【保育ICTラボ事業】茨城県つくば市・東岡保育園 ICTが土台となって組織が成長 先端技術の導入で理念の共有と学びあいが加速(後編)

保育ICTラボ事業 ICT活用保育

2024年の開園時より、保育・教育施設向けICTシステム「コドモン」を積極的に活用してきた茨城県つくば市の東岡保育園。こども家庭庁の保育ICTラボ事業に「ICT高活用園」として参画したことを機に、「午睡チェック」「職員間連絡」「写真の共有・整理」の3分野の機能を新たに導入しました。

開園2年目にしてつくば市のロールモデルになったことによって、現場にどのような影響がもたらされたのでしょうか。上之涼子園長(写真中央)、その姉で工学博士で元研究職という異色の経歴を持つ小峰恵子副園長(写真左)、そして保育士の霜田夕雨子先生の3名にお話をうかがいました(※導入前のインタビュー記事はこちら前編中編)。

【まとめ】
・ペーパーレス監査では、「ココリン」上での午睡記録や「せんせいトーク」での会議録の共有が高評価

スマホから視聴できる質の高い研修動画を通じた「学び」が園内の日常として定着した
・専門家の助言を参考に年案・月案を「期案」へ統合。書類を園の方針に最適化したことで現場の負担が大幅に減った
・デジタルと対話の使い分け。事務連絡はアプリで省力化しつつ、温度感のある相談は対面を重視。ICTと直接対話の役割分担が明確になった
・ ICTが土台となり、現場から「園の理念を自分たちで形にしたい」という自発的な提案が上がる組織へ成長した

ICT導入後初のペーパーレス監査も体験

―新しい機能の導入から約半年が経ちました。前回は新機能の使用感を中心にお話いただきましたが、その後はなにか変化はありましたか?

小峰:大きな変化はありませんでしたが、それも職員が午睡センサーの「ココリン」や業務連絡ツールの「せんせいトーク」の使用にすっかり慣れてきたおかげとも言えるかもしれません。

霜田:「ココリン」は保育者側が扱い方に慣れてきたので、今ではすっかり日常に組み込まれています。特別に使い方を学ぶ勉強会を設けるなどはしませんでしたが、説明書を見ながらみんなでわからないところは教えあうような形で、少しずつ学んでいきました。もちろん心拍の自動確認というこれまでになかった安心感を得るために手間は少し生じましたが、それによって保育の流れが止まるようなことはありませんでした。

上之:「せんせいトーク」で引き続き役立っているのは、やはり簡単に視聴できる研修動画です。質の高い動画がたくさん配信されるので、その動画をもとに我々も今までの保育について考えを改めるきっかけをもらっています。

―ベテランの先生方にとっても新たな学びがあったのでしょうか?

上之:そうなんです。たとえば、園内に不審者が入った場合の対応について学ぶ動画を見たときは、「私たちが知っている不審者対応の常識とはまったく違う!」と衝撃を受けました。わざわざ外部の講演会などに出向かなくても、各自が手持ちの
スマホで視聴できる環境になったことはよかったですね。

小峰:園外からの反応で新鮮だったのは監査です。午睡チェックは「ココリン」のシステム画面を確認していただき、「5分おきにすごくきっちり記録されていますね。はい、こちらで問題ありません」とお墨付きをいただくことができて安心しました。

会議録に関しても、私たちの園では重要な内容はPDF化してテキストとあわせて「せんせいトーク」の掲示板に載せるようにしているので、それをお見せしたところ、「さすが現代ですね」という納得の言葉をいただけました(笑)。

上之:保育ドキュメンテーションも「これを毎日やっているんですか? きちんとされていますね」と褒めていただけましたね。

東岡保育園 園長先生

「なんのためのツールか」を問い直す

―東岡保育園はICT高活用園としてこの半年間、先進的な新機能を導入されました。参画したことで、園全体になにか変化はありましたか?

霜田:午睡センサーは、園児の心拍が常に感知される環境になったことによって、「自分たちは今まで、どれだけ正確に午睡チェックをできていただろうか?」をあらためて考えるきっかけになりました。5分おきに1人ずつを「見た」とは言っていても、自信を持って正確に「見た」と言い切れるチェックをしていたのか? 「ココリン」導入によって、命を守る責任を再確認できたことは保育士として勉強になりました。

上之:私としては保育ICT推進協会の三好冬馬先生のアドバイスによる学びも非常に意味がありました。「せんせいフォト」の使い方で配信用の写真をどう選ぶべきかという悩みがあったのですが、「優先順位と、かかる時間を可視化する」というお話を聞いて、「難しく考えずにドキュメンテーションで撮った写真をそのまま配信すればいいんだ」と気楽に考えられるようになりましたね。新しい機能ばかりに気を取られてしまいがちでしたが、「そのツールを何のために使うのか?」と自問することで、優先順位が見えてくる、という学びを得られました。

小峰:ICTはあくまでツールですからね。使うことが目的化してはいけないと私も再認識しました。副次的な効果として、職員みんなで考え、学ぶ機会が増えたことも実感しています。この写真はどんな意図で撮ったのか、子どもの育ちに対する視点、ドキュメンテーションのあり方などを考えることは、個別のツールの効果以上に多くのことをもたらしてくれました。

上之:保育ICTの新機能と直接的な関係はありませんが、三好先生のアドバイスによって劇的に変わったのが書類のあり方です。私たちは監査のために大量の書類を揃えなければいけないと思い込んでいたのですが、三好先生から「長期的な計画と短期的な計画がひとつずつあればいい」と根拠をもとに指摘していただき、視界が開けました。それまで作成していた年案・月案を廃止して、4期ずつの「期案」に集約したことで現場の負担もだいぶ変わりましたね。

霜田:以前は月末が近づくたびに「そろそろ月案をつくらなきゃね」と焦っていたのですが、それがなくなったおかげで時間に余裕ができて、普段の保育の質を高めることに充てられるようになりました。

東岡保育園 保育士

上之:もちろん、よりよい保育のために月案が必須であれば作成すべきですが、私たちが目指す保育を考えたときには期案という形が最適でした。子どもは日々成長しますが、狙いを立て、それを目指して成長を促すには、1か月ごとではあまりにもスパンが短い。春に新しいクラスに出会い、夏に遊びを展開し、秋に学びを深め、冬に次の春の進級を見据えて成長を促す、そんな季節の移り変わりに子どもの成長を合わせる期案を選択したことが、私たちの保育に沿ったベストな形だと考えています。

小峰:どの業界にも「書類作りのための仕事」がありますよね。私たちにとって月案はまさにそうでしたが、そこが改善されたことも収穫でした。

霜田:月案だと毎月読むだけで大変でしたが、期案であれば内容をしっかり読み込んだ上で、「前回はどうだっけ?」と振り返って比べる余裕もできましたね

東岡保育園 ICT

ICTを土台に保育の理念を実現したい

―10月下旬にはICTラボ事業の一環として、つくば市内のほかの保育施設の職員が東岡保育園を見学してICT導入の参考にする「事例共有会」も開催されました。

小峰:事例共有会も自分たちを振り返るよい機会となりました。準備期間で先生たちとさまざまなことを話しあえましたし、他園さんとコミュニケーションをとる機会も普段はなかなかないので、本当にありがたかったですね。他園の方からは、ドキュメンテーションの基本的な使い方で「どこから書類に落とし込めるのか」といった質問が多かったです。

上之:私もそうだったのでわかるのですが、コドモンを導入して最後まで手を着けるのをためらっていたのがドキュメンテーションなんですね。どうしても導入のハードルが高く感じられてしまって。私の場合は、コドモンさんの研修動画を見て「あ、こんな感じでいいんだ」とハードルが下がって着手できた感じです。慣れると今までは2枚書かなければいけなかった書類が1枚の手間で済むようになったので、負担軽減を実感できてすごくラクになりましたね。

小峰:これからICT導入を予定している保育施設には、出退勤の打刻などやりやすいところからスモールステップで始めていくことをおすすめします。一気にすべてを切り替えるのは大変ですから。

東岡保育園 副園長先生

霜田:私は以前に勤めていた保育園で登降園管理と写真販売でICTの利用経験がありましたが、ドキュメンテーションや「ココリン」は東岡保育園に来て初めての経験だったので、ひとつずつ覚えていけたことがよかったです。開園から1年半が経ちましたが、この短い期間で自分たちがこんなにいろいろなデジタルツールを使いこなせるようになるとは想像していませんでしたね。それに、同じツールでも、使う対象の園児が変われば別の新たな視点が生まれるようにも思います。

上之:書類ひとつとっても、「求められているから出す」のではなく、「自分たちの園にとってどんなあり方がいいのか」を考えること。自分たちの園の方針を書類に反映させてもいいんだ、という気付きは、私の保育士人生の中でも一番の衝撃だったかもしれません。

―逆に、ICTを導入したからこそ実感できたアナログのよさはありましたか?

霜田:0歳児クラスの午睡に関しては、「ココリン」の自動記録と並行して手書きのノートを今も続けています。保護者がお迎えに来たときに、睡眠時間や情報をパッと見て伝えるのにはやっぱり紙のノートが便利ですから。

上之:私は「せんせいトーク」で業務連絡が取りやすくなったからこそ、顔を見て直接対話することもやっぱり大切にしていきたいなと実感しました。せんせいトークは業務連絡にはとても便利ですし、伝え漏れを防げるという意味でも役に立ちますが、まだなにも決まっていない事柄を「これからどうしようか?」と相談したいときには、顔を見て話しあったほうがいい。伝達事項は「せんせいトーク」で、温度感のあるコミュニケーションは対面で行う、といった使い分けを進めることで、保育の質をもっと上げていけるはずだと信じています。

―保育ICTラボ事業という経験によって、園内の空気感や職員の先生方の意識にも大きな変化が生まれたのですね。

上之:つい先日、霜田先生を含めたリーダー陣の先生方が私を呼び出して、「東岡保育園が目指す保育を自分たちもやっていきたい」と思いを伝えてくれたんです。私たち姉妹も2024年の開園当初から思い描いていた保育のかたちがありましたが、早々に飛ばしすぎても現場の先生方を疲弊させてしまうかもとの心配もあり、ゆっくり進めていくつもりでいたんですね。でも、リーダー陣の先生方が「せんせいトーク」を使って「どうすれば東岡保育園の理念を形にしていけるか」について話しあいを重ね、その声を伝えてくれたことを知って本当に嬉しく感じました。

霜田:開園当初から園の理念を理解したいと思いながらやってきましたが、2年目に入って周りの先生たちもようやく落ち着いてきたタイミングだったので、「開園時の研修では園長がこんなこと言ってたよね」「どうすれば実現できるかな」という会話が職員間で出るようになったんですね。そこから「じゃあ園長に話に行こう」という流れになったのですが、私だけでなくみんな同じ方向を向いてこの園のことを考えているんだなとわかったことが私もすごく嬉しかったです。

小峰:ICTが土台となって「みんなで学ぶ」空気が生まれたことが、組織全体としての成長につながったように私も感じています。「せんせいトーク」によってコミュニケーションの量が増え、「せんせいフォト」やドキュメンテーションの活用を通じて保育の本質について考える機会が得られたことも作用しているはずです。新しいことを始める際には必ず抵抗が伴いますが、それでも確実に学びを得られる機会になる。今回の保育ICT事業がそのことを教えてくれました。

東岡保育園
事業種別:認可保育所
定員:90名
所在地:茨城県つくば市東岡250

東岡保育園:インタビュー動画(後編)

【保育ICTラボ事業】東岡保育園:導入前インタビュー記事(前編)

【保育ICTラボ事業】東岡保育園:導入から2か月(中編)

保育ICTラボ事業とは

【保育ICTラボ事業】つくば市の取り組み

【保育ICTラボ事業】つくば市役所職員インタビュー

つくば市公式サイトでのご紹介

▼さらに詳しく学べる無料セミナーを開催

つくば市 セミナー 保育ICTラボ事業 こども家庭庁

本記事で紹介した成功事例の裏側をお話するオンラインセミナーを開催します。

日時:2026年2月27日(金) 13:30~15:00
参加費:無料 / 見逃し配信あり(7日間)

【セミナーで分かること】
・施設のICT活用が進まない「本当の理由」
・自治体がやるべき支援とその効果
・令和8年度の事業計画に活かせる示唆

▼ 詳細・お申し込みはこちら
https://attendee.bizibl.tv/sessions/seEgonjZbyMj

保育ICTラボ事業の記事

記事一覧をみる

NEW

新着記事