思います。

ICTラボ事業の主体は自治体ではなく保育者

―では、最後に豊中市として保育ICTラボ事業への期待をお聞かせください。

今回の「保育ICTラボ事業」の主体は、あくまで現場の保育者の方々だと思います。実証企画が進むにつれて現場から出てくる具体的な課題やアイデアを参考にしながら、より実効性のある取り組みになることを期待しています。

また、豊中市では、公立こども園のICT導入をきっかけに、小中学校や学童保育にもICTが広がりつつあります。つまり、最長で0歳から15歳まで一気通貫でデータを蓄積できる仕組みが整い始めているということです。この点に関しても、さらなるデータの有効活用の可能性があると期待しています。

保育ICTラボ事業:豊中市の取り組み

保育ICTラボ事業:聖ミカエル保育園のインタビュー

豊中市公式ホームページ 子育てしやすさNo.1へ

保育ICTラボ事業について

保育ICTラボ事業の記事

記事一覧をみる

NEW

新着記事