午睡中の子どもを安全に見守りながら、保育者の負担を減らしたい──。そんな現場の声に応える形で2021年からスタートしたのが、カメラ型午睡見守りシステム「ベビモニ」とICTシステム「コドモン」の連携です。「ベビモニ」を提供するEMC Healthcare株式会社取締役の浦上悟さんと、コドモンの開発本部プロダクト企画部のマネージャーを務める向井が、これからの保育とテクノロジーの関係について語り合いました。
【まとめ】
・午睡管理は予防医療と同じ「安全管理」と捉える
・効率化の追求よりも、保育の本質を尊重する
・両社の連携により子どもの理解と地域連携の拡大へ
―お二人の経歴について教えてください。
浦上:私はもともとは経営コンサルティング会社で医療・ヘルスケア分野を専門にしており、日常生活でどうすれば健康を支えられるかという課題にコンサルタントとして取り組んでいました。国内メーカーの技術を海外につなぐ支援なども担当していたのですが、慎重さを求められる日本の医療改革にずっともどかしさを感じていたんですね。もっとスピード感を持ってデータを中心にした医療やヘルスケアへの関わり方があるのでは、と考えた結果、2017年に創業したのがEMC Healthcare株式会社です。
当初は医療寄りのプロダクトが中心でしたが、プロダクトを提供して現場の方々とふれ合う中で、エッセンシャルワーカーの重要性を痛感し、看護・介護・保育の現場を支える方々を支援する方向に舵を切りました。そこから開発したのが、午睡時の子どもの姿勢や呼吸をカメラで見守るAIシステム「ベビモニ」です。その後、コロナ禍が世界を襲い、判断が間違ってなかったと再認識しました。
向井:僕は2023年にコドモンに入社して以降、園児募集・採用支援サービス「ホイシル」や施設内ドキュメントチームの担当を経て、現在は開発本部プロダクト企画部でプロダクトマネージャーを務めています。
奇遇にも、前職は浦上さんと同じくヘルスケア領域とも重なる健康系サービスのベンチャー企業に在籍していました。その後、二児の父となり、子どもを取り巻く環境に目を向けたときに、単なる業務の効率化を超えて、テクノロジーの力でできることがもっとあるはずだと考えるようになり、コドモンのミッションに共感して入社しました。

―お二人がそれぞれ感じている、保育現場の午睡管理の課題についてお聞かせください。
浦上:午睡管理とはすなわち安全管理ですよね。命を見守る大切な作業である一方で、ただでさえ多忙な保育者の方々が、安全管理のためにどこまで時間と労力をかけられるのかという問題もある。子どもの安全管理と現場の負担軽減、両者をどう両立するかが課題だと感じています。
向井:僕も今の浦上さんのお話とまったく同じことを課題として捉えています。こども家庭庁の調査によると、保育施設での重大事故の約7割が睡眠中に起きているというデータ*があるんですね。
2025年2月にも東京都から安全管理の徹底について改めて通達がありましたが、現場で目安とされている「0歳児は5分おき、1〜2歳児は10分おきのブレスチェック」は、命に関わる大事なことではあるけれども、現場の先生方にとって大きな負担であることも間違いない。安全を守るために時間と注意を払う一方で、他の子どもたちへの対応もある。そのバランスをどう取っていくかが課題ですよね。
浦上:午睡チェックは、医療の観点から捉え直すと「予防医療」なんです。呼吸が止まってからではなく、止まる前に兆候をつかむこと。ただし、それ自体が難しいことですし、人によってチェックの意識にばらつきが生じることも避けられません。
たとえば、「うつぶせ寝」の基準について保育士さん10人に聞いてみたら、おそらく10人とも微妙に違う答えが返ってくると思うんです。顔の向きや姿勢、どこからがうつ伏せかそうでないかは、厳密に判断しづらい。そうした曖昧さが残りながらも「もっと徹底して」と指示だけが下りてくるのは、現場にとって苦しい状況だと思います。だからこそ、仕組みで支える必要がある。そんな課題感が「ベビモニ」の開発につながりました。

―ベビモニとコドモンが午睡機能の連携を始めてから4年目となりました。現場の反応はいかがですか。
浦上:連携によって午睡データがコドモンにも自動反映されることで、業務負担が軽減されるメリットは大きいようです。ベビモニ内でも自動記録はできますが、保育ICTシステムでも記録を管理したい園では手入力での転記が必要となるため、コドモンとの連携によって二重入力の手間が省ける点は非常に喜ばれています。「転記の手間が減った」「監査対応がスムーズになった」などの声を多くいただいています。
向井:監査対応については僕たちもやはり意識しています。最近は体調記録などをメモとして残せる備考欄を設けるなど、機能面での細かなアップデートを日々行っています。僕たちとしては、コドモンがハブとなってさまざまなサービスを連携できる「コドモンコネクト」の仕組みを構築していきたい、という理想があります。
この連携体制ではICTの基本的な部分はコドモンが用意しつつ、「ベビモニ」のような専門的な部分は他社さんの力をお借りしながら、効率化の先にある保育の理想の形を実現するお手伝いをしていきたいと思っています。
その上で、最初にお話した浦上さんと僕の共通の課題意識のとおり、子どもの安全と保育者の負担軽減をきちんと両立できるテクノロジーの価値を見出していきたい。「ベビモニ」でたとえるならば、AIのセンサーという目と人間の保育者の目、両方が働くことで、子どもの安全性をより担保できることに効率化以上の価値があると考えています。
―では、AIシステムを用いて午睡の課題に向き合う上で気をつけている点はありますか?
向井:僕たちとしては、AIは人間の先生の代わりではなく、あくまでサポート役のツールだと考えています。
たとえば、以前に午睡機能の改善を行うにあたって悩んだのが、全員分の午睡記録を一括で登録できる機能をつけるかどうかです。それを実装すれば、確かに業務は早く終わるでしょう。しかし、それでは先生方が一人ひとりの子どもを見守る主体的な時間を奪ってしまうことにもなりかねません。社内でもそこを議論した上で、現段階ではあえてその機能を外す判断をしました。
浦上:今のお話を聞いて驚きました。というのも、ベビモニでもまったく同じ意思決定をしていたからです。午睡の記録を一括でまとめて修正できる機能があれば確かに便利ですし、システム的にもかんたんにできるんですね。ただ、それが保育のあるべき姿なのかと考えると、僕たちもそれは違うだろうという結論になりました。
AIはあくまでも、人が見きれない部分を補完するツールです。呼吸の浅さや顔色の変化など直接見ている人にしか気づけない部分があって、その上でAIの検知がダブルチェックとして機能することに意味があります。単なる記録システムではなく、安全面や子どもとのふれあいを保育者から奪わないこと。それもICTやAI活用を進めていく上で重要なことだと思います。
向井:あまりに効率化だけを追求すると、子どもとの関わりという保育の本質が損なわれることにもなりかねません。そこのバランスは僕たちも意識していきたいと考えています。

浦上:もうひとつ、当社がAI機能開発で意識している点は、「ユーザーにAIであると意識させないこと」です。AIにまだ馴染みがない人からすると「なんだか難しそう」「ちょっと怖い」という声があることも承知しています。だからこそ、AIを意識させないUIを心がけていますし、「自然に使えて、気づいたら便利になっていた」という体験を届けたい。具体的には直感的に操作できて、かつそこまで画面を見なくても使えるようなシステムが理想です。新しい技術を前面に出すのではなく、使う人の感覚に寄り添うことが一番の鍵だと思っています。
向井:僕たちも同じ考えです。コドモンに関していえば、登降園管理や請求業務などさまざまな機能が含まれますから、それぞれの機能が別々の体験としてユーザーに負荷をかけないよう気をつけています。
コドモンは保育者の先生方の専門性を代行するのではなく、あくまでサポート役であり、「子どもに向き合うための時間を生み出す」ためのツールでありたい。その根幹の思いを忘れずに今後も開発を続けていくつもりです。
浦上:最終的な理想は、AIと向き合うことではなく、人と人のコミュニケーションを豊かにすることです。保育者と子ども、保育者同士、園と保護者、自治体と園──それぞれがよりよくつながるための橋渡しをAIが担う未来を目指しています。コドモンさんとは、これからも「安全」と「成長」の両立を支えるパートナーとして、一緒に取り組んでいきたいです。
向井:僕たちも「ベビモニ」が持つ精緻な睡眠データと、コドモンが持つ日中の活動データを組み合わせることで、一人ひとりの子どもの「育ち」をさまざまな角度から可視化できるようになると思っています。保護者にとっても、子どもがどんなリズムで生活しているかを客観的に理解できる材料になりますし、行政や医療機関ともデータ連携が進めば、地域全体で子どもの健康を見守る仕組みにも発展できるはずです。「午睡管理」で築いてきた関係を、ここからより広く発展させていきたいと思っています。

*出典:こども家庭庁「教育・保育施設等における事故報告集計」より
【関連記事】
>コドモンとベビモニの連携:詳細はこちらから
NEW