今回お話を聞いた方
私は3月生まれなのですが、幼少期から小柄だったこともあり、しっかり者の同級生たちにお世話をしてもらいながら成長してきました。そんなふうに誰かに面倒を見てもらう心地よさを知っていましたから、大人になってからは「今度は私が誰かのお世話をできるようになりたい」と思うようになったんですね。それが保育の道に進んだきっかけです。
地元である新潟の短大で保育士と幼稚園教諭の資格を取得した後、20歳で上京して荒川区の区立保育園に就職しました。
その後、20代で結婚し、2児の出産・育児を経て、一時は現場を離れていましたが、下の子が幼稚園に通い始めて少し時間ができたのでシッターの仕事を始めたんですね。ところが、いざ始めてみると「やっぱり自分は保育園のほうが向いている」と実感することになったんです。
マンツーマンでお世話をするのもいいのですが、私はやっぱり大勢の子どもたちが賑やかに走り回っている現場で働くことのほうが好きなんだな、とあらためてわかったからです。
自分自身も親となったことで、子どもへの接し方が以前よりおおらかになれたことも関係しているかもしれません。たとえば、最初に勤めた園では指しゃぶりをする小さい子を見たら「指しゃぶりはダメだよ」とやめさせていたのですが、復帰してからはあれもダメ、これもダメと禁止するのではなく、もっとおおらかに長い目で見守るような姿勢が身についたように思います。
そんな矢先、子どもを同じ園に通わせる保護者さんから、「ちょうど保育士さんを探している保育室がありますよ」と聞き、面接に向かったのが長いお付き合いとなる今の保育園でした。
当時は小さな「保育室」でしたが移転や待機児童解消のための区の施策を受けて事業形態が何度か変わり、2025年4月からは「認可保育園」となりました。
今、私が園長を務めている保育園は生後2か月未満から2歳児までを預かる小さな園ですから、子どもたちの生活リズムを整えることはとても大切にしています。毎日、同じ時間帯に登園して、遊んで、お腹を空かせて、ごはんを食べて、ねんねして、また遊ぶ。そういう日々のサイクルをしっかりつくっていくことが、子どもの心身の健康につながりますから。
1歳児・2歳児クラスは外遊びも多く取り入れています。園の近くには公園がたくさんありますから、天気がいい日はローテーションでいろんな公園に行って、子どもたちが思い切り体を動かして遊べるようにしています。芝生の園庭もありますが、年齢が上がってくるとやっぱり広いところで走るのが楽しいようですね。
はい。2歳児クラスの子どもたちが中心になって、トマトやきゅうりの水やりなどをお手伝いしてもらいながら一緒に育てています。収穫のときは1歳児クラスの子たちも参加しますよ。
そんなふうにたくさん体を動かしているので、給食もみんな元気にもりもり食べてくれます。調理師さんがおいしい献立をつくってくれるので、1歳児クラスの子どもでもごはんとお味噌汁を前に悩んで「うーん、こっちをおかわりする!」と自分から言ってくるので微笑ましいですね。
やりがいを感じる場面はたくさんありますが、毎朝の「バイバイタッチ」の光景もそのひとつです。朝、登園してきた子どもが、送ってくれたお父さんやお母さんと「じゃあバイバイね!」と元気にタッチを交わし、お友達の輪に楽しそうに加わっていく。その姿を見るたびに、「子どもたちにとってここは安心できる楽しい場所なんだ」と実感できるので、すごくやりがいを感じる瞬間です。
そうですよね。うちは小規模園ですから、保護者さんとの距離がすごく近いんです。お母さん、お父さんたちからも「最近、うちの子はこんな悩みがあるのですが……」などの相談もよく受けますし、そうしたコミュニケーションの取りやすさは小規模園ならではのいいところだと思っています。
もちろんです。何よりも大きなやりがいは、赤ちゃんから幼児へと変わっていく子どもたちの著しい成長を間近で見られることです。1歳、2歳と年齢が上がっていくほどに、子どもは言葉の使い方もどんどん上手になっていきます。ちょうどそのタイミングが最初の反抗期と重なる子も多いのですが、「ありがとう」「ごめんね」「貸して」「いいよ」のようなお友達とのコミュニケーションを、きちんと言葉で取れるような子に育ててあげたい。相手の目を見ながら、じっくりと他人と関わる力を育みたい。そういった気持ちは強くあります。
再び保育士として働くようになってから7年目に、前理事長にお声がけいただき、あとを継いで園長となりました。今の園に移転する前は、理事長のご自宅の一角で小さな保育室として始まったのですが、その後に駅のすぐ近くの現在の場所に移転しました。
ただ、私が園長になった当時は、園長=「なんでも屋」のような存在だったんですよ。園長業務をやりながらも、人が足りなければ早番にも遅番にも入るし、トイレが汚れていたら掃除する。調理の人手が足りないときは、給食室で調理の手伝いをしたことだってあります。今はさすがにそこまですることはなくなりましたが、それくらいオールマイティーになんでもこなしてきました。
保育士の先生方は、どなたにもその人なりの「保育観」があると私は思っています。だからこそ、子どもへの接し方にも一律の正解を押し付けるのではなく、各々の先生のいろんなやり方を尊重することを大切にしています。
ずっと長く続けてきた先生と、新しく入ってきた先生で、やり方が違っていたとしても、どちらかが正解でどちらかが不正解というわけではありません。もちろん、時代にあわせて変えていかなければならない部分や、柔軟に受け入れたほうがいいこともありますが、正解はいくつもあるという前提に立った上で、それぞれの先生が個性を発揮しながら子どもを大切にする保育ができればそれでいい。園長として年月を重ねていく中で、最近ようやくそんなふうに考えるようになりました。
そうですね。うちの園は40・50代のベテランの先生から、20代の若い先生までいますから、職員会議では私の考えを述べつつも、それが押し付けにならないように、積極的にいろんな意見を出してもらうように心がけています。
うちの園に在籍する園児は19名ですが、常勤の保育士の先生方をはじめ、パートで入ってくれる非常勤の先生方、調理の先生方も含めるとスタッフは21名と意外と大勢いるんですね。
ですから、園長としては皆ができるだけ本音で話しやすい職場となるように、普段から小さなところで意識はしています。
たとえば、朝や夕方に事務室で顔を合わせたときには、「おはようございます」「お疲れさまでした」などの挨拶をするのはもちろんですが、その人に合った一言も付け加えるようにしています。「昨日の○○はどうだった?」「明日の休みは楽しんできてね」とか、本当にちょっとした雑談なのですが、そういうちょっとした言葉を交わすことの積み重ねがあれば、いざというときにお互いが助け合えるようにもなりますから。
あとは、誰からどんな意見が出てきても、絶対に否定から入らないことは常に意識しています。「それはダメ、無理」とすぐに否定するのではなく、「そういうやり方もあるよね」といったん受け止めて、一緒に考えてみる。相手の気持ちに寄り添った上で、できるかできないかをじっくり話し合っていくことも園長として心がけていることのひとつです。
どうでしょう? 上手くできているかどうかわかりませんが、でもフレンドリーで話しやすい園長先生だと思ってもらえたら嬉しいですね。
うちは父母会があるのですが、年3回の行事で保護者の方々ともコミュニケーションが取れることもあり、卒園してからも園に遊びに来てくれるお子さんや保護者の方がたくさんいるんですよ。ランドセルを背負って「小学生になりました!」と報告に来てくれる子はもちろん、親御さんと一緒に成人の報告に来てくれる子もいるので、その都度、嬉しさを感じています。
そこは本当にそうですね。ずっと地元にいる子が「ちょっと前を通りかかったから」と気軽に顔を出してくれることもありますし、ハロウィンの季節には商店街の方々にご協力いただいて、仮装して商店街を歩く子どもたちに、あらかじめ届けたお菓子を渡してもらう行事もしています。そういうことができるのは、やはり地域に根差してきた保育園だからこその強みなのかもしれません。
私たちの保育園は小規模ですが、だからこそ一人ひとりの子どもたちに丁寧に向き合うことができる環境が整っています。今後も保護者の方々をしっかりサポートしながら、子どもたちと丁寧に関わっていく保育を大切にしていくつもりです。
それからもうひとつ、後進を育てていくことも自分の大切な責務だと感じています。高木保育園が長い歴史で培ってきた保育の在り方を、次の世代にもきちんと伝えていきたい。そのためには若い先生方、そして次期園長を育てていくことによって、地域の保育にも貢献していけたらと思っています。
子どもたちの成長を間近で見られること、保育士という仕事の一番の魅力、楽しさはそこに尽きるのではないでしょうか。大変なこともありますが、保育士は子どもの笑顔と成長を間近に見られる素晴らしい仕事です。
一方で、保育士には「同じ保育士の仲間と一緒になって、自分たちの保育をつくっていく」という喜びもあります。保育士はそれぞれにいろんな保育観を持っていますが、悩みに直面したときは、同じような立場にいる仲間に相談してください。違う保育観を持つ仲間だからこそ、いいアドバイスをくれることもあるはず。その繰り返しによって、喜びも達成感もわかち合える仲間ができていくはずです。
(文:阿部花恵、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)
生井先生が働いている園
施設名:高木保育園
形態:認可保育園(20名)
設立:2016年
所在地:東京都世田谷区砧6-18-6
※2025年4月22日時点の情報です
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