近年、自然災害の発生件数が増えており、こども施設における安全対策はますます重要になっています。特に園長・施設長におかれては、緊急時に迅速な対応が求められる中で、どのように保育ICTを活用できるのか気になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、こども施設の災害対策責任者である園長・施設長に向けて、ICT導入による具体的なメリットと課題解決の方法を、わかりやすく解説します。
災害時には、情報の伝達スピードと正確さが園児 / 児童や職員の安全確保に直結します。しかし多くの施設では、災害時の連絡手段にさまざまな課題があります。 職員や保護者との連絡手段確保や安否確認、情報管理において具体的にどのような問題が起きているのか見ていきましょう。
電話回線の混雑や停電は、連絡手段に大きな支障をきたします。たとえば、災害発生時に多くの人が同時に電話をかけ合うため、電話回線がパンクし、施設から保護者へ、また保護者から施設への通話がつながりにくくなることが頻繁に起こります。緊急時に電話がつながらなければ、迅速な情報共有が難しくなり、不安や混乱を生む原因のひとつとなります。
▽能登半島地震のときの情報通信インフラの被害状況
出典:令和6年版情報通信白書(概要) / 総務省
安否確認を手作業で行う場合、職員や園児 / 児童一人ひとりの状況を電話や紙の台帳、メモで集めるのは、多くの時間と労力がかかります。電話回線が混雑した場合は、連絡がつながらなかったり、手書きの記録が錯綜して二重登録や漏れが発生することも少なくありません。その結果、全員の無事を正確に把握できず、対応が遅れてしまうケースもあります。
また、手動での集計や情報共有にはミスが生じやすく、状況が刻々と変わる災害時には、最新の安否情報をリアルタイムで一元管理することが難しい点も課題です。こうした遅延や不確実さは、緊急時の迅速な判断や避難指示、支援要請の妨げとなり、施設の安全確保にリスクをもたらします。
機密情報や個人の連絡先などを紙で管理している場合、災害により書類の紛失や破損が起こるリスクが高まります。水害によって書類が水没してしまったり、施設の損壊で保管場所が被害を受けたりすると、災害対応に不可欠な情報が手元にない状況が発生しかねません。また、紙の資料は特定の場所に保管されているため、災害直後にアクセスできない可能性もあり、緊急連絡が遅れる原因となります。
連絡先情報や避難指示の内容などが失われると、職員間や保護者への連絡がスムーズにできなくなり、結果として園児 / 児童の安全確保に混乱を招く恐れがあります。このような事態を防ぐためには、情報のデジタル化とクラウドなどを活用した複数のバックアップ体制の構築が不可欠です。データを安全に保全し、災害時でも即座にアクセスできる環境を整えることが、施設の安全管理の要となります。
保育ICTは、こうした災害時の迅速な連絡手段として、実際に利活用されている事例も増えています。ここからは災害時にICTが注目される理由と、具体的にどのようなメリットがあるかを詳しくご紹介します。
災害時は情報伝達のスピードが求められますが、地震や豪雨などの影響で電話回線やインターネット回線が混雑し、つながりにくくなることが少なくありません。ICTには、通信網の混雑や停電下でもスムーズに連絡を可能にする機能が備わっている場合が多いです。
また、国や自治体は災害時の迅速な連絡手段確保を目的にICT導入を支援しており、その一環としてこども施設向けの助成金や補助制度も増えています。これらの制度を活用して保育ICTを導入する施設が増加しており、施設の安全対策強化と、日常的な防災体制の充実に大きく寄与しています。
では実際に、保育ICTを導入すると災害時にどのような変化があるのでしょうか。 ここでは、主なメリットとそれによって解決できる課題を具体的にご紹介します(※導入されるICTによって、利用できる機能が異なる点をご了承ください)。
安否確認の迅速化
ICTの「一斉通知」機能と「アンケート」機能の自動集計によって、園児 / 児童や職員の安否状況をすぐに把握できます。これにより、従来の電話や手作業での集計に比べ、作業負担の軽減やスムーズな状況把握が期待されます。
連絡手段の多様化
電話だけでなく、保護者向けアプリのプッシュ通知やメール、チャットツールなど複数の方法を用いることで、情報伝達が可能な場合が多く、連絡の確実性が高まることが見込まれます。
大切なデータをしっかり守る
連絡先や連絡履歴などのデータをクラウド上で管理することで、災害による書類の紛失や破損リスクを減らし、必要な情報に迅速にアクセスできる環境の整備が可能です。
連絡元を一元化し、職員の負担を軽減
これまで職員が個別に行っていた電話やメールでの連絡業務が、ひとつのシステムでまとめて管理できるようになります。これにより、連絡の漏れや重複、電話のかけ間違いを防ぎ、職員の負担も軽減されます。
リアルタイムな情報共有による連携強化
避難場所の変更や災害現場の状況など、重要な情報を職員間で即座に共有可能です。これにより、施設全体のチームワークが向上し、迅速かつ的確な防災対応が期待できます。
このように、ICTの利活用は施設の災害対応力を高め、子どもたちの安全を守るための支援となります。
ICTシステムを導入する際には、すべてを一気に進めようとするのではなく、段階的に導入を検討することが成功の鍵です。自施設に合った方法で無理なく始めることで、導入後の運用もスムーズになります。まずは現状の課題把握から始めましょう。
自施設が災害にあった場合、情報伝達や安否確認のどの部分に時間や負担がかかっているかを具体的に把握します。例として「電話連絡に時間がかかる」「避難情報の共有が難しい」などがあります。 こうした具体的な課題をしっかり洗い出し、職員や保護者の声も聞きながら現状を把握していくことが重要です。
次に自施設の課題や規模に合わせて、必要な機能を洗い出します。たとえば、電話連絡に時間がかかっているようであれば、全員に一度に連絡できる「一斉通知」機能を入れるとよいでしょう。電話を個別にかける手間が減り、連絡の遅れも防げます。「お知らせ一斉配信」機能であれば、避難場所や対応マニュアルなどの情報をリアルタイムで共有でき、情報伝達の混乱も減ります。
また、手作業の集計に時間がかかっているようであれば、スマートフォンなどで回答できて自動で集計してくれる「アンケート」機能を取り入れれば、手作業での集計の負担が大幅に軽減されます。
必要な機能が見えてきたら、その機能が備わっている保育ICTを選びましょう。
使いたいICTシステムの候補が見つかったら、災害時の活用事例があるかを確認することをおすすめします。システムの利用実績だけでなく、導入時や運用時の支援やサポートが充実しているかどうかも、この段階で確認しておくと安心です。
最後に、導入費用を抑えるために国や自治体の補助金制度を活用する方法があります。補助金を活用すれば、導入費用を抑えることも可能です。これらの制度は申請期限や条件があるため、早めに情報収集をし、必要に応じて申請サポートを利用することが大切です。保育ICTを提供している会社によっては、補助金申請のサポートも受けられる場合がありますので、まずは相談してみるとよいでしょう。
◆補助金について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
【最新版】保育ICTシステム導入に使える補助金を解説
災害に備えるためのICT活用は、園児/児童と職員の安全をさらに高めるための有効な手段のひとつです。安否確認や連絡手段の強化、データの安全管理を行うことで、保護者にも安心を届けられます。まずは自施設の災害対策を見直し、ICT導入による備えを検討してみてはいかがでしょうか。専門の事業者に相談しながら、一歩ずつ進めていくことをおすすめします。
<相談窓口>
参考資料
「災害に強い自治体」になるためのICT利活用の在り方 / 総務省
「もしも」の停電、どう備える? ~非常用電源の備えと施設の体験談~
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