【保育ICTラボ事業】大阪府豊中市・聖ミカエル保育園 保育AIと保育士の知見の融合で高度な「見取り」と保育の質向上を目指す

保育ICTラボ事業 保育

「子育てしやすさNo.1プロジェクト」を推進し、デジタル行政・地域教育などの政策を積極的に展開している大阪府豊中市。こども家庭庁が実施する保育ICTラボ事業に参画した同市の聖ミカエル保育園では、保育AIの力を借りて子どもの指導方針に活かす最先端の実証実験が始まろうとしています。

保育知見に特化したAIは、保育の現場にどんな変化をもたらしてくれるのでしょうか? 聖ミカエル保育園の市原容子園長(写真中央)、副主任の斉藤みち先生(写真左)、保育士歴3年目の垣内友希先生(写真右)にお話をうかがいました。

【まとめ】
・大阪府豊中市の聖ミカエル保育園が保育AIを活用した実証実験を開始
・聖ミカエル保育園は、2022年よりコドモン導入。職員のコミュニケーションが活発化し、書類作成負担も軽減された
・保育AIは子どもの写真や指導計画を分析し、保育士に子どもごとの「見取り」の助けとなる示唆を提供する
・保育AIの分析を活用することで、保育士が気づきづらい子どもの成長の発見や施設での遊びの多様化につながり、指導計画の検討時に役立つことが期待されている
・保育士と保育AIが協働することで、より一層子ども一人ひとりと深く向き合う機会を創出し、保育の質向上を目指す

保育ICT導入で生まれた心の余裕を、職員間の話し合いの時間に転換

―聖ミカエル保育園はどのような園か、特色を教えてください。

市原:聖ミカエル保育園は、「子どもも大人も大切にされながら生きていく」というキリスト教精神に基づいた保育を行う認可保育園です。創立から半世紀以上の歴史を持つ園ですが、豊中市がICT導入を積極的に推進していた背景もあり、2022年からは保育・教育施設向けICTシステム「コドモン」導入をはじめとしたデジタル活用にも力を入れてきました。

保育園 豊中市

―すでにICT化が進んでいる聖ミカエル保育園ですが、今回の保育ICTラボ事業に参画された理由は何でしたか。

市原:コドモンの導入によって話し合いの機会が増え、職員間のコミュニケーションがよりスムーズに取れるようになったという実感があったことが大きいです。文書作成が苦手でパソコン画面の前で手が止まってしまうタイプの先生などは、「作業がすごくラクになりました」と喜んでいましたし、そのぶん職員間の話し合いの時間を大切にしよう、という意識が園全体でも高まったように思います。

斉藤:以前は持ち帰って書類を作成せざるをえないときもあったのですが、ICTを導入後は園内で作業を完結させ、心に余裕を持って帰宅できるようになった先生が増えましたよね。「とにかく書類を仕上げる」ことだけに追われずに、「子どもにとってよりよい保育をどう実現するか」という視点で話し合えるようになったことは大きな変化でした。

垣内:僕は2023年に新卒採用で入職したのですが、学生時代に「保育士は書類仕事が大変だよ」と聞いていた噂とは違っていて、聖ミカエル保育園ではパソコンで簡単に書類作成できる体制がすでにできていたことに驚きました。コドモンの操作自体は初めてでしたが、まったく抵抗もなく、1週間ほどですぐに慣れましたね。

斉藤:持ち帰りの仕事がなくなったこと、退勤時間に余裕ができたことに加えて、朝の時間帯の慌ただしさも解消されました。以前は欠席連絡の電話対応と職員間でその情報を共有する手間があったのですが、今は全職員がコドモンですぐ出欠状態を確認できるようになりましたから。

保育園 先生

保育AIによるデータ分析で「見取り」の精度を向上させる

―今回の保育ICTラボ事業では、一歩先を行く「モデル園」として保育AIを通じた高度な「見取り」の実証企画に挑戦されるそうですね。具体的にどのような取り組みとなるのでしょうか。

市原:現在、幼児クラスは30人の園児が在籍しています。他の園に比べると少人数ですが、それでもすべての時間で一人ひとりを丁寧に見てあげるのはなかなか難しいのが実情です。

例えば、ひとりの園児に対して個別対応が必要な場面においては、他の子への対応が一時的にでもおろそかになってしまいます。遊びの時間にあっても、子どもたちの集中力の持続力や興味の向かう先はまったくバラバラです。その日の遊びにすぐに飛びついてくる子もいれば、なかなか乗ってこない子もいる。保育士としては遊びを楽しんでくれる子に目が行きがちなので、そうではない子の行動にはなかなか目が向けられないという課題がありました。

―今回、聖ミカエル保育園では、保育知見に特化したAIを活用し、保育士の子ども一人ひとりに対する「見取り」を支援する実証企画を行う予定です。これまでコドモンに入力してきた普段の園での子どもたちの様子や、指導計画・連絡帳、写真を保育AIが分析。その後、AIが出す子どもごとのレポートを保育士のみなさんが実際の保育に活用していく予定です。
レポートには「次の一歩」を支援できる遊びの提案も含まれているので、先生がその後の指導の参考にすることができそうですね。

市原:そうですね。保育AIのサポートを活かすことによって、普段の保育で、客観的な視点を含めた指導ができるようになると思うのでとても期待しています。

斉藤:つい先程、保育AIが分析したレポートを初めて見たのですが、ちょっと感動するほど驚きましたね。「なるほど、そんな視点もあるんだ」「この遊びの発想は自分からは出てこなかった」「こんなに細やかな提案までしてくれるんだ!」など、予想を上回る新鮮さがありました。

もちろん、AIの提案をそのまま使うわけではありません。AIが提案したアイデアを参考にして自分たちの意見と織り交ぜていく予定ですが、早く実践してみたくなりましたね。

垣内:同感です。僕もそうなのですが、「遊び」ってどうしても保育士が自分の得意分野に寄せてしまいがちな領域ですよね。ものづくりが好きな先生だと、ものづくり系の遊びが自然と多くなるように。でも、保育AIが今回提案してくれた分析結果を踏まえた「遊び」は、今までの自分にはなかった引き出しのものもあったので、ぜひ取り入れてみたいなと思います。

保育園 先生

市原:保育AIによる分析によって、これまでは気づきにくかった子どもたちの成長や特性を発見できることに私も期待しています。

もうひとつ、保育者同士の話し合いによる指導計画だと、ともすればポイントが定まらずに時間がかかってしまうことがあるんですね。でも、AIが提示する分析データがあれば、「ここがポイントなのだ」と議論の焦点を絞りやすくなるメリットもありそうです。

また、集団生活の中ではどうしても活発な子に目が向きがちですが、保育AIの力を借りることで、一見すると目立ちづらい子どものささやかな成長や感情の変化も拾い上げられるはずです。その小さな成長を見逃すことなく、保育の支援につなげられたらとも思っています。

―保育AIの分析による第三者視点での「見取り」の提案と、人間の保育士の先生方の知見。人間が見落としてしまいそうな部分を保育AIにカバーしてもらい、両者を接続させることで、子どもの成長のためのよりよい指導を目指す、ということですね。

市原:「今日も楽しく遊んでるね~」だけで終わらせるのではなく、遊びを通してその子が何を学び、どう成長していくかを支えていく。それもまた保育士が担うべき大切な役割です。ただ、日常的に事務作業などに時間を取られると、遊びの内容の検証や子どもたちの成長について深く掘り下げる時間が取れないまま日々がどんどん過ぎてしまいます。

そうなるとお迎えのときの保護者の方とのコミュニケーションも、成長や発達に関することよりも「○○ちゃんのお着替えが2枚足りません!」といった事務的な連絡だけで終わってしまいがちですから(笑)。

保育園 園長先生

保育AIの優れた力を借りながら、保育士が主体となって子どもたちを健やかに育てていく

―最後に、保育ICT活用への今後の期待をお聞かせください。

斎藤:先ほどは保育AIによる「見取り」の精度と遊びの提案例を見てちょっと感動したと言いましたが、だからこそ「そのすごさに引っ張られすぎない」ようにとも心がけなければ、とも思っています。

「AIがすごいから指導計画書もこれでいいよ」と安易な方向へ流れるのではなく、保育AIの知見と私たち保育士が目で見て、直接感じ取れた成長の気づきを融合させていく。そんな質の高い保育の仕組みづくりに、ここから取り組んでいけたらと思います。

垣内:保育ICTラボ事業での挑戦によって一人ひとりの子どもに向き合う時間がもっと増えるといいなと期待しています。そうすると子どもの小さな変化にも気づきやすくなりますし、寄り添う気持ちの余裕も生まれるはずです。保育AIにサポートしてもらいながら、子どもと向き合う時間をどう深めていくか。保育士としてはその課題について今後じっくり考えていくつもりです。

市原:私たち聖ミカエル保育園は、キリスト教会を母体として運営されています。そのため、職員が集まる場や会議などでは、「ここに集められた先生や子どもたちは、神様から導かれて集まった存在です」という園の理念についてもよくお話するんですね。

お互いを大切に受け入れ合い、ときに補い合ったり許し合ったりしながら、「ここは安心できる場所だよ」「私たちはあなたにここにいてほしいと思っている」と伝え続ける。子どもたちにとってはもちろん、職員にとってもそれが実現できる園でありたい。その思いが私たちの核にはずっとありますし、保育ICT活用もそのための有効な手段のひとつだと考えています。

子どもたちを深く理解して健やかな成長を支えるために。職員が自信を持って保育を進めていけるように。そんなふうに、一人ひとりに丁寧に向き合える園であり続けるために、今後も保育ICTを上手に活用していきたいですね。

聖ミカエル保育園
事業種別:認可保育所
定員:48名
所在地:大阪府豊中市緑丘2-19-17

聖ミカエル保育園:インタビュー動画①

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