「朝の元気な姿のまま、おうちに帰せるように」震災の教訓と対話を胸に、命を大切にする保育を【加藤恵理園長先生】

すてきな園長先生 保育

今回お話を聞いた方

加藤恵理(園長)
出身地:宮城県塩竈市
保育園勤務歴:10年
園長先生歴:1年
趣味:好きなアイドルのコンサートに友人や同僚と一緒に行くこと
好きな手遊び歌:「どんどんきのこ」「大阪うまいもんのうた」

友達に誘われたオープンキャンパスで保育の道へ

加藤先生が保育の道へ進むことを決めたきっかけを教えてください。

小学生のときにたまたま見たテレビ番組で、病院の小児科の様子が放送されていたんですね。番組では病気の子どもたちが取り上げられていたのですが、それを見て「子どもと関わる仕事っていいなあ」と漠然と思った記憶があります。

仙台の専門学校に進学したのは、オープンキャンパスがきっかけでした。高校卒業を控えて進路を考えたときに、保育士、看護師、販売業のどれがいいのか迷っていたんですね。そんなとき、医療系に進む友達に誘われて、専門学校のオープンキャンパスに行ってみたんです。最初は友達の付き添いのつもりでしたが、その学校の校舎の内部がすごく華やかで驚いたのと、個別相談で担当の先生が親身に話を聞いてくださって。「ここなら自分も安心して学べそう」と思えたので、保育士になるために入学を決めました。

専門学校での学びはいかがでしたか?

座学は難しい授業もありましたが、全体的には楽しかったです。ただ、2年間で一気に学ばないといけないのが大変でした。実家の塩竈市から仙台の学校まで通っていたのですが、1限から9限まで授業がみっちり詰まっていたので平日はアルバイトを入れることもできませんでしたね。それでも同じ状況の友だちがいたおかげで、支え合いながら乗り越えられました。

でも、今振り返ってみると、専門学校で2年間しっかり学んで、卒業後すぐに現場に出て働く、という流れは自分に合っていました。

「29歳で園長に?」戸惑いを越えて覚悟を決めるまで

卒業後はどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

在籍していた専門学校が運営する仙台市の保育施設に採用され、そのままずっと同じ園に勤めています。クラス担任を経て副主任、主任を経験した後、2025年4月から園長になりました。

20代の若さでの園長就任は異例のスピードだったはずです。

園長就任を勧められたときの正直な気持ちは、「え、29歳ですけど園長先生ってできるんですか?」でした(笑)。なりたいと希望していたわけではなく、むしろ「自分は園長のような立場にはならないだろうな」と勝手に思い込んでいましたから。

でも、じっくり考えていく中で、園長という職務を経験できる機会はそうないかもしれないと思い、お引き受けすることを決めました。実際になってみたら、想像の何百倍も大変でしたけど(笑)。

年上の職員をはじめ、園長という立場になってから周囲とのコミュニケーションで心がけていることはありますか?

言葉選びにはすごく気を遣うようになりましたね。以前のように同僚同士であれば「アドバイス」として伝わっていた言葉が、園長という立場から発すると「指示」に聞こえてしまうこともありますから。自分より年上の先生方はもちろん、同年代の先生方も大勢いますから、「どう思われているんだろうな」と不安になることも多々あります。それでも、責任ある立場になったからには年齢の上下はいったん割り切って、伝えるべきことはきちんと伝えよう、ということを常に心がけています。

それから、コミュニケーションを円滑にするためのひとつの方法として、定期的な個別面談は欠かさずに行っています。ひとり30分ほどですが、やっぱり定期的に顔を見て話し合う機会をつくると、そのときどきの些細な表情の変化にも気づきやすくなるんですね。普段、その先生が子どもたちとどう過ごしているかを見ていても、「もしかして今悩みを抱えているのでは?」とふと感じる瞬間にも気づけるようになる。そういうときに声をかけると、悩みごとがポロポロとこぼれてくるので、職員の思いを受け止める時間は今後も大切にしていきたいですね。

また、園長として今年度から実施したことのひとつに「先生同士がもっと対話できる場づくり」があります。うちの園の先生たちは、自分の保育への思いや考えを言葉にして話すのが好きな人がすごく多いんですよ。だから、「最近のうちのクラスの話を聞いてください!」といった発表と意見交換を兼ねたグループワークの時間を新しく設けたところ、結構みんなノリノリで参加してくれて。そこから、「私もそれで悩んでました」と職員同士が同じ悩みを共有できたり、直接の解決にはつながらなくても「聞いてもらえて気持ちが軽くなりました」という声ももらえたりと、発散や共有の場ができたのであればよかったなと思っています。

子ども、学生、保育者、「三方よし」の連携

園の行事などで力を入れていることはありますか?

保育を学ぶ学生さんたちが通う専門学校との連携には力を入れています。たとえば、専門学校が開催するお楽しみ会やお祭りなどには、保育園の子どもたちが「お客さん」として招待されるんですね。幼児って親や保育者などの大人世代と接する機会は多いのですが、20歳前後のおにいさん・おねえさんと接する機会が実はあまりないんですよね。

だから、子どもたちはお祭りやイベントを楽しめるし、保育を学ぶ学生さんたちは実際に子どもがどんな反応をしてくれるのかを実践的に学ぶことができる。そして同行する私たち保育者も、「おにいさん、おねえさん相手だとこんな表情になったりするんだ」「最近の保育業界ではこんなことが流行っているんだ」などの学びを得られる。三方にとって、すごくよい学びの機会になっていると思います。

専門学校の入学式では、毎年のオープニングパフォーマンスとして、学生と子どもたちが一緒にパフォーマンスを披露する一大イベントもあるんですよ。4歳児クラスの子どもたちが3か月かけてじっくり練習を重ね、数千人の前で発表するような機会はなかなかないので、それもすごくいい経験になっています。

3.11の記憶をつなぐ避難訓練

園長として保育で一番大切にされていることはなんでしょうか。

命です。子どもたちの命を守ることが、なによりも大切だと思っています。安心して過ごすことができて、保護者の方たちが朝預けてくださった体のまま、ケガがないように帰すこと。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、保育の中で絶対に守らなければならないこととして普段の保育や会議の場でも口にしています。

そう考えるようになったきっかけはなんでしたか?

保育士1年目のときに、園内であるお子さんが怪我をしてしまったんですね。私の担任していたクラスの子ではなかったのですが、責任を感じた当時の園長先生の本当に悲しそうな表情を見て、「私、子どもが怪我をすることへの認識が甘かったかもしれない」と衝撃を受けたことを覚えています。

もちろん、現場ではそう理想通りにいかなくて、1歳児クラスで「噛みつき」ラッシュが続いてしまう時期などは、どうしても防げないこともあるんですね。「そういう時期だから仕方ないですよね」と受け止めてくださる保護者の方々が多いので救われる部分もあるのですが、お預かりしている側としてできる限りケガは防ぎたい。そのために、園内でヒヤリハットの共有や事故報告書の確認などは徹底しています。

加藤先生は生まれも育ちも宮城県内だそうですが、「命に換えがきかない」と考えるようになった背景には、東日本大震災の影響もあるのでしょうか。

その影響はあると思います。あの日は私の中学校の卒業式でした。実家はあまり被害がないほうでしたが、うちの園は岩手をはじめ東北の他県出身の先生方もいるので、私よりずっと大変な経験をしてきた人もおそらくいるはずです。

当園では今も3月11日には、震災が起きた同じ時刻に避難訓練を実施しています。あの日に保育士として子どもたちの避難を実際に経験した先生の話を聞くと、「本当に簡単なことじゃなかった」とおっしゃるんですね。だから避難訓練では当時と同じように、お昼寝中だった子どもたちを布団から出して、上着や靴下を確保して、抱っこして部屋から出して……という訓練を行っています。3月の東北はまだ冷え込みが厳しいのですが、それも承知の上で実際に避難訓練をする。その経験の積み重ねが、いざというときの備えになればと思っています。あんな出来事はもう二度と起きてほしくないですから。

園長としての今後の目標を教えてください。

子ども、保護者、保育者、それぞれから「話を聞いてもらえて安心できる」「一緒に働いていると自信を持って仕事に取り組める」と思ってもらえるような存在になることです。みんなが安全に過ごすことができて、安心して自分の思いを伝えられる。そんな保育園づくりを今後も目標としていくつもりです。

最後に、保育士を目指す人にメッセージをお願いします。

体力も必要ですし、大変なこともたくさんある仕事です。ですが、子どもの笑顔や成長、気持ちが動いたときなど、嬉しい瞬間に直接携われる貴重な仕事であることも間違いありません。そんな嬉しい瞬間を保護者と共有し、信頼関係を育てていく喜びもあります。なにより、これから先の長い人生を生きていく子どもたちに、自分が伝えたいことを直接伝えることもできる。子どもと接することが好きな人であれば、きっとやりがいを感じられるはずです。

(文:阿部花恵、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)

加藤先生が働いている園
施設名:仙台こども保育園
形態:認可保育園(60名)
設立:2016年
所在地:宮城県仙台市若林区新寺1-4-16-2F

※2025年12月23日時点の情報です

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