【保育ICTラボ事業】茨城県つくば市・東岡保育園 最先端技術の導入をきっかけに保育の本質を問い直す(中編)

保育ICTラボ事業 ICT活用保育

2024年の開園当初より、保育・教育施設向けICTシステム「コドモン」を積極的に活用してきた茨城県つくば市の東岡保育園。こども家庭庁の保育ICTラボ事業に「ICT高活用園」として参画したことを機に、「午睡チェック」「職員間連絡」「写真の共有・整理」の3分野の機能を新たに導入しました。

2か月が経った今、現場ではどのような変化と発見があったのでしょうか。上之涼子園長(写真左)、その姉で工学博士で元研究職という異色の経歴を持つ小峰恵子副園長(写真右)、そして保育士の霜田夕雨子先生の3名にお話をうかがいました(※導入前のインタビュー記事はこちらから)。

【まとめ】
・2024年4月の開園当初からICT「コドモン」を利用中。今回の保育ICTラボ事業では、「午睡チェック」「職員間連絡」「写真共有・整理」の3つの新機能を導入した
・「せんせいトーク」の導入をきっかけに管理者の負担が軽減。これを機に職員が1人1台ずつ業務用スマホを持てる体制を整備
・午睡センサー「ココリン」導入によって心拍が自動で確認できるという安心感がプラスされた

新機能の導入が保育の本質を「考える機会」に

―新しい機能の導入から2か月が経ちました。まずは率直な感想を教えてください。

上之:まだすべての機能をうまく使いこなせているわけではないのですが、導入したからこその心境の変化がありました。私たちとしては、導入当初は「劇的に時間が短縮されるはず」と期待していたんですね。でも、実際に使い始めたことによって、むしろ「効率化」という概念に自分たちがいかに囚われすぎていたかを、この2か月間で気づかされました。「どうすればもっとよい保育ができるか」について考える機会を得られた、と言い換えてもいいかもしれません。

小峰:私としては想定どおりという印象です。新しい挑戦はなんであれ、すぐに結果が出るものではないと思っていますから。それでも、現場の職員とのコミュニケーションにおいては、「せんせいトーク」の導入によってスムーズになった部分が多くあります。

東岡保育園 先生01

― 「せんせいトーク」の導入によって、具体的にどのような変化があったのでしょうか。

小峰:まず、職員間のやり取りがスムーズになりました。スムーズになった結果、なにが起きたかというと、情報の発信・共有量が格段に増えました。たとえば、行政からの連絡のように、これまでは私か園長で留めていた情報も、「せんせいトーク」に切り替えてからは全職員がかんたんに共有できるようになり、園全体としての情報の「見える化」が進んだように感じています。小さなことですが、私にとってはストレスフリーな状態です。

上之:前回の座談会でもお話しましたが、私としては以前の業務用チャットツールの悩みだった、登録・退会手続きの煩雑さがなくなったことが嬉しいですね。たとえば、これまでは新しい職員が入ってきたときは、コドモン、保護者用アプリ、業務用チャットツールの3つのアカウント作成をお願いしていたんですね。でも、業務用チャットツールを「せんせいトーク」に切り替え、コドモンと保護者用アプリのアカウントを統一したことで、3つのアカウントがすべて統合されて、登録や管理が格段に簡単になりました。

小峰:もうひとつ付け加えると、データの 容量が増えたことも大きいですね。以前はストレージ容量が非常に少なかったため、ファイルの制約や変換などちょっとした一手間が必要な場面が多々ありましたから。コドモンに統一したことで、セキュリティ面での安全性向上も実感しています。ただ、今挙げた改善点はあくまで管理者視点からの意見ですので、現場の先生方の感触はまた少し違うかもしれません。

霜田:そうですね。私たち職員としては、以前の業務用チャットツールとほぼ変わらず、スムーズに使えています。ただ、保育ICTラボ事業への参加をきっかけに1人1台の業務用スマホを携帯できるようになったので、すごく便利になりましたね。

小峰:そうなんです。これまでは職員の私物のスマホにアプリをダウンロードしてもらっていたのですが、業務中は当然ながら使えませんし、そもそも個人のスマホを業務に利用するのは望ましくありません。そこで、今回の保育ICTラボ事業への参画を機に、思い切って職員の人数分の業務用スマートフォンを購入、園内でも連絡が取りやすいような体制をようやく整えられました。

霜田:おかげで保育中でも職員同士で連絡が取りやすくなりました。たとえば、午睡中にひとりの子どもが起きてしまい、付き添って別室へ行くときなどは、「〇〇ちゃんが起きました」と一言入れておけばすぐに情報が共有される。誰かにちょっと手を貸してほしいときも、かんたんにお願いできます。本当にちょっとしたことではあるのですが、0歳児クラスはそのひと手間が難しい場面が意外とあるので助かっています。0歳児クラスの3人の先生でグループを作成してからは、さらにやり取りがラクになりました。ただ、欲を言えば通話機能もほしいですね。「ちょっと話せばすぐ伝わる」こともたくさんありますから。

上之:個人的には研修動画が見放題なのがすごくありがたいです。私はまだ子どもが小さいので、寝かしつけをしながら子どもの隣でもイヤホンで勉強ができるのはありがたいですね。

東岡保育園 園長先生

「せんせいフォト」の自動選択機能によって作業時間が短縮

―では、「せんせいフォト」を使っての写真共有・販売の使い勝手はいかがでしょうか。

小峰:やはり、AIが自動で写真をピックアップしてくれる機能が便利ですね。園児によって枚数差が出ないようにAIが自動調整してくれるので、枚数を揃えるという観点では、写真選びがラクになりました。それまでは保育者が一枚一枚を選び、手作業でアップロードしていましたから、一連の作業が短縮化できたことは大きなメリットです。

―東岡保育園では「せんせいフォト」を写真販売だけでなく、今後は保育ドキュメンテーションでも活用したいと希望をいただいているとお聞きしました。

小峰:はい。現時点では写真共有・販売用の機能だと思いますが、いつかドキュメンテーションでも使えるようになったらいいですね。販売用写真であれば、やはり顔がしっかり写っている写真が好まれがちですが、その子自身の「育ち」を伝える保育ドキュメンテーションでは、必ずしも顔が写っていなくてもよいと考えています。そのような写真も成長の証として保護者の方々と共有したいと思っています。

ー「せんせいフォト」が保育ドキュメンテーションでも使えたら幅が広がりそうですね。

上之:写真の選定に関していえば、先生同士でも違う写真を選ぶこともあるし、園の方針によっても「伝えたい瞬間」は違うはずなので、ある意味、絶対の正解がないとも言えるんですね。さらに付け加えると、選んだ写真に私たちが文章を補って初めて、きちんと意図が伝わるものでもある。それがドキュメンテーションの価値だと思っているので、本当に難しい領域だと思いますが、今後の開発に期待しています。

午睡センサーの導入でこれまでにはない安心感が得られるように

― 午睡チェック用の連携サービス「ココリン」はいかがでしたか。

霜田:使い始めのうちはやはり操作に戸惑いましたね。今までの保育のなかに、子どもたちの動きを変えることなく、センサーが装着されたスマート肌着に着替える時間をどう組み込もうか、という点がまず悩ましかったです。タブレットの操作も同様で、午睡が始まったときと起きるとき、それから5分起きの記録も、慣れるまではちょっと時間がかかりましたね。ただ、2か月が経った今は、それらの操作もだいぶ慣れてきました。ちなみに、子どもたちはみんなスマート肌着にすぐに慣れて、着るのを嫌がるようなことはまったくありませんでした。

午睡センサー ココリン

小峰:運用に関しては、正直なところまだスムーズだとは言い切れません。手書きであればミスした箇所だけ修正すればいいですが、デジタルはシステムがダウンするとすべてを書き直さなければならない場合もあります。もう少し慣れると、使い勝手も変わるかもしれませんが。

上之:最初に「業務負担だけにとらわれていたのかもしれない」「どうすればもっとよい保育ができるかについて考える機会を得られた」とお伝えしたのは、まさしく「ココリン」導入を通じて感じたことでした。よくよく考えると、まず一人ひとりの午睡中の心拍数を自動で測ってくれるセンサーの安心感って非常に大きいですよね? これまでは得られなかった安心が得られるようになったのはすごいことです。

霜田:そこは同感です。心拍を常に感知してくれていることが、私たち保育者の安心感にもつながりました。タブレット操作で寝る時間と起きる時間を入力すると、コドモンに自動で同期されることも有難い機能です。この入力がさらにスマホでできるといいですし、かつ目視でのチェックと併用することで、午睡チェックの精神的な負担はずいぶん軽くなると思います。

上之:そうですよね。ただ、これまでやっていなかったことを始めるわけですから、業務の負担軽減にならないのは当たり前だとも言えます。省力化と業務負担の軽減、保育の質の向上、何をどのように大切にするかについて、今回あらためて考えさせられました。

小峰:私は今回の新機能導入によってテクノロジーのすごさを実感したことで、「だからこそ機械に頼りすぎないようにしよう」とも考えさせられました。安心感やよりよい保育を目指せるプラス面と、その分導入時は手間も発生することのマイナス面、両者をどうバランスを取っていくかが、今後の保育ICT活用の課題だと思っています。

上之:保育ICTは業務をラクにするツールというだけではなく、私たちが今までできなかったことを可能にするもの、と捉えることもできます。新しい機能を活用することで、「以前はできなかったこと、難しかったことができるようになった」との実感が積み重なっていくことは、私たち保育者の自信や心の余裕にもつながっていくはずです。

東岡保育園
事業種別:認可保育所
定員:90名
所在地:茨城県つくば市東岡250

東岡保育園:インタビュー動画(中編)

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