茨城県つくば市では、2024年に公立保育所で保育・教育施設向けICTサービス「コドモン」を導入後、積極的なICT化を推進してきました。2025年7月から始動した「保育ICTラボ事業」にも参画し、コドモンとともに取り組んでいます(保育ICTラボ事業の詳細はこちらから)。
今回は、市役所で保育ICTラボ事業の運営を担当するつくば市こども部 幼児保育課の職員 岩田光弘さま(写真右)と横山祐紀さま(写真左)に、つくば市の保育事情や保育ICTラボ事業への期待について、お話をうかがいました。
■茨城県つくば市
・茨城県南西部に位置
・人口:約26万人(2025年4月1日時点)
・市内保育施設:162施設
・スーパーシティ型国家戦略特区に指定され、社会全体が一人ひとりを包み込み支えあう「誰一人取り残さない」SDGsの精神のもとで、世界最高峰の科学技術を集結し、デジタル、ロボティクス等の最先端技術の社会実装と都市機能の最適化を進めていく
―つくば市が保育ICTラボ事業に参画された経緯を教えてください。
きっかけは、2024年から市内の公立保育所15施設で保育支援システム「コドモン」を導入したことです。そこからコドモンさんと御縁ができ、「ぜひつくば市さんに参加してほしい」とお声がけいただきまして、今回の保育ICTラボ事業にご協力させていただくことになりました。
2024年の「コドモン」導入時にも、当初は現場の保育士さんから「連絡帳はやはり手書きの方が温かみがあるはず」「パソコン操作に追われて子どもと向き合えなくなるのでは」など不安や心配の声が寄せられました。しかし、実際に導入してみると「本当にラクになりました!」といった賛同の声が圧倒的に多かったんですね。連絡帳や園児情報などの管理がデジタル化されたことで、現場の負担が大幅に軽減される結果となりました。
システム自体が初めて扱う人にもわかりやすかったこと、それからコドモンさんのサポートもありましたので、導入から1年が過ぎた今では各園とも順調に使いこなしているそうです。
そのような前例がありましたから、保育ICTラボ事業への参加にも前向きに取り組むことができました。つくば市としてのICT化の最大の目的は、現場の保育士さんの負担を減らし、子どもたちと向き合う時間を増やしてもらうこと。そして、深刻な社会問題となっている保育士不足を解消することにあります。
―全国的には少子化が加速する一方ですが、つくば市の保育現場をめぐる現状についても教えてください。
2005年のつくばエクスプレス開通以降、沿線開発が進み、市内の就学前児童数は右肩上がりで増え続けてきました。ピーク時には待機児童が100人を超えるほどでしたが、民間の力をお借りしながら整備を進め、現在は待機児童ゼロを達成しています。
一方で、保育園が増えるほど、保育士の確保が重要な課題となってきます。2026年度からは、保護者の就労状況に関わらず、0歳から3歳未満の未就園児を保育施設に預けられる「こども誰でも通園制度」も始まりますから、今後はさらに保育士のなり手を増やしていく対策を打っていかなければなりません。
その一環として、つくば市は常勤保育士に給与とは別に、月額3万円の補助を行っています。10年ほど前から始めた取り組みですが、多くの保育園から「採用の後押しになる」との好評の声をいただいています。
また、若い世代の保育士ほど、「就職先を選ぶ際にICT化が進んでいるかどうかをチェックする」という人も多いようです。若い世代は物心ついたときからスマートフォンなどの端末に慣れているので、逆に紙での作業に抵抗を感じる人も多いのかもしれません。
保育士の処遇改善と、ICT推進による現場の省力化によって、保育の質を高める環境づくりを支援し、「つくば市で保育士になりたい」と考える人材を増やしていけたらと考えています。
―では、最後につくば市として保育ICTラボ事業への期待をお聞かせください。
つくば市が先陣を切って保育現場でのICT化を実践していくことで、「ICTを導入すると現場はこんなにラクになりますよ」と伝えていきたいという思いが強くあります。「なんだかよくわからない」「端末操作に追われて子どもと向き合えなくなるのでは」などの思い込みから踏み出せずにいる園はまだまだ多いと思いますが、実際に導入してみればすぐに慣れますし、省力化の効果を実感できるはずです。
今回の保育ICTラボ事業では、400人近い園児が在籍している私立のさくら学園保育園さんと、公立から民間移管されて2024年に開園した東岡保育園さんの2園がモデル園として選定されています。それぞれに異なる特色を持つ2園がICT化によってどのように変化していくのか、それによってつくば市の保育の質をどれだけ向上させていけるのか、今から非常に期待しています。
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