今回お話を聞いた方
やっぱり、子どもの成長を間近で見られたときでしょうか。子どもたちは、日々さまざまな人と関わりながら、少しずつ成長していくもの。園の職員、保護者の方たちと、その成長をともに喜べることも、やりがいになっています。
あとは子どもたちと会話する中で、「今すごく心が通じあった」と感じるときがあって、それもとても大きな喜びを感じる瞬間です。
保育では、子どもの安全や安心、遊び、食育などのすべてが大切なので難しいですね。でも、普段から心がけていることでいえば、私は「動」と「静」の両方の活動をバランスよく行いたいと思っています。
思いっきり体を動かすのが「動」、じっと落ち着いているのが「静」。子どもにとって体を動かして遊ぶ時間は、心身の健康はもちろん、発達のためにとても大切なもの。一方、静かに人の話を聞いたり、落ち着いて穏やかに過ごしたりする時間も大切ですよね。
そう、小さい子は静かにしたり、じっと動かないでいたりするのは苦手だったりしますね。ですから、みんなで楽しく活動していたら自然と座っていられた、お話を聞けたという経験ができるような保育を心がけています。
そうして実際に子どもができたときには、「座っていられたね」「お話を聞けたね」などと認めることを繰り返し、自ら行動できるようにうながしていくのです。
私たちが「座りなさい」「静かにしなさい」と号令をかけるわけではありません。というのも、子どもたちが主体的に行動できるようなるのが目的ですし、保育園は子どもが子どもらしく自己表現できる場でなくてはならないからです。
思いっきり遊んでもいい、笑ってもいい、泣いてもいい、ときにはケンカしてもいい。子どもが大人の顔色をうかがったりするのではなく、その子らしくいられることが大切です。
それぞれの子どもの気持ちを肯定するだけでなく、言葉にできない思いを汲み取ることが大切だと思います。小さな子どもは、自分の気持ちをしっかり自覚して、うまく言葉にして伝えるということができません。だから大人が子どもの心の動きを読み取って、対応する必要があります。たとえ似たようなケースはあっても、子どもは一人ひとり違うからです。
そこについては担任の先生たちも難しく思ったり、悩んだりすることもあると思いますが、先生同士で相談し合いながら、トライアンドエラーで子どもにさまざまな関わりを試みることは、やりがいや楽しさにもつながっていくと思います。
子どもたちを幸せにするためにも、職員が幸せに働ける環境をつくりたいと思っています。そのために園長として心がけているのは、職員がやってみたいと思う保育を尊重すること、職員の行動力を大事にすることです。
それから、職員のみなさんが、なるべくのびのびと過ごせるような雰囲気づくりを心がけています。保育の仕事では、途中で外出して気分転換をすることができません。だからこそ、より園内の雰囲気をよくしたり、おいしい給食を用意したり、休憩時間にリラックスできるようにしたりすることも大事です。
あとは、できるだけ職員一人ひとりとコミュニケーションをとって、何か異変を感じたらすぐ対応できるよう準備しておくことでしょうか。何か特別なことができるわけではありませんが、常に先生たちに寄り添うことは園長として大切な仕事だと思っています。
日々成長しているのは、子どもたちだけではありません。先生たちも日々スキルアップされ、保育士として輝きを増しています。その姿を見られることも、私にとっては大きなやりがいであり喜びです。
例えば、最初はぎこちなかったのに、いつの間にか子どもたちに遊びを上手に提供できるようになっていたとき、とても素晴らしいなと思います。保育において日々の遊びはとても大切ですが、最初は苦手な先生も少なくないんです。
ひとつは、子どもの安全を重視するがために遊びの幅が狭まるせいかもしれません。子どもたちと思いっきり遊びながら安全を守るには、保育士の人数だけでなく、遊びながら見守るスキルも必要です。一方、子どもに「絶対にケガをさせない」ということは現実的ではありません。できる限り安全を守るのは当然ですが、遊びを制限しすぎないことも重要です。
もうひとつは、子どもの頃にあまり遊んでいなかったか、すでに忘れてしまったということがあるかもしれません。そうすると頭で考えすぎてしまって、子どもたちと一緒に思いっきり遊ぶことが難しくなると思います。
うちの園では、「とことん遊んでみよう」という研修をやったことがあります。保育士たちと一緒に砂場や大縄で遊んだりしました(笑)。すごく楽しかったですよ。
遊びってなんでもいいんです。子どもがしたい遊びを一緒に楽しめばいいだけ。ブランコに乗ってもいいし、泥遊びをしてもいいし、虫捕りをしてもいい。幼児クラスになれば、ルールのある遊びも楽しいですね。うちの園では、おにごっこ、どろけい、だるまさんが転んだ、コマまわしも人気です。コマまわしは、子どもたちと一緒にやっている先生までもがどんどん上達していく姿を見ると、とても微笑ましいですね。
私は小さな頃から国語が好きで、最初はなんとなく「国語の先生になりたい」と思っていました。それで国文科のある大学の附属高校へと進学したんですが、進路相談で先生に「あなたは子どもが好きだし、ピアノもできるし、保育に向いているんじゃないかな」とアドバイスされたのがきっかけです。
確かに私は子どもが好きでしたし、ピアノも好きで、保育に向いているのかもしれないと思いました。同時に、自分自身が子どものころに大好きだった幼稚園の先生のことを思い出して、「あんなふうになれたらいいな」と。いつもやさしく話を聞いてくれて、子どもと一緒に遊ぶのがとても上手な先生でした。それで大学は保育科へと進むことにしたんです。
保育について学び始めると、専門的な知識が必要な仕事なんだと改めて思いましたし、子どもの発達から栄養のことまで幅広く学べるので、とても楽しかったです。ただ、短大だったので、たった2年のあいだに普段の授業だけでなく、幼稚園・保育園・施設での実習を行わなくてはならず、休みがないくらい忙しかったです(笑)。
自宅の近所にあった幼稚園に、ご縁があって就職しました。キリスト教系の幼稚園だったのですが、当時80代の園長先生には音楽の素晴らしさ、そして丁寧な言葉遣い、子どもを対等なひとりの人間として尊重することなど、さまざまなことを学ばせていただきました。最初はとにかく必死でしたね。
その後は、やはりご縁のあったベビーシッターの会社に入社し、最初はベビーシッター、その後は一時保育施設の施設長、認証保育園の園長などを経験しました。
今思えば、さまざまな施設で働けたことで、視野を広げることができたのではないかと思います。例えば、ベビーシッターはよそのご家庭の中に入るので、その家のルールや方針を理解すること、密な関係性の中で配慮することを学びました。
また一時保育は一期一会ですから、子どもの特性などを素早くキャッチして保育に生かすということが身についたと思います。認証保育園は今とあまり変わりませんが、ベテランを含む多数の職員と一緒に働くことができて、やはり勉強になりました。
保育の仕事は、世間的に大変というイメージもありますし、間違いなく責任の重い仕事ではありますから、もしかしたら不安に思ったり、躊躇したりすることもあるかもしれません。
それでも「子どもが好き」「保育に携わりたい」という方は、ぜひこの世界に飛び込んできてほしいと思います。子どもたちから得られる学び、おもしろさは何にも代えられないほどの価値があり、きっと大きな幸福感をもたらしてくれると思います。
もちろん、ひとくちに保育施設といってもさまざまなところがあるので、「どうしても方針が合わない」「自分には耐えられない」と思ったら退職し、何度でも転職したらいいんです。自分の中の理想とする保育や保育士像を持って努力すれば、きっと自分に合う職場にたどりつけるはずです。そこで自分らしく思いっきり輝いていただけたらと思います。
(文:大西まお、撮影:池田博美、編集:コドモン編集部)
伊藤先生が働いている園
施設名:Picoナーサリ和田堀公園
形態:認可保育園(120名)
設立:2018年
所在地:東京都杉並区大宮1-20-22
※2025年4月14日時点の情報です
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