子どもたち一人ひとりの「本当の気持ち」に丁寧に寄り添っていきたい【佐藤千枝先生】

すてきな園長先生 保育

今回お話を聞いた方

佐藤千枝(総園長)
出身地:北海道
職歴:現在の保育園(25年)
園長先生歴:14年
趣味:旅行、整理整頓
日課:観葉植物の水やり

子どもの内面を理解しないと、その心に寄り添うことはできない

保育において大切にしていることを教えてください。

子どもって、一人ひとりが得意なことも苦手なことも、好きなことも嫌いなことも、性格も環境も、成長発達の段階も、何もかも違いますよね。一律同じということはありません。だから、私は何よりも一人ひとりの子どもに丁寧に寄り添いたいと思っています。これは「子どもの主体性を大事にする」という当法人の理念の影響もありますが、私個人の子ども時代の経験から思ったことでもあります。

どんなご経験だったのでしょうか?

私は子どものころ、大人に苦手なことを強要されても「嫌だ」と言えない子どもだったんです。特に「かけっこ」など順位を決められるもの、評価されるものが大の苦手で「ビリになったらどうしよう」といつもハラハラして、頑張りすぎてはおなかを壊していました。子どもたちの中でも1位はえらくて、ビリはダメという共通認識があるから、プレッシャーを感じていたんですね。

確かに、昔は割と「評価をする」ということが普通でした。

もちろん、競争するのも悪いことではありません。でも、もしもそういうときに誰かが「ハラハラしちゃうよね」と共感を示してくれて、「大丈夫。チャレンジすることに意味があるんだよ」などと寄り添ってくれたら違ったのにと思います。そこから、自分が子どもたちに寄り添ってあげられるようになりたいと思うようになりました。

そうだったのですね。ただ、子どもの心に寄り添うって簡単ではないですよね。

そうなんです。子どもは必ずしも自分の気持ちを自覚していませんし、言葉にするのも苦手ですから、大人が内面をしっかり理解していないと、また状況や経緯を把握していないと、気持ちに寄り添うことはできませんが、これは意外と難しいことです。

例えば、ひとりの子どもが泣いていたとします。その子に「泣いている理由」を聞くだけでは、本当の気持ちにたどりつけないかもしれません。なぜかというと、「友達に押されたから泣いた」と言っていても、もしかしたら嫌なことの積み重ねがあって泣いたのかもしれないからです。また、泣いているうちに何もかもが嫌になってしまったのかもしれないし、理由を忘れてしまったのかもしれません。

どうしたら子どもの「本当の気持ち」に近づけるでしょうか。

集団生活のなかで一人ひとりの子どもをしっかりみるのは難しいことですが、だからこそ、大切になるのがチームワークです。担任のひとりが、子どもが泣く前の場面を見逃していても、他の職員が見ていて情報提供すれば、わかることもあります。

例えば「泣き始める前に、〇〇遊びに入ろうして、ぶつかってしまったようです」などという話を聞けば、具体的な状況がわかります。そうして、丁寧に見ていくことで、子どもの「本当の気持ち」に近づくことができるのではないでしょうか。

13歳下の妹のお世話をしたことが、保育の道に進むきっかけに

そもそも、先生が保育士になろうと思ったきっかけはなんですか?

私には13歳下の妹がいて、赤ちゃんのころからよく面倒をみていました。その妹がとてもかわいかったので、自然と「将来は小さな子どもに関わる仕事をしたい」と思うようになったんです。それで高校卒業後は福祉専門学校に進学し、3年間学んで、幼稚園教諭と保育士の資格を取りました。

専門学校で学び始めたときは、どんなふうに思われましたか?

小さな子どものお世話には慣れていたんですが、保育実習で「他の先生たちとの連携が大事だということ」「本当にいろいろなタイプの子どもがいること」に気づいて、目から鱗でした。やっぱり自分の家で、きょうだいの面倒をみるのとは違うんだなと思いましたね。当時は、失敗ばかりだったのもあって(笑)。

どんな失敗をされたのでしょうか。

自分から急に距離を詰めすぎて子どもに警戒されたり、反対に子どもが私に興味を持ってきてくれてもどんなふうに反応したらいいのかわからなかったりーー最初はそんな感じでした。でも、実習が終わる日に、子どもたちが「また遊びにきてね」と私の存在を認めてくれて、「ああ、私と一緒に過ごして楽しい瞬間もきっとあったんだ」と自信をもらいました。

その後、保育園に就職されたのはどうしてでしょう?

私は特に乳児のお世話をしたいと思っていたので、保育園か乳児院に就職しようと思っていたんです。当時、保育園への就職は狭き門。とても倍率が高かったので、就職できるか心配でしたが、2か所の園から内定をもらって、今の園に就職しました。

実際に入職されてからは、どのような毎日でしたか?

初年度は、希望通り0歳児クラスの担任になりました。赤ちゃんたちがかわいくてモチベーションは上がりましたが、最初は泣いている理由がおなかが減っているのか、オムツが汚れているのか、それとも暑いのか寒いのかなど……何もわからなくて戸惑いました。

でも、子ども一人ひとりに合わせたスキンシップの取り方を考えたり、試行錯誤しながらお世話をして愛着を深めていき、にっこり笑ってくれるようになったときには、とても嬉しかったです。それからいろいろな年齢の保育を経験してきました。

思いがけず北海道から神奈川県へ引っ越して園長になることに

園長になった経緯を教えてください。

入職以来ずっと地元である北海道の保育園に勤務していたのですが、30代前半のころ、横浜に新しい保育園を開設するということで、園長に任命されました。園長になるだけでなく、神奈川県に引っ越すことになるので予想外のことに驚きましたし、私で務まるだろうかとも思いました。でも、上司に「頑張って行っておいで」とハッパをかけられ、地元の仲間も何人か一緒に行くことになったので、頑張ってみようとお引き受けしました。

それは驚きですね! 環境が大きく変わって戸惑ったりされたことはありますか?

たくさんあります。最初は北海道弁が抜けなくて、神奈川の先生たちに「園長、それは方言ですよ〜」ってつっこまれました(笑)。それから北海道では冬といえば雪遊びでしたので、雪遊びができないとなると「冬は何をしたらいいのだろう」と思いました。でも、他の冬らしい遊びを考えて、遊びの幅が広がりましたし、違う地域の文化にふれて成長できたと思います。

園長先生として大事にされていることはなんでしょうか?

保育の仕事はチームで行うものですから、全員がなるべく同じ方向をみることが大切です。だから、園長としては、常にブレることなく一貫性のある方針を明確に伝えることを何より大切にしています。ただ、同じことを伝えても、人によって力量も熱量も違えば、捉え方や解釈も違うもの。ですから、園内研究や会議などを通じて、みんなで話し合うこともとても重要だと思っています。

もうひとつは、保育園ですから子どもの視点に立つことが大事ですが、同時に保護者、職員、地域などの立場から見た園についても考え、多角的にみるようにしています。

現在は「総園長」になられたとのことですが、どんな役職でしょうか。

現在勤めている園には、同じ敷地内に「北ウイング」と「南ウイング」の2園があって、それぞれに園長がいますが、この両方をまとめる役職が「総園長」です。両園長・主任が、それぞれの様子や困っていること、頑張っていることを報告してくれるので、それに対してフィードバックしつつ、全体をみています。

今後の目標があれば、教えてください。

より働きやすい園になるよう、見直しを進めていきたいと思っています。『TOKYO働きやすい福祉の職場宣言』にも申請して、職場環境をチェックしている最中です。福祉の仕事は「つらい」「大変」と思われがちですが、今ではかなり改善できてきています。今後も改善に力を入れつつ、保育の仕事の魅力を伝えていきたいと思っています。

最後に保育士を目指している人にメッセージをいただけないでしょうか。

保育はチームで行う仕事です。だから得意なことはどんどんやったらいいし、苦手なことはチームに補ってもらったらいい。しかも、苦手なことがあるのは保育士にとって、悪いことではありません。子どもの「苦手」を理解してあげられるからです。そういう意味で、保育は、得意なことも苦手なことも生かせる仕事だと思います。

子どものために何かをしたい、子どもが好きという人なら誰でも大丈夫。ともに保育を語れる仲間が増えてほしいと思っていますから、ぜひ飛び込んできてください。

(文:大西まお、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)

佐藤先生が働いている園
施設名:世田谷いちい保育園北ウイング世田谷いちい保育園南ウイング
形態:認可保育園
所在地:東京都世田谷区

※2025年5月27日時点の情報です

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