今回お話を聞いた方
昔から近所の子どもたちと遊ぶのが好きで、自分の親や周囲の大人たちからも「子どもから慕われる性格だよね」とよく言われていました。保育士になろうと決めたのは、高校3年生のとき。なかなか進路が決まらない私に、担任の先生が「あなたは優しい性格だから保育士を目指したら」と言ってくれたことに背中を押され、保育の専門学校を探し始めました。
さまざまなオープンキャンパスに参加しましたが、先輩や先生たちの雰囲気があたたかくて、学校自体の設備もきれいだった県内の専門学校に進学。そこで3年間、保育について学びました。男性の先輩や同級生が、予想より多かったことも心強かったですね。
今思うと当たり前のことですが、「保育は遊びではないんだ」というのが第一印象でした。それまでの私にとって子どもと遊ぶことはただ楽しいだけのことでしたが、学校での座学や実習を通じて保育の専門知識をきちんと学ぶ機会を得られたことは本当によかったと思います。
とはいえ、学校での日々は楽しいことのほうがずっと多かったですね。実習に行くと初日には様子を見て距離を置いていた子どもたちが、日を追うごとに少しずつそばに寄ってきて、「一緒に遊んでくれた人だ」と私の顔を覚えて心を開いてくれる。子どもたちの表情が少しずつ柔らかくなっていく瞬間を見られることも、保育士という仕事のやりがいだなと感じました。働き始めてすぐに「天職だな」と思いましたし、その気持ちは今も変わりません。

専門学校で保育について多くを教わったつもりでしたが、それがそのまま保育士として現場ですぐに活かせるかというと、そんなことはまったくなかった。そこが最初の驚きでしたね。学校で教わったとおりに実践したはずが意外な方向に進んだり、逆に「え、これでよかったの?」ということがいい展開になったりと、予想外のことばかりでした。
でも、私の場合は大変さと同時に、そこにやりがいも感じたんですね。保育には絶対の正解はない。だからこそおもしろい。こちらの予想とは180度違うことを子どもがしてきたら、「そうきたか、じゃあこうしてみよう」と柔軟に向き合っていく。その試行錯誤の過程がとてもおもしろいですし、保育者にしか味わえないやりがいだな、と実感しています。子どもは一人ひとり違いますし、日々成長しますから、保育者にとって同じ日は一日だってないんです。
専門学校で学んでいた頃から、「いつかは園長先生になりたい」という夢がありました。自分が子ども時代を過ごした幼稚園では、園長先生が子どもたちはもちろん、現場の先生たちからも慕われていたんですね。自分もいつか園長になったら、上下関係に縛られず、お互いに助け合えるような園をつくれたら、という思いは働き始めた頃からずっとありましたね。
そこから4園で保育士として経験を積み、主任を経た後、2023年から今の保育園で園長としてのスタートを切ることができました。
園長になってまず新鮮だったのが、思っていた以上に周囲に助けてもらう機会が増えたことです。それまでは保育士として8年働いて中堅どころになっていましたから、若手の先生方をサポートしていく役回りだったんですね。でも園長として最初のうちはわからないことだらけでしたから、まわりの先生方に助けてもらいっぱなしでした。
園長になって2年が過ぎましたが、今のところはまったくありません。むしろ、若い先生方とは年齢が近いこともあって、気負わず親しくコミュニケーションが取れています。ある先生が、「前沢先生は園長だけど園長じゃないみたい。この園全体が自分にとってはもうひとつの家族みたいに感じられる」と話してくれたときは嬉しかったですね。現場の先生方はもちろん、子どもたち、保護者の方々にも大いに助けられています。年齢のプレッシャーを感じることもありますが、それをチャンスに変えていけたらと思っています。
ある職員から「園長先生は私たちが話しかけたら、絶対に作業の手を止めて聞いてくれますよね。だから話しやすいです」と言われてハッと気付かされたのですが、確かにそこは無意識のうちに心がけていた部分かもしれません。
キーボードをカタカタ打ちながら「え、なんですか?」と片手間で聞くのではなく、いったん手を止めて、相手の目を見て、できる限りきちんと応えるようにする。それは相手が大人でも子どもでも同じです。単に私が2つのことが同時にできないだけなのかもしれませんが(笑)。
「園長先生はリアクションが大きい」ともよく言われるのですが、それも同じで、「うんうん」「そうなんだ!」と相槌を打ったりリアクションをしたりすることで「あなたの話をちゃんと聞いています」と伝えているつもりです。そういう日常の小さなやり取りを積み重ねておけば、いざトラブルが起きたときでも話し合いがしやすくなりますから。
それに、大人たちが笑顔でいられる環境であれば、子どもたちも安心して笑顔になれますよね。そのためにも職員が安心して働けるような環境づくりにも力を入れています。持ち帰り仕事は極力少なくなるように工夫して、定時で帰りやすく、有給も取りやすい。お互いの不得意はカバーし合う。そんな働きやすい職場をつくっていくために、私自身が普段から率先して定時で帰るようにしています。

私が園長に就任したのは、ちょうどコロナ禍が明けた直後でした。行事の削減や縮小などはまだまだ制約がありましたが、それでも「できない」と決めつけるのではなく、「できることを少しずつ増やしていこう」と職員全体で話し合いを重ね、夏祭りや運動会の行事の対象年齢を広げる取り組みなどを行ってきました。
子どもたちの経験の幅を広げたいという思いと、保護者のニーズにも応えたいという意識。園の行事に関しては、どちらも同じくらい大切にしながら取り組んでいます。
園長として特に意識しているのは、保育者自身の学びや強みを保育に生かすことです。
たとえば、絵本の読み聞かせ。保育者なら毎日のようにしていることですが、あるきっかけで知り合った絵本セラピストの方に読み聞かせの知識や技術を教わって実践してみたところ、子どもたちの反応が格段によくなったんですね。先生たちにとっても「こんな読み方があるんだ」という新たな気づきになりましたので、今年からは月1回の「お話会」を園内研修としてスタートさせました。
最近は、音楽を取り入れた保育にも力を入れています。私が学生時代にカホンという打楽器を演奏していたことから、リトミックの時間に新たにカホンを取り入れています。打楽器は叩くだけで簡単に音が出せますから、日常的にふれることで自然とリズム感が育つんですね。段ボールで手作りしたカホンで、発表会やお誕生会でも一緒に演奏して楽しんでいます。
自分が得意なことをひとつでいいので見つけてください。歌うのが好き、走るのが速い、工作や楽器演奏ができるなど、何でもいい。どんなことでもきっとなにかしら保育につながりますから。自分の得意やスキルと保育を結び付けられるようになれば、それが保育者としての自信にも必ずつながります。
それから、現場にいる保育者のみんなは敵じゃなくて味方なんだよ、ということも伝えたいですね。あまり上下関係を気にしすぎずに、思い切って自分の意見を出してぶつかってほしいな、と思っています。私も園長としてはまだまだ未熟なので、周囲の先生たちに助けられながら日々頑張っている真っ最中ですから。
保育士の仕事は決してラクなことばかりではありませんが、やっぱり子どもたちの笑顔を見ると元気がもらえます。「おはよう」と話しかけて「おはよう」と返してもらえる。それだけでも、毎朝すごく嬉しくなりますから。
私はプライベートでは幼い子どもを2人育てていますが、日中は保育園で子どもたちに癒やされて、自宅へ向かう帰り道でも、待ちきれなくてわが子とビデオ通話をしちゃうんです。子どもの笑顔には、それくらいのパワーがありますよ。

(文:阿部花恵、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)
前沢先生が働いている園
施設名:にじいろ保育園磯子
形態:認可保育園(70名)
設立:2014年
所在地:神奈川県横浜市磯子区磯子3-13K Brillia City 横浜磯子
※2025年12月4日時点の情報です
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