今回お話を聞いた方
「子どもをひとりの人間として尊重すること」です。例えば、子どものオムツを替えようとするときに、背後からヒョイっと持ち上げてはいけないと思うんですね。大人のオムツを替えるとしたら、顔を見て「〇〇さん、オムツを替えますね」と声をかけますよね。それと同じ。子どもの顔を見て、ちゃんと声をかけ、子どもの反応を確認し応えてから替えることが大切だと思います。
保育園は、集団生活の場です。やはり忙しいですし、時間に限りもありますし、生活リズムを守ることも大切です。でも、同時に子どもたちを尊重するのも重要なこと。私たちは「保育」をしているのであって「作業」をしているわけではありませんから、流れ作業にならないよう十分に気をつけなければなりません。
私はいつも「子どものなかに正解がある」と思っています。保育士は「子どもたちにこうさせたい」と誘導するのではなく「子どもが求めているもの」を提供する必要があるんです。
そうです。ただ、ここで大事なのは「子どもの主体性を大切にする」ことは、必ずしも「子どもの気持ちを優先する」だけではないということ。
子どもは、個人差はありますが、少しずつ確実に成長していきます。それぞれの子の成長・発達をよく理解したうえで、「その子の次の一歩」を提供していく必要があるんです。例えば、遊びに関してなら、赤ちゃんが体をうつ伏せにして手足をバタバタさせているなら、手が届くか届かないかのところにおもちゃを置く、とか。身辺自立に関してなら、オムツ替えのタイミングでオムツが濡れていなかったり、トイレで成功する回数が増えたらパンツを促す、といったことです。
はい。保育園はもちろん、社会で生きていくためにも、マナーやルールは必要です。それを少しずつ無理なく身につけられるよう支援していくのも大切なことだと思っています。
0〜2歳は個々の体内リズムに合わせた生活から、少しずつ集団生活のリズムへとシフトしていく期間です。2〜3歳になると本人の発達に合わせて、少しずつ着替えや排泄などの身辺自立を目指し、昼寝や食事も大体同じ時間帯になり、生活が少しずつ集団化します。4〜5歳は、「わたしわたし」「おれおれ」と自分中心の世界(笑)。でも、友達とケンカしたりぶつかったりしながら、どうすれば解決できるかを考え始める時期です。そうして就学前の6歳になると、自分たちで話し合ったりできるようになります。
6歳にもなると、何の遊びをするかで友達と揉めたときに「それぞれ別の遊びをしよう」と話し合って決めることも。そうして自分の遊びにこだわるだけでなく、「近くで別々の遊びをすると場所が足りないね」と気づくと、「じゃあ、みんなのしたい遊びを順番にしよう」という結論を出したりもできるようになります。また、相手の遊びをよく見たらおもしろそうだと気がついて、最初から一緒にやることもあります。
こうして自分たちで考えられるだけでなく、大局的に物事を見たり、社会性が育つことで上手にコミュニケーションを取ったりできるようになるんですね。
子どもって真面目なんですよ。だからこそ、子どもが自分たちで考え、自分たちで話し合えるよう、子どもを信じて介入しすぎないことも大切になります。
保育園のなかで、目の前の課題をひとつひとつ解決していくときです。例えば、どこかのクラスで子ども同士の衝突が多いとしたら、何が原因なのか担任と話し合って大人の関わり方や環境を調整したり。そうして子どもたちが落ち着いてきたと聞くと、やりがいを感じます。
その根底には子どもたちへの思いがあります。子どもは本当に愛おしい存在です。そんな子どもたちが安心して育っていくためには、職員と保護者のみなさんと一緒に課題を解決していくことが大事です。私の有り余るパワーを(笑)、常に問題解決に注いでいきたいと思っています。
ひとつは、ものごとの方針を常に明確にすること。先にお伝えしたように「子どもを尊重する」という方針も、職員に共有しています。もうひとつは職員が、仕事と私生活を無理なく両立できるよう、それぞれが生活できるだけの給与確保と、必要な人員が不足しないようにし、残業がなく有給休暇をすべて消化できる環境を整えることです。
あとは職員のみなさんの日誌を見て課題を把握し、タイムリーにフィードバックすること。相談したいことがあると言われたら、何があってもすぐに聞きます。当然、私生活には介入しませんが、もしも何か困っていることがあったら相談してほしいとも伝えています。
年4回、職員の面談をしています。4月には新年度の各自の自己目標を設定してもらい、8月には来年度の継続の意思確認をし、12月には目標がどうなっているかの確認をして、3月には年度の振り返りをします。
1年間の目標は人それぞれ全然違いますが、私が求めているのは具体的であること。例えば「リーダーとしてクラスをまとめる」では具体性がありません。そうではなくて、例えば「4歳児クラスで自然探索活動をしたい」という目標があったとしたら、そのために事前に何をどうやって学ぶのか、何を用意するのか、いつまでにやるのかといった具体的な行動に移すことまでを決めてもらっています。
保育園を笑顔あふれる場所にすることです。子どもだけでなく、職員や保護者のみなさんも、です。そのためにできることをしていこうと思っています。
もうひとつは、園長という立場の方々の応援をしていくこと。園長はそもそも重責を抱えた孤独な存在です。課題や不安を、情報交換しながら支え合うことができたらと思います。もともと近所の3園で「豊洲認可保育園協議会」を作っていたのですが、今では8園の園長が参加しています。とても素敵な人ばかりで、それぞれ違う法人なんですが支え合ってきました。私もいろいろとほかの園長先生に助けていただいてきたので、その恩返しをしたいと思っています。
私は大学卒業後に入社した一般企業に長く勤めていたので、じつは保育士になったのは39歳のとき。割と遅いデビューでした(笑)。園長になったのは、49歳のときです。
その企業での仕事は激務で、帰宅はほぼ23:00過ぎ。34歳のときに出産して復帰してからも、そんな日々が続きました。早朝に離乳食と夕食をつくり、子どもを保育園に送ってから仕事に行き、子どもの迎えは夫がして、深夜に帰宅してから残りの家事や翌日の支度をして……。子どもが1歳半になった頃には、「子どもともっと一緒にいたいのに、こんな生活でいいのか」と思っていたんです。
ある日、保育園に行ったときに、私があまりに疲れて見えたみたいで、先生が「お母さん、どうしたの?」って聞いてくれたんです。そうしたら一気につらい気持ちが溢れ出して、泣きながら話しました。先生も泣きながら聞いてくれて。本当にありがたかったです。
ひとまず退職して、次に何をしようかと思ったとき、私も先生のように「働くお母さんやお父さんを応援したい」と思い、保育士になることを決めました。
まだ子どもが小さかったこともあり、通信教育で学ぶことにしました。朝は子どもが起きる前に1時間ほど勉強し、夜は子どもが寝てから3時間ほど勉強する……といった生活にシフトし、1年半で資格を取得して、保育園に就職したんです。
最初に勤めた会社で知り合った起業家の方に「新しく園を立ち上げるので、園長をやってくれないか」とご依頼いただいたのが、きっかけです。もともと私は子どもが大好きですが、それ以上に「働く保護者の方たちをバックアップしたい」という気持ちのほうが強かったんですね。だから、保育士として働きたいということ以上に、保育園を運営したいという思いがあったので、すぐにお引き受けしました。
保育士になると、素敵な経験ができます。例えば、子どもたちが「先生、先生」とついてきてくれます。抱っこしていると、こちらを信じきって腕の中でスヤスヤと眠ってくれます。一緒に遊んだら「楽しかった」と喜んでくれます。こうしたことに喜びを感じられる人は、保育士に向いているかもしれません。
さらにいうと、保育はとても奥深い世界です。ベテランになっても、学びが終わることはありません。勉強すればするほど、いい保育を提供することができ、子どもたちの成長を手助けすることができるので、とてもいい仕事だと思います。やる気のある人、ぜひ一緒に子どもたちの成長を応援していきましょう!
(文:大西まお、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)
山下先生が働いている園
施設名:スマイスセレソン豊洲保育園
形態:認可保育園(77名)
設立:2014年
所在地:東京都江東区豊洲5-5-25 昭和医科大学豊洲寮1F
※2025年4月23日時点の情報です
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