全国の園長会の運営を取材するシリーズ「となりの園長会」。第2回は法人の園長会に焦点を当てます。お話いただいたのは、社会福祉法人種の会 理事長の片山雄基さま。多様な形態の21施設を運営する同法人の経営会(園長会)には、参加者の参画意識を高める工夫がたくさんありました。
<今回の園長会>
・名称:社会福祉法人種の会 経営会
・参加人数:約20人 <大規模こども園・保育園10園(小規模保育園4園を代表した1名が参加)、児童館2館(学童5施設のグループ長が参加)、本部職員4人、常務理事、理事長>
※管理職のオブザーバー参加はテーマによって可能
・開催頻度:月1回(年3回対面、9回オンライン)
・開催時間:対面は10:00~17:00、オンラインは13:00~17:00
<記事の要約>
・全施設が集まる経営会(園長会)は年12回開催。大規模保育園、児童館、学童の施設長、小規模園の代表者と本部担当者が参加
・経営会では参加者の「参画感」を重視。事前ワークや司会の輪番制を取り入れる
・会のテーマは理事長が中心となり決定。園長にとって重要度が高く緊急度が低いことを選ぶ頻度が多くなるよう工夫している(緊急度が高いテーマが挙がることもあり)。
・資料作成には「Googleドライブ」、園同士のやりとりでは「Microsoft Teams」などデジタルツールを積極的に活用
・経営会以外に近隣ごと、施設形態別でも適宜打ち合わせの場を設けており、園同士の連携をとっている
ー園長会の運営形態について教えてください。
当法人では、神戸、大阪、関東エリアで、認定こども園、大規模保育園、小規模保育園、児童館、学童など、さまざまなタイプの計21の施設を運営しています。地域ごと、種別ごとで集まる会議もありますが、昨年度からは全体で集まる経営会(園長会)を増やし、現在は月1回のペースで年間12回開催しています。
経営会の参加者は、業務内容に重なるところがある大規模園、児童館長(学童の施設長)、小規模園の代表者と本部担当者4名の計20名程度。オンライン会議は午後の約4時間を基本とし、年3回関西で行う対面会では1日しっかり時間をかけて実施します。
ーなぜ全体で集まる「経営会」の頻度を増やされたのでしょうか?
「結論にいたるまでのプロセスや意見交換の時間をより大切にしたい」と考えるようになったからです。それまで経営会では、検討事項や決定したことの共有が主でした。短い時間のなかで矢継早に議題が変わっていくので、話についてこれず、終わったあと消化不良になる園長も少なくなく、実際に経営会での決定事項が各園で実践に至らないケースも出てきました。そこで開催頻度を年8回から年12回に改めて、園長同士の意見交換の時間を増やすことにしたんです。
(対面で開催時の管理職会議の様子)
ー経営会の運営体制について教えてください。
会の運営は、法人本部の4つの専門領域チーム(財務労務、人事労務、広報企画、研修研究)と、園長との連携で成り立っています。毎回、固定のメンバーが運営するわけではなく、司会は園長の持ちまわりで年一回は担当がまわってくるようなイメージです。なので、各会の運営者は各チームの代表者4名、担当の園長、私の計6名ですね。
ー経営会では、毎回テーマを設けていると聞きました。
そうですね。テーマは私が中心となって設定していて、すでに4〜5か月先くらいまでは決めています。内容はさまざまですが、重要度が高く・緊急性は低く見えることを選ぶときが多いです。例えば8月の会は、災害時にいかに早く事業を復旧できるかを考える「BCP(事業継続計画)」を軸に開催しました。
とはいえ、テーマには関係なくても検討が必要なこともたくさんあるので、そのあたりは開催の7〜10日前までに一度、運営者の6名で打ち合わせをします。議題を洗い出して、ざっくりとした狙いを共有したうえで当日の時間割を決めるんです。
ー資料はどのように共有されていますか?
クラウドサービスの「Googleドキュメント」で作成して事前共有しています。紙で見たい人は自分で印刷してくることもできますし、そのあたりは個人の自由ですね。資料の共有手段としては「Microsoft Teams」を使っています。それまで約15年メーリングリストでやり取りをしていましたが、切り替えました。
クラウド上で資料を共有する利点は、参加者がどこからでも資料を閲覧・編集ができることです。それまでは「Word」の資料をメールに添付して共有していたので、資料を同時に編集することができず不便でした。今は「Googleドキュメント」上で複数人で一斉に書き込めて、参考URLやPDFなどの補助資料も添付できるので資料作成のストレスがなくなりました。
ー経営会の流れや、内容を具体的に教えてください。
毎回、冒頭の10分は「マネジメントブック」という法人の理念を書いた冊子を音読します。読むページは司会の園長が決めて、その箇所を選んだ理由も発表してもらいます。続いて私から30分間、その日のテーマを選んだ意図や現在の課題・法人のこれからの取り組みについてなどを話します。
その後、メインテーマを協議し、テーマと関連する領域担当者から問いや発信があります。グループディスカッションを実施することも多いです。6月のテーマは「園児募集」でしたが、会話が入り乱れ、大いに盛り上がりました。とにかくみんなよく喋るんですよ(笑)。
後半は30分ずつ各専門チームからの発表。最後に給食や健康経営などのプロジェクトチームからの発表があります。
<タイムラインの例>
13:00〜13:10 マネジメントブックの音読
13:10〜13:40 理事長から挨拶
13:40〜14:50 グループディスカッション
15:00〜17:00 各専門チーム、プロジェクトからの共有
(種の会のマネジメントブック)
ー対面で開催する場合はいかがですか?
グループディスカッションの時間を長めにとり、3〜4人の小グループでテーマに対して、話し合ってもらいます。会の場所は、規模が小さいときは法人本部の事務所でやっていましたが、人数も増えたので今は神戸や新大阪で会議室を借りています。
ー話し合いが活発な印象です。会議の活性化のために工夫されていることはありますか?
一番は、会の前にすべての園長が記入する「事前ワーク」を設けていることです。事前に共有する会議資料の中に、各園長が自分の考えを記入する欄をつくっているんです。例えばテーマが「園児募集」であれば、「地域の子育て家庭に選ばれるためには?」という問いに対して、各園長が自園で行った実績や工夫していること、あるいは逆に失敗したことや悩んでいることも書いてもらいます。
ー事前にテーマに対してそれぞれが考える時間をとっているんですね。
はい。話し合いを本質的な方に向かわせたい、という狙いと参加者の「参画感」を大切にしたいという想いで行っています。事前にある程度考えてきてもらうことで、限られた時間の中でも深い話し合いができていると感じています。
園長たちの書き込みを受けて、午後半日のオンライン開催の場合は、経営会当日の午前中に30分くらい時間をとって、司会担当の園長と二人でワークの回答を全部読んで、午後の経営会の進め方を最終決定しています。
ー運営と参加者が一体となっていると感じます。他にも工夫されていることはありますか?
空気づくりの面でいくと、私からみんなに「本当になんでも言っていいよ」としつこく言っていて、態度でも示しているつもりです。結果、いつも「時間、巻いて巻いて!」っていうくらいにみんなよく喋ってくれるので、話しやすい空気感でやれているのかなとは思います。
あとは、園長にとっても身近で重要なことをテーマに置いているので、全体の目線が揃っているというのもあるのではないでしょうか。
ー会を運営するうえでの失敗談などもあれば、教えてください。
以前、関西・関東それぞれエリア別に集まって、2つの場所をオンラインでつないで開催した経営会は、あまりうまくいかなかったですね。どうしてもメイン会場でないメンバーは、参加者同士で違う話をするので、会全体としての集中度が下がってしまうんです。
それからはオンラインの経営会ではたとえエリアが同じでも集まらず、各自のパソコン画面から参加する形をとっています。
ー種の会ではなぜ、異なる形態の施設が集まって経営会をされているのでしょうか?
運営形態による違いももちろんありますが、施設長に求められる役割は、予算管理や事業計画、第三者評価など共通しているところも多いですよね。私たちは、そうした業務の中での課題や経験を共有して、経営会という単位で一緒に考えた方がいいことがあると考えています。
異なる形態の施設が集まることで園長の視野が広がり、施設間の連携も進んでいます。例えば運営している児童館では午前中に、どこの園にも所属していない親子が遊びにこれるイベントを随時開催しているんです。児童館に遊びにきている方たちを近隣の定員割れしている保育園の園児募集につなげる、といった協力関係も経営会をきっかけに広がりました。
***
実はコドモンが事前に行ったアンケートでは、園長会に所属している園数として一番多かった回答が「10〜30園」でした。12施設と本部が参加する種の会の経営会はモデルケースと言えそうです。
特に、事前ワークの導入、資料の事前共有、司会をひとりに固定せず参加者の間で持ち回り制にするといったアイデアは、他の園長会でもすぐに取り入れることができるのではないでしょうか。
片山さまの「とにかくみんなよく喋るんですよ」という言葉に代表されるような、活発な話し合いと参加者の主体性が印象的な、非常にエネルギッシュな会でした。
【取材協力】
片山雄基さま(社会福祉法人種の会 理事長)
▼質問・推薦フォーム
コドモンでは今後も、多様な園長会の取材を予定しています。
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