今回お話を聞いた方
昔から子どもは好きでしたが、将来の夢としてはっきり意識したのは中学生のときです。家庭科の授業の職業体験で近所の幼稚園を3日間訪れたのですが、そのときの子どもたちの反応が本当にまぶしかったんですね。
絵本の読み聞かせをすると目をキラキラさせて反応するし、鬼ごっこひとつでも思いっきり悔しがったり喜んだりする。「私にはこれしかない。将来は幼稚園の先生になりたい!」と強く思いました。
はい。高校卒業後は日本音楽学校という専門学校に進み、幼稚園教諭の資格を取得しました。そこから幼稚園教諭として働きながら結婚を経て息子を出産し、幼保一体型の園に息子を預けることになったんですね。
そのときに息子の担任をしてくださった0歳児クラスの先生方が私にとっては本当に心強くて。幼稚園教諭としての経験があったとはいえ、初めて親の立場になって子どもを育ててみると、やっぱり悩むことがたくさん起きるんですよ。
でも、先生方はいつもおおらかな笑顔で、息子やクラスの子どもたちをかわいがってくれる。私たち親の様子もよく見てくれて、さりげなく声をかけてくれる。一緒に手を取り合って子育てをしているような感じだったんです。
そんな毎日を過ごすうちに「保育園の先生も素敵だな。0歳からの保育をやってみたい」と実感したので、通信大学に2年間通って保育士資格を取得。その後、保育園に就職し、保育士として勤務するようになってから今年で12年経ちます。
両方を経験したからこそ変わらないなと思える部分は、「子どもは未知の子」というスタンスですね。子どもには未知の可能性がいっぱいある。そこは子どもたちに接する上で、ずっと変わらず大切にしている保育観です。
逆に、幼稚園と保育園の大きな違いを挙げるとすれば、やはり保育園は0~6歳までの子どもたちを見られることです。生まれて数か月の赤ちゃんの頃から、小学校に入る直前までの成長を長く見守っていける。私が保育士を選んだ一番の理由はそこですね。
それに、成長するのは子どもだけではありません。子どもが0歳から6歳になるということは、ママやパパだって親としては0歳から6歳になるということ。保護者の方々が親として成長されていく姿を間近に見られることも、保育者の大きな喜びのひとつだと思っています。
もう毎日がやりがいに溢れていますよ。子どもが「おはよう」と元気に登園してくれたとき、「明日も楽しみ!」と笑顔で帰っていく姿、夕方に早足でお迎えに来たお母さんが、わが子と顔を合わせてぱっと二人とも嬉しそうになる光景など、毎日のさまざまな瞬間にやりがいを感じています。
子どもが歩けるようになった、話せるようになったなどの成長の瞬間に立ち会えることも、日中の長い時間を一緒に過ごす保育者だからこその特権かもしれません。
一方で、「私たちが一番を取ってはいけないよ」ということは園の先生方ともよく話しています。
その子の人生初めての瞬間は、できるだけおうちの方に一番に見ていただきたいと思っています。保育園は子どものための施設ですから、ちょうど乳児が手をかけやすい高さのものがたくさんあります。なので、保育園で初めて歩き出すようになる子は意外と多いんですね。
だからといって、「○○ちゃん、今日歩きました!」と報告してしまっては、保護者の方から「一番」の思い出を奪ってしまうことになりますよね。やっぱり最初の瞬間は特別なものですから、親子で分かち合ってほしい。
ですから、そんなときは「そろそろ歩きそうですよ。ちょっとおうちでも見てあげてくださいね」と保護者の方にさりげなく伝えるような対応を心がけています。そうすると、翌日になって「先生、昨日初めて歩けるようになりました!」と保護者の方が教えてくれることもあるんですよ。そんなときは私たちも心から嬉しくなりますし、おうちの方と保育園で喜びを分かち合えてよかったな、と実感します。
あえて遠回りさせてみる、ことでしょうか。親御さんはわが子がかわいいので、やっぱり先回りして転ばないように手を出したり、危険を避けたりしますよね。もちろん、それは正しいことではあるのですが、そればかりだと子どもの「やってみたい」という気持ちを止めてしまうことにもなりかねません。
だからこそ、保育のプロである保育者がいる場では、子どもたちの「やってみたい」をできるだけ尊重して、「失敗しても大丈夫だよ」と学べる経験も積ませたいと思っています。時間をかけてもいいし、遠回りになってもいい。安全な近道ばかりを歩かせるのではなく、子ども自身が今やりたいこと、興味を持っていることを後ろからそっと見守りながら、「できた!」を引き出せるようにしてあげたい。
本当は手を出してしまったほうが、大人としては楽なんですよ。でも、子どもが本当にキラキラした笑顔になるのは、やりたかったこと、できなかったことが「できた!」に変わる瞬間なんですね。
だからこそ、子どもたちのやりたい気持ち、一人ひとりの未知の可能性を信じて寄り添う保育を大切にしよう、ということは職員にも伝えています。子どもはみんな未知の子ですから。
今の保育園の前園長先生から、「園長になってみない? あなたならできるよ」とお声がけいただいたことです。園長に就任して今年で5年目になりますが、もともとあまり垣根がないというか、「みんなで子どもたちを見て行こう」という価値観を大切にしている園なので、「他の先生方と一緒に協力しながらできるのであれば」という気持ちでお受けしました。
ですから、私たちの保育園では、園長がピラミッドの頂点に立っているような存在ではないんですね。そうではなく、愛情深く、一生懸命に保育に向き合ってくれる周りの先生方と一緒にみんなが手を取り合って「円」になり、子どもたちと一緒に過ごしている。そんな保育園でありたいと思っています。
私の園長歴はまだ5年目ですが、若い先生方がぐんぐん成長していく姿を見ることができるのは嬉しいですね。実習生として入ってくれた子が、「ここで就職したいです」と戻って来てくれたり、ピアノが苦手だった先生が一生懸命に自主練していつの間にか上手になっていたりする姿を見ると、本当に嬉しくなります。
SNSを活用している目的は大きく2つあります。ひとつは、保育の透明性を大切にするためです。私たちが普段どんな保育をしているのかを、包み隠さず見てもらうことで安心感を抱いてもらえたらと思っています。TikTokに関しては、若い世代の保育学生に向けて、どんな保育園なのかを知ってもらうためという位置付けもあります。
もうひとつは、保育園の先生方が頑張っている姿を知ってもらうためです。一番に大切なのは子どもたちですが、子どもたちを育てるために一緒にスクラムを組んでいる職員も保育園にとっては同じくらい大切な存在です。その一生懸命な姿をみなさんにも知ってもらえたら、という想いがあります。
普段から先生方の様子は、できるだけ見ているつもりです。今日はちょっと元気がないかな、と感じたら一声かけてみる。保育で悩みに直面しているのではと感じたら、「先生同士でたくさん話してごらん」と促すようにもしています。
あとは月に一度、職員間のコミュニケーションが取れるようなレクリエーションの時間も設けるようにしています。
職員全員が集まるのは難しいのですが、その日のお昼寝担当の先生を除いての職員会議の場で、例えば「隣の先生のいいところをひとつ褒める」「隣の先生を花に例えてみる」などのお題を出すんですよ。そうすると、ハッとするような新鮮な意見が出てきて面白いですし、お互いに褒め上手になれるので、チームワークが自然と深まるんですよね。
そうです。会議ってどうしても硬いイメージがありますから、意見が出しづらかったりもしますよね。もっとみんなが肩の力を抜いて、自分の意見を出せるような雰囲気をつくりたいなという気持ちから始めました。
20代から60代まで、幅広い年代の先生たちが一緒に働いているので、よりよいコミュニケーションができるような仕組みづくりについては園長として日々考えています。
世間からは「保育士って大変な仕事だよね」と思われがちですが、日々純粋に素直に生きている子どもたちと一緒に笑い合えたり、成長を見守っていける素晴らしい仕事だと私は思っています。そこは保育士を目指している人たちにぜひ伝えたいことですね。
保育士は、子どもたちの人生に寄り添う仕事です。失敗もあるけれど、毎日「できた!」があって、成長の喜びを一緒に感じられる。大変さの何倍も、幸せをくれる仕事です。ぜひ、チャレンジしてみてください。
子どもたちが毎日ひとつでも「楽しかった!」と思えるような保育園であり続けること。それから子どもを真ん中にご家庭と保育園、地域の方など、関わる人たちがみんな幸せに笑い合えるような保育園でありたい、守っていきたいと思っています。
(文:阿部花恵、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)
長澤先生が働いている園
施設名:大宮みちのこ保育園
形態:認可保育園(80名)
設立:2019年
所在地:埼玉県さいたま市北区植竹町2-69-6
※2025年7月1日時点の情報です
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