子どもと先生がともにのびのびと遊べるよう安心と安全を守っていきたい【大沼志寿子先生】

すてきな園長先生

今回お話を聞いた方

大沼志寿子(園長)
出身地:富山県氷見市
職歴:公立保育園(40年)、母子生活支援施設(4年)、現在の保育園(11年)
園長先生歴:27年
愛読書:海原純子『いい気分の作り方 困難な時代の心のサプリ』
趣味:インテリア、収納、雑貨屋めぐり
日課:テレビ体操(平日のみ)

保育士になったきっかけは「女の人も手に職を」という母の言葉

大沼先生が、保育業界に入られた理由を教えてください。

今、生きていれば110歳の母が「これからの時代は、女の人も手に職をつけたほうがいい」と口癖のように言っていたのが、最初のきっかけです。母自身がそうしたかったのでしょうね。ただ、そう言われても、当時、地方で女性が長く続けられそうな資格のある一般的な職業といえば、小学校教諭、幼稚園教諭、保育士、看護師くらいしかありませんでした。しかも、私は農家の6人きょうだいの末っ子。進学した兄や姉などへの仕送りが大変だという両親に、なるべく負担をかけたくないという思いがありました。

それらの職業のなかで、どうして保育士を選ばれたのでしょう。

当時、結婚したばかりの兄が埼玉県に住んでいて、その近くにある県立の保育士専門学校の授業料が無償だったんです。それで兄の家に居候をして、保育士専門学校に通うことにしました。兄夫婦は快く迎えてくれましたけど、今思えば新婚家庭に転がり込んだのですから迷惑だったかもしれません(笑)。ただ、居候したのは1年間で、翌年は学校の寮に空きができたので入りました。

保育の勉強を始めてどう思われましたか?

実際に勉強を始めると、技術的なことを覚えるのが大変でした。特にピアノは習ったことがなく、学校でしか練習できないので、なかなか上達しなくて(笑)。なんとかある程度は弾けるようになりましたが、今も決して得意ではありません。でも、この経験のおかげで、ピアノが苦手だという職員に「大丈夫よ。私も得意じゃないから」と言ってあげられます。

実習などで子どもたちとふれ合ってみてどう感じられたのでしょうか。

想像していた以上に子どもたちがかわいく、実習はとても楽しかったです。私は自分が末っ子でお世話される側だったので、小さな子どもたちの面倒をみられるかどうか少し心配だったんですが、杞憂でした。よく考えたら、昔は近所にたくさんの子どもがいて性別も年齢も関係なく一緒に遊んでいたんです。だから小さな子と遊ぶのもお世話をするのも、むしろ当たり前のこと。結果的に、保育の仕事は私に合っていたと思います。

選んだ仕事が天職になる、ということもあるのかもしれませんね。

そうですね。私が最初に保育士になろうと思った動機は、ある意味で不純でしたけど、それでも学んでいくうちに興味が持てて、きちんとできるようになれば問題ないという学びにもなりましたね。

そもそも、私の子ども時代は、まだまだ男女平等とは程遠く、女の子は「将来はお嫁さんになりたい」と言うのが普通だったんです。だから母から「将来どんな職業に就くかよく考えて」と言われても、よくわからなくて、ストレスを感じることもありました。でも、今では、やりがいのある仕事に就けて母に感謝しています。

園長と子どもたちとの絆をつないでくれている朝の体操時間

保育の仕事に、特にやりがいを感じるのはどういうときでしょうか。

いちばんは「ありがとう」という言葉をいただくときです。園長は担任と違って、子どもたちとずっと一緒にいるわけではありません。たまに接点はあっても、いつもは事務室で仕事をしています。それなのに、子どもたちが親しみを持ってくれて「ありがとう」と言ってくれることがあって、嬉しくて舞い上がってしまいます(笑)。

子どもたちは、園長先生に見守られているのをよく知っているんでしょうね。

もちろん、遠足の引率するとき、行事のとき、たまに園庭や教室で一緒に遊ぶこともあります。それから、うちの園では朝早めに登園してもらえるよう毎日9:00に園庭で体操をする時間を設けていて、このときの放送を担当しています。

「よい子のみなさんおはようございます」という言葉から始めるんですが、園庭から「おはようございます」と元気に答える子どもたちの声が事務室まで届きます。いつも、その日の予定に加えて、お誕生日を迎える子を紹介したり、給食の内容を伝えたり、楽しく過ごすにはどうしたらいいかなど、ちょっとしたお話をしたりしてます。

ラジオのパーソナリティみたいで素敵ですね!

そうでしょうか(笑)。先日、ある子どもが「えんちょうせんせい、まいにち、ほうそうおつかれさま。だいすきだよ」と書いた手紙をくれたんです。しかも私の似顔絵つき。「こんな素敵なものを私がもらっていいのかな」「逆に子どもたちから元気をもらっているのにな」「私、この仕事をしていていいんだな」と本当に嬉しくて。今も飾っています。

反対に保育の仕事が大変だと感じるのは、どんなときでしょうか?

以前勤めていた公立保育園の上司に「裁判をしても負けない保育をしなさい」と言われたことがあるんですね。当時は園長になったばかりだったんですが、内心「意味がわからない」と反発してしまったんです。でも、今思えば、この言葉は奥が深いなと思います。

どんなに理想的な保育理念を掲げていても、子どもが大怪我をしたり、後遺症を負ったり、命を失ったりしたら取り返しがつきません。つまり、日々の危機管理はとても大事なんです。一方、安全と安心を守りながら、子どもを自由にのびのび遊ばせることも大切なこと。この二つの両立がいちばん難しいと思います。

確かに安全と安心を守りつつ、自由にのびのび遊ばせるのは難しいことですね。

子どもたちもですが、先生方にものびのびと保育をしてほしい。となると、危機管理は園長である私の仕事です。園舎や園庭に危険なところがないかを日頃からチェックするのはもちろん、水遊び時や午睡時の見守りについてはガイドラインを徹底するように伝えたり、うっかりミスがないよう気をつけています。

「苦手」をなくそうとするのではなく「よさ」を伸ばしていく

園長として、もっとも大切にされているのはどんなことでしょう。

子どもたち、保護者のみなさん、職員、一人ひとりの声を受け止めることを大切にしています。私たちはそれぞれに育った環境も背景も年齢も性格も違いますが、保育園に関わる「ワンチーム」ですから、相手の立場に立って気持ちを考え、尊重しあっていきたいのです。

また、子どもに関しては「苦手」をなくそうとするのではなく、それぞれの「よさ」を伸ばしてあげたいと思っています。これは私自身が子育てをしていて気づいたことなんですよ。

そう気づかれたのは、どんなときだったのでしょうか。

我が子が小学生のときに学校から「お子さんのよいところを書いてください」というアンケートがきたんです。ところが、よいところが思い浮かばず、なかなか書けなくて、すごくショックだったんですね。例えば、よく家の鍵を忘れて登校し、私が帰宅するまで玄関前で待っているとか、悪いところが思い浮かぶわけです。

でも、よく考えてみたら、子どもは落ち込むでも怒るでもなく、ただ家の前で待っていただけ。考え方を変えれば、明るくておおらかな子だなと。これが私のターニングポイントで、以降は「こうしなさい」ではなく「認める」ことを大事にするようになりました。

意外です。保育のプロである先生も「普通の親」でもあるのですね。

よく保護者の方から「先生たちは子育てもプロでしょう」と言われますが、保育と子育ては全く別のもの。家では、私も普通の親なんですよ(笑)。でもだからこそ、保護者としての気持ちもわかります。それに親としての経験から気づかされることもあったのです。これからもいろいろなことを学んで、園長として成長していきたいと思っています。

今後の目標を教えていただけますでしょうか。

ここ4、5年ほどで子どもの数がどんどん減って、定員が埋まらないことが出てきました。でも、こういう状況だからこそよりよい保育をし、さらに地域に開かれたオープンな園にしていきたいと思っています。まずは園庭開放などで、在園児と地域の子たちとの交流ができたらいいなと考え中です。

最後に保育士を目指している人たちにメッセージをお願いします。

保育士の仕事は、今ではずいぶん改善されたとはいえ、さほど条件がいいというわけではなく、責任が重い仕事です。それでも、かわいい子どもたちの0歳から就学までの成長を、保護者や他の職員とともに見届けられる素晴らしい仕事でもあります。小学1年生がランドセルを背負って見せにきてくれるとき、卒園生がニコッとしながら通り過ぎるとき、すごく嬉しい気持ちになりますよ。

しかも、園の1日はあっという間、1週間もあっという間、1年もあっという間で、忙しくて退屈しないので長く感じるということはありません。1年目は園にきちんと通うだけでもOK。保育の仕事については、先輩に頼りながら成長していけばいいので、まずは気軽な気持ちで入ってきてほしいと思います。待っています。

(文:大西まお、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)

大沼先生が働いている園
施設名:川口西保育園
形態:認可保育園(150名)
設立:2007年
所在地:埼玉県川口市川口5-12-9

※2025年5月21日時点の情報です

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