【保育ICTラボ事業】茨城県つくば市・さくら学園保育園 過去にICT導入を断念した市内一の大型園が「保育ICT」の導入に再挑戦した理由

保育ICTラボ事業 保育

茨城県つくば市のさくら学園保育園は、一時預かり、病児保育など、保護者のあらゆるニーズに対応できる多機能型保育園です。今回、こども家庭庁の保育ICTラボ事業に「基礎モデル園」として参画し、コドモンの基本性能(登降園管理・保護者連絡・請求管理など)をゼロから導入して運用を進めている同園ですが、実は数年前に保育ICT導入を試みたものの断念した過去がありました。

そこから、再びICT導入に向き合った背景には何があったのでしょうか。永沼真由美園長(写真中央)、主任の沖山陽子先生(写真右)、事務の福田恵理佳先生(写真左)、看護師の中村記子先生の4名にお話をうかがいました。

【まとめ】
・全18クラス、園児数380名、職員数95名の市で一番の大規模園
・10年前に一度ICT化に踏み切るも、うまくいかなかった経験がある
・デジタルが苦手な主任がICT化をリード。職員の悩みを聞く部屋がある
・帳票作成の省力化、登降園・請求管理に大きな期待
・人間関係の円満さを武器に、若手・ベテランが支え合ったICT化を目指す

10年前は職員の反対でICT導入を断念、その後も踏み切れずにいたが……

―さくら学園保育園はどのような園か、特色を教えてください。

永沼:さくら学園保育園は2005年の開園から21年目を迎える茨城県つくば市の認可保育園です。0~5歳児までの園児数は18クラスで380名、市内では園児数がもっとも多い大型園であり、職員はZ世代の若手から70代のベテランまで幅広い年齢層の95名が在籍しています。

―全国的に見ても「マンモス園」と呼べるほどの大型園ですが、保育ICTラボ事業に参画された理由は何でしたか。

永沼:つくば市からのアンケート調査を受けた際に、「そろそろ本気でICT導入を検討したい」と回答したことがきっかけです。園児数・職員数ともに多い園ですから、ICT導入の必要性はずっと感じていましたが、「パソコン作業は不得意」という職員の割合が多かったため踏み切れずにいたという事情がありました。

中村:実は当園は10年ほど前にも一度、ICT導入を試みて失敗した経緯があります。以前は、自治体から補助金が出ることも後押しになって、「まずは職員の出退勤のデジタル化から」と始めてみたものの、当時はまだWi-Fi環境が十分ではなかったこともあって現場でトラブルが続出してしまったんですね。パソコンの操作に難しさを感じる職員も多く、「ちょっとさわったら違う画面に飛んだ」「こんな面倒なことをやらされるならもう保育士をやめます!」という苦情の声が多数寄せられたため、早々に断念せざるをえなかったのです。

私は保育園の看護師となる前は医療機関で働いていましたから、ICT導入によって現場の負担が大幅に削減されることはよく理解していました。ただ、10年前の保育業界では、まだそういった土壌ができていなかったのだと思います。

保育園 看護師
(「ICT化を心待ちにしていた」という看護師の中村先生)

デジタルが苦手な先生が「やってみよう!」と言い出したことで園全体の空気が前向きに

―それから10年が経過した今、再びICT導入を決断された背景には何があったのでしょうか。

中村:変化が起きたのはコロナ禍です。今日は誰が登園して、誰がしなかったかという登降園の確認を電話や口頭だけに頼っていた結果、「言った、言わない」でトラブルが起きたこともあり、「それならアプリを使ってみようか」ということになりました。それが2022年頃で、そこから少しずつデジタルシフトを進めていきました。

永沼:2023年には園のホームページをリニューアルして、紙のおたよりをサイトで見られるように整えました。そこからペーパーレス化も少しずつ進んでいきました。

中村:そんなふうに園全体として少しずつデジタルへの抵抗感は薄れてきてはいたものの、今回の保育ICTラボ事業への参画のような本格的な導入となると「やっぱりみんなついてきてくれないのでは……」という不安が私にはあったんですね。10年前のICT導入の失敗を知っているだけに。でも、それを打ち消してくれたのが主任の沖山先生なんです。

沖山先生が「私もよくわからないけど、やってみよう!」と他の先生方にポジティブに声掛けしてくれたおかげで、同じようにデジタルに苦手意識があった職員も「じゃあやってみる」と柔軟に受け入れる姿勢へと変化したんですね。

沖山:私はもともとデジタル全般が大の苦手なんですよ。園から支給されたパソコンもあまり使いこなせないくらい。そんな私でもきちんと使い方を教わってICTコドモンの帳票作成を試してみたら、「この機械、なんておりこうなの!」「もう何も知らなかった頃に戻れない~!」と感動してしまって(笑)。

そこから、「一度覚えてしまえば機械が勝手に内容を紐づけてくれるから書類作業がすごくラクになるよ」「私でもできたし、わからないことは詳しい人が教えるから」とみんなに積極的に声をかける担当を買って出ました。

私は6年前に系列園からさくら学園保育園に来たのですが、ほとんどの職員とは顔なじみでしたからみんなに声をかけやすい立場にあったんですね。一方で、さくら学園保育園に来てからの年数はまだ短いので、「新しいことに挑戦してみよう」と思えるフレッシュな気持ちもありました。そのあたりがちょうどよかったのかもしれません。

保育園 先生

―「デジタルは苦手」だと公言するメンバーの存在が、デジタル推進の架け橋になったのですね。

永沼:もちろん沖山先生からの声掛けだけではなく、ICTについての知識をつけるための勉強会も開いています。昨日は福田先生が講師となって、タブレットやスマホでICTコドモンを操作しながら20名弱の先生方に操作方法を教えてくれました。

今では園全体で「みんなでやってみよう」という空気が広がっているので、今回のICT導入はきっとうまくいくはずだと感じています。

帳票作成の省力化、登降園管理の自動化に期待大

―さくら学園保育園はICTコドモンの基本機能をゼロから導入し、運用を進めていく「基礎モデル園」ですが、ICT化によって解決したい課題は何でしょう?

永沼:2年に1度の監査のために、膨大な紙の帳簿を用意することが職員にとっては大きな負担となっていました。これまでは透明の衣装ケースに出席簿などの書類を全部入れて、必要なときにそこからいちいち探し出していたのですが、18クラス分もありますから本当に大変だったんですね。ICT化によって帳簿や日誌がデジタル化されることで業務効率が高まり、職員の負担が大幅に軽減されることを期待しています。

沖山:私がこの園に来た当時は「書類部屋」がありましたよね。保管しなければならない書類がぎっしり詰まった衣装ケースがずらーっと並んでいて、これは大変だなと思いました。

中村:私も帳票作成の省力化に一番期待しています。月案や年間指導計画、児童要録などの記録物に、保育士の先生方が常に追われる姿を見てきましたから「なんとかもっとラクになってほしい」という気持ちが強くあります。

保育園 掲示物
(保護者は、クラスの前に掲出されたお知らせを確認する必要がある)

永沼:年長クラスの担任は、小学校入学前に園児の様子や留意事項などをまとめた保育所児童保育要録、いわゆる「要録」という引き継ぎ資料を小学校に提出するのですが、うちはずっと一人ひとりの書類を手書きで提出していたんですね。でも小学校からも「手書きで書いている園はもう他にないですよ」と言われてしまって、「そろそろデジタル化しなきゃ」という雰囲気があったことにも後押しになったと思います。

福田:紙の要録はチェックも大変ですよね。各保育士の先生が要録を事務室に持ってきて、統括主任のデスクに置き、それを統括主任が確認してコメントを入れて……というのが今の当園の流れですが、データをパソコンで共有できるようになれば、紙の書類の持ち運びや承認の手間が大幅に削減されるはずです。

デジタル化による職員の労力削減という意味では、毎日の登園・降園時間の管理にも期待しています。今は出欠の連絡が保護者からアプリで来たら、それを中村看護師が取りまとめて、内線で各部屋に伝達しているんですね。これがICT化によって各クラスのタブレットで自動記録され、状況を一目で確認できるようになれば、事務室への問い合わせも不要になります。

また、標準保育とは別で短時間保育の子どもも預かっていますので、延長料金等が発生した場合の請求計算に関しても自動化によって一気にラクになれるのでは、と思っています。今はお迎えの時間と名前を保護者に手書きで書いていただき、それを職員が別途計算していますが、ICT導入によって連絡や配布物を一元管理できるようになるのは、大きなメリットだと感じます。

保育園 事務作業
(現在は、紙に記入した延長料金を事務の職員がExcelに手入力している)

保育ICTを基盤にして、職員と子どもたちの笑顔を増やしていけたら

―これから本格導入がスタートします。今の時点で不安を感じている部分はありますか。

中村:これまで使っていた登降園の無料アプリはおおむね便利でしたが、アップデート時にトラブルが発生することもありました。そのような不具合は保護者から私たちに問い合わせをされても対応できませんので、そうした場合への備えを考えておかなければなと思っています。

福田:通信トラブルや停電時の対応は課題ですね。機器のトラブル発生時などのみ手書きに戻すなど、柔軟に対応できる体制を整えておく必要があると思っています。

ICT化に関しての保護者からの反応は好意的なものばかりで、反対意見はほとんど聞きません。保護者アプリの登録は8月中にほぼ済ませてもらっており、各所にタブレット機器を設置しましたので、9月から本格稼働していく予定です。

沖山:現場を回している職員からは「こんなトラブルが起きた場合はどうすれば?」という心配の声がいくつか上がっていますので、そうした声を吸い上げて、みんなで解決策を探れるようにしていきたいですね。デジタルネイティブな若い世代の先生が、デジタルに弱い先生方のフォローに入る体制づくりも大切だと思っています。

保育園 保育室

―職員同士で支え合うために、どんな工夫をされていますか。

沖山:園長先生が「主任室」を作ってくれたのですが、今はそこが相談室としても機能していますね。壁紙が赤いので、みんなからは「赤い部屋」と呼ばれています(笑)。休憩中の先生方が「設定ができない」「これちょっとわからないから助けて~」と気軽に駆け込んでくるので、得意な先生につないで教えてもらう体制をつくっています。私に聞かれても全然答えられませんが(笑)、得意な先生につなぐことはできますから。

私のようにデジタル関係が不得手でも、「ここがわからない」と素直に口に出しても大丈夫。助けてもらったら「ありがとう」と声を掛け合える。そんな安心できる環境で、互いに助け合っていけたらなと思います。

―最後に、保育ICT活用への今後の期待をお聞かせください。

永沼:先生方が今お話したとおり、人間関係が良好なことは私たちの園の大きな強みです。ベテランが豊富な経験を活かして若手を助けることもあれば、逆に若手が強みを活かしてベテランを支える場面もある。

保育ICTの導入・活用も、そうした人間関係によって支えながら進めていけたらと思っています。不安を抱く先生方を取りこぼさない工夫を丁寧に続けつつ、段階的に移行を進めて現場の負担を減らしていく。それによって先生たちの笑顔と、子どもと向き合える時間の両方が増えることを願っています。

保育園 園長先生

さくら学園保育園
事業種別:認可保育所
定員:380名
所在地:茨城県つくば市上野1302

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