今回お話を聞いた方
大学卒業後すぐに、自宅で友人とともに小中学生向けの学習塾を始めたのがきっかけです。もちろん勉強もしっかりするんですが、サイクリングやキャンプなどへも行くという少し変わった塾でした。私は大学時代に「探検部」に入っていて、もともと登山やサイクリング、キャンプなどの野外活動が大好きだったんです。それで、子どもたちと一緒にいろいろな活動をしたいと思いました。
はい。その後、妻と結婚して子どもが生まれ、その子が3歳になった頃、近隣に子どもを入れたいと思えるような外遊びが充実している幼稚園がなかったんです。それなら自分で幼児施設を運営しようと思ったのが始まり。学習塾は子どもたちの学校が終わる午後から始まりますよね。ですから、朝からお昼過ぎまでは幼稚舎、それ以降は学習塾をやることにしました。
自分の好きなことをしているし、他の先生方もいましたから、少しも大変ではありませんでした。最初は近所の元幼稚園教諭だった方に入ってもらい、その後に広告を出してもうひとり募集しましたが、以降は卒園児の保護者で保育士や幼稚園教諭だった方たちがともに働いてくれています。うちの園の活動内容を保護者の立場で体験し、深く理解してくれているので、お互いにやりやすいですね。
はい。幼稚舎の人数がどんどん増えていったので、残念ながら学習塾は閉めることになりました。でも、その後も土日には小中学生も一緒に野外活動を楽しんだりしていました。今では少し形を変えて、卒園児とともにいろいろな野外活動を続けています。
例えば、小中学生と一緒に、週末だけを使って2〜3年かけて太平洋側から日本海側までの300kmを横断したり。もともとは登山家の植村直己さんが稚内から鹿児島までの3000kmを踏破されたという話から「天才が3000kmなら、凡人の私たちには300kmくらいがちょうどいいだろう」ということで挑戦することにしたんです(笑)。そのほか高校生と一緒にフェリーに乗って北海道まで行ってサイクリングをしたり、さまざまな活動をしています。
どんな天候でも、基本的には野外活動がメインです。雨が降っていてもカッパを着て出かけます。徒歩で公園に出かけたり、サイクリングをしたりと活動はさまざま。朝、子どもたちとみんなで何がしたいかを話して、「〇〇公園へ行こう」とか「海辺に行こう」とか、そこまで徒歩で行くのか自転車で行くのかなどを相談します。
もちろん、ありますよ。例えば、園舎に段ボールのすべり台があるんですが、最近壊れてきたんですね。そこで、みんなで小麦粉に水を混ぜてノリをつくって、すべり台を補修しました。それから小麦粉に水だけでなく砂糖を混ぜて食べてみて「おいしいなあ」って言い合ったり、さらにそれを油で揚げて「もっとおいしくなったね」って話したり。どんな遊びにもおもしろさや学びがあります。
毎週月曜日は日の丸弁当の日、火曜日はおさかなの日、水曜日は園がお休みで、木曜日はお弁当の日、金曜日は納豆ごはんの日です。火曜日のおさかなの日には、年長さんが朝8時半に登園して飯盒炊爨(はんごうすいさん)でごはんを炊いて、お味噌汁もつくります。おかずは、かまどの火で焼いた「メザシ」です。お弁当は外で食べることも多いですね。
そうです。というのも、うちの園は土日に希望者が参加するイベントも多いですし、何より2日行って1日休めるとラクでしょう(笑)。大人だってそうだと思いますよ。週の真ん中の水曜日が休みだと疲れが取れます。
希望者を募って、さまざまなことをしています。例えば、毎年6月には「春の防災運動会」。子どもたちが袋に土を入れて土のうをつくったり、単管や流木を組み合わせてテントを作ったり、屋外での炊き出しの練習をしたり。7月には三浦海岸で磯遊びをしたり、8月には川遊びとデイキャンプをしたり。みんなで登山をすることもありますし、保護者のみなさんも参加して楽しんでくれています。
先日、NHKの番組で、バーベキューはなぜ美味しいかということを解き明かしていたんですね。私たちは室内にいると、無意識に「静かにしなくては」などと心に規制が働きます。ところが、野外へ行くと、開放的な気持ちになってアドレナリンが出て、食べ物までおいしく感じるんです。これは子どもだって同じこと。なるべく外に出て活動することで開放的になれるし、さまざまな発見があると思います。だから野外活動を大切にしているんです。
みんな、思い思いに好きな活動をしています。走り回る子もいれば、生き物を探す子も。これからの子どもたちにとって重要なのは、人に言われて何かをするのではなく、「自発的に自分のやりたいと思ったことをやること」だと私は考えます。よく「あれやっていい?」「これやっていい?」と大人に確認しすぎる子どもがいますが、これは大人が管理しすぎているせいかもしれません。大人の目が行き届きすぎるのも、またよくないのです。自分で判断して、自分で挑戦することを教えたいと思っています。
やっぱり園児はもちろん、保護者やOB、みんなが楽しんでいるのが伝わってくるときですね。例えば、ある海岸でOBを含めて希望者と一緒にキャンプをすることがあるんです。みんなで流木を集めて餅米をふかして餅つきをして食べたり、チャーハンをつくったり、ワイワイ遊んだりします。そうして自然の中で、子どもも大人も時間の制約なくともに楽しく過ごすと、もちろん私自身も楽しいですし、大きな喜びを感じますね。
好きなことをしているだけなので、本当に大変なことはありません。大変だと感じるということは、それが自分に合っていないということなのです。それから難しいこともありません。例えば、年長組は卒園前に「神奈川横断徒歩旅行」をしますが、最初からいきなりたくさん歩くわけではありません。年少組のときから毎日少しずつ距離を伸ばして「自分の足で歩く」という経験を積み重ねていくので、それほど大変じゃないんです。どんなことも細かく分ければ、大変ではなくなるだろうと思います。
子どもたちだけでなく、先生方にも保護者のみなさんにも、自分の得意なこと、好きなこと、やりたいことを自由にやってもらうことです。先生だって保護者の方だって、一人ひとりが違います。前年度にやっていたことを必ずしも踏襲しなくて構いません。本当に必要なことなら、無理をしなくても、必ずどこかで復活するからです。
今年の年長組の保護者は、文集をつくるのが好きみたいでたくさん発行されています。「自己紹介」の文集、「もしも人生が残り3日間なら何をするか」の文集がすでにできていて、今後はイベントの文集もできるでしょう。すごいパワーです(笑)。
園と海辺の2か所にわかれて保育をし、活動の幅を広げたいと思っています。海辺では、園の周囲とは違う遊びができるんですね。例えば、塩づくりや砂遊びをしたり、流木を使ってノコギリの使い方や釘の打ち方を覚えたり、そうして小さな小屋をつくったりしたいと考え中です。園を野外へと広げていく、という考え方ですね。
自分の好きなこと、得意なことを磨いてほしいと思います。大人も自分の好きなことをしているときは輝いているし、子どもに上手に伝えたり教えたりできるもの。上から「これをやりなさい」と言われた場合はそこまで力が入りませんし、自分が得意なことでないと子どもの技量を測りながら程よく教えるのは難しいからです。
もちろん、就職した教育施設によっては、自分のやりたいことをすぐにやることはできないかもしれません。それでも情熱を持って活動し続ければ、きっと実現できると思います。ぜひ頑張ってください。
(文:大西まお、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)
島根先生が働いている園
施設名:トトロ幼稚舎
形態:その他こども施設(40名)
設立:1985年
所在地:神奈川県横浜市磯子区杉田3-22-44
※2025年5月12日時点の情報です
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