保育ICTってなに?~導入への第一歩~

ICT活用 保育

近年、保育者の業務負担軽減と保育・教育の質向上を目的として、保育ICTシステムの導入が注目されています。とはいえ、「どんな業務がICT化できるのか」「何を基準にシステムを選べばいいのか」「そもそも自園に必要なのか」といった疑問や不安を抱えている方も少なくないではないでしょうか。

本記事では、保育ICTシステムの基本的な仕組みや実際に導入している施設の声、具体的な業務内容、選び方のポイントまで、わかりやすく解説します。

保育ICTシステムとは?

保育ICTシステムとは、保育施設において、インターネットなどの情報通信技術(ICT)を活用し、保育者の業務を省力化する仕組みです。
登降園の記録、連絡帳、職員のシフト管理、写真の販売・共有など、これまで手作業で行っていた業務をICTで効率化することで、保育に集中できる時間を確保しやすくなります。

なぜ注目されているの?

保育ICTシステムが注目される背景には、保育現場が抱える課題があります。とくに次の3つの変化が大きな理由です。

保育者不足と長時間労働

共働き世帯の増加により、保育サービスの需要が高まっています。その一方で、保育者の人材不足が深刻です。厚生労働省によると、保育者の有効求人倍率は全職種平均の2倍以上であり、保育者の確保が難しい状況が続いています。

そのため、1人の保育者が抱える業務の負担が大きくなりがちです。ICTの活用により、業務の省力化を進めることで、こうした負担の軽減が期待されています。

保育現場の「働き方改革」

保育者の業務は、保育そのものに加え、保護者対応、事務作業、行事準備など多岐にわたり、長時間労働が常態化しています。その改善策のひとつとして、ICTによる事務作業の省力化が求められています。ICTを活用することで、保育に専念できる時間の確保につながります。

保護者からの情報ニーズの変化(スマートフォン時代)

スマホの普及により、保護者はリアルタイムの情報提供を求めるようになりました。共働きや核家族化の進行により、日々の様子をタイムリーに知りたいというニーズが高まっています。

厚生労働省の調査によると、保護者は保育施設から適切なタイミングで、わかりやすい形式での情報提供を求める傾向が強まっています。スマホやタブレットを使った連絡手段を導入することで、保護者とのコミュニケーションもより円滑になります。

保育ICT導入のメリット・デメリット

では実際に、保育ICTを導入するとどのような変化があるのでしょうか。ここでは、園・保育者・保護者それぞれの立場から見たメリットと、あわせて検討すべきデメリットについて紹介します。

メリット

【園にとってのメリット】
業務省力化:事務作業の時間を削減し、保育者が保育に集中できる環境が整います。
採用促進:働きやすい環境を整備することで、保育者の採用・定着率向上につながります。

【保育者にとってのメリット】
業務負担の軽減:手書きの書類作成や紙での情報共有がデジタル化され、業務の省力化が図れます。
保育に集中できる:事務作業の時間が短縮され、子どもと向き合う時間を確保できます。

【保護者にとってのメリット】
情報共有の円滑化:連絡帳やお知らせがデジタル化され、情報の伝達がスムーズになります。
利便性の向上:スマホでの連絡や情報確認が可能になり、欠席連絡等の負担が軽減されます。

デメリット

導入コスト:システムの導入には初期費用や月額費用が発生します。
職員のITリテラシー:パソコンやタブレットを普段使わない職員が慣れるまでに時間がかかる場合があります。
ネット環境の整備:安定したインターネット環境の構築が必要です。

保育ICTで省力化できる業務

ICTの活用によって、保育者が日々取り組むさまざまな業務が省力化されます。ここでは、具体的にどのような業務が省力化できるのか、代表的な機能をご紹介します。

登降園管理

打刻システムで園児の登降園時間を自動で記録する機能です。保護者がICカードやQRコードを使って打刻することで、職員が手作業で記録する必要がなくなります。

さらに、園児ごとの保育時間や延長保育時間を自動で算出できるため、月末の時間集計や延長保育料の計算といった煩雑な作業が大幅に軽減されます。

また、登降園データは指導監査用の書類や日誌などにも自動反映できる仕様になっていることが多く、転記ミスの防止や記録業務の省力化にもつながります。

写真販売

園で撮影した日々の保育の様子や行事の写真を、オンライン上で保護者に販売・共有できる機能です。

写真を印刷して掲示し、申込用紙を配布・集計して、現金を回収するといった一連の作業が、すべてシステム上で完結します。
保護者はスマホやパソコンから閲覧・購入でき、園側は販売数や収益の管理も自動で集計できるため、手間もミスも大幅に削減されます。

また、公開する写真はパスワード付きで閲覧範囲を限定できるなど、プライバシーにも配慮された仕組みが整っているため、安心して運用できます。

職員のシフト作成・管理

職員の勤務シフトを効率よく作成・管理できる機能です。
登園予定の園児数に応じて、必要な保育者数を自動で算出し、それに合わせて早番・中番・遅番などの時間帯別配置をバランスよく割り当てることができます。

また、作成されたシフト表について、配置基準を満たしているかどうかを自動でチェックする機能を備えたシステムもあり、職員配置の適正化に役立ちます。

これにより、シフト作成にかかる時間が大幅に削減されるだけでなく、職員間の不公平感を防配置基準を満たしているかどうかを自動でチェックする機能ぐ柔軟な運用も可能になります。

保護者との連絡

欠席・遅刻・延長保育など、日々の連絡をシステム上で行える機能です。
これにより、電話の取次ぎやメモの確認といった手間が減り、職員の朝の対応業務を大幅に軽減することができます。

また、連絡帳や園からのお知らせ、緊急連絡(休園・災害時対応など)もシステム上で一括配信でき、情報の伝達ミスや見落としを防げる点も大きなメリットです。
システムによっては、保護者がメッセージを確認済みかどうかを園側で把握できる機能もあり、確実な連絡体制の構築にもつながります。

保護者にとっても、忙しい朝や勤務中でもスマホで手軽に連絡ができるため、双方向のコミュニケーションがよりスムーズになります。

保育料の請求

園児の登降園記録や保育時間の実績データをもとに、月ごとの保育料や延長保育料を自動で計算できる機能です。
これにより、これまで手作業で行っていた計算・請求書作成・金額の確認といった作業の手間が大幅に削減されます。

さらに、システム上で保護者への請求書の送付、入金状況の確認、未払金の管理まで一元的に行えるため、煩雑になりがちな経理・集金業務を省力化できます。

金額の計算ミスや伝達漏れといった人為的なミスの防止にもつながり、園と保護者の間の金銭的なやりとりをスムーズかつ正確に管理することができます。

指導案の作成

日々の保育の振り返りや計画立案に欠かせない、日誌・週案・月案などの指導案を作成する機能です。
あらかじめ用意されたテンプレートを活用したり、過去の計画を複製して編集したりすることで、一から作成する時間や手間を大幅に削減できます。
保育者同士で内容を共有しやすくなり、チーム内での保育方針のすり合わせや引き継ぎもスムーズになります。

また、園全体で記録の形式が統一されることで、監査対応や報告業務にも安心して対応できる環境が整います。

園バスの運行管理

GPS(全地球測位システム)を活用し、園バスの現在位置や運行状況をリアルタイムで確認できる機能です。
保護者や職員がスマホやパソコンからバスの位置を把握できるため、待ち時間の不安を解消したり、安全への意識を高めたりする効果があります。

また、保護者からの「今日はバス不要です」といった連絡をシステム上で一元管理できる機能や、バス到着時に自動でお知らせが届く通知機能を備えたツールもあります。
登降園の混雑緩和や職員の確認作業の軽減にもつながり、安全性と効率性の両立を図ることができます。

献立作成

日々の給食やおやつの献立を作成・記録し、保護者に配信できる機能です。
季節行事やアレルギー対応を加味した計画も立てやすく、園児ごとのアレルギー情報と連携して誤配膳のリスクを減らすことができます。

また、クラスごとの出席数や食数を自動計算できる機能を備えたシステムでは、調理スタッフとの連携がスムーズになり、準備作業の手間も削減できます。
保護者にも、給食の内容や栄養バランスをわかりやすく伝えることができ、食育の一環としての活用も期待されています。

発育記録

園児一人ひとりの健康状態や生活リズムを記録・可視化できる機能です。
食事の量、午睡の時間、排便の有無、検温の記録など、日々の健康チェックをタブレットやスマホで簡単に入力することができます。

記録された情報は、日誌や個別記録と自動的に連携・反映されるため、手書きや転記の手間を減らしながら、記録の正確性を高めることが可能です。
保護者への共有もスムーズに行えるため、園と家庭が協力して子どもの発育を見守る環境づくりにもつながります。

実際に導入している園の声

では実際に、ICTを導入している園ではどのような変化が起きているのでしょうか。ここでは、コドモンを導入している園や自治体の事例から、現場のリアルな声を紹介します。

並木南保育所(埼玉県川口市)

保護者からの要望をきっかけにICTを導入。出欠席の自動反映で朝の時間に余裕が生まれ、1か月かかっていた監査準備の業務も大幅に削減された。

はぐはぐキッズ二葉(東京都品川区)

オンライン研修を活用することで、職員の学びが保育実践に活かされやすくなり、スキルや意識の向上につながっている。

小矢部市民生部・こども家庭課(富山県小矢部市)

市内の公立保育園全施設でICTを導入し、ペーパーレスによる監査対応も実現。業務の省力化と職員の負担軽減が進んでいる。

保育ICT導入の第一歩

保育ICTの導入は、いきなりすべてを変えるような「大がかりな改革」である必要はありません。むしろ、自園に合ったやり方を少しずつ見つけていくことで、職員や保護者の負担を抑えながら、徐々に浸透・定着していくことにつながります。ここでは、導入時に意識しておきたい3つのポイントをご紹介します。

補助金を活用する

保育ICTシステムの導入には、初期費用や月額利用料がかかります。しかし、こうした費用の一部を補助する制度が、国や自治体により整備されています。

たとえば、こども家庭庁が実施する「保育所等におけるICT化推進等事業」では、ICT導入にかかる費用に対して最大130万円の補助が支給されます。また、「午睡チェックセンサー導入」に使える上限50万円の補助制度もあります。

補助金の申請には期日や要件があるため、計画的に情報収集しながら進めることが大切です。システム事業者の中には、申請のサポートまで行ってくれる会社もありますので、相談してみるのもよいでしょう。

補助金について詳しくは「【最新版】保育ICTシステム導入に使える補助金を解説~種類・金額・申請の流れがわかる~」をご覧ください。

試験運用を利用し、実際に試してから決める

保育ICTシステムには多くの機能があり、実際に使用しないと自園に合うかどうか判断がつきにくいこともあるかもしれません。そのため、導入前に「お試し利用」や「トライアル期間」を設けているサービスを活用することは非常に有効です。

試験運用では、実際に園で使う環境で機能を確認したり、保育者が操作感や保護者の反応を確かめたりすることができます。現場の声を聞きながら、小さく始めて徐々に広げていくことで、無理のない導入が可能になります。

導入後のサポート体制がしっかりしているシステム会社を選ぶ

保育ICTシステムは導入して終わりではありません。実際に活用していくなかで、「こんなときはどうすれば?」「設定を変えたい」といった場面がでてきます。だからこそ、導入後に丁寧なフォローをしてくれる会社かどうかは非常に重要な選定基準です。

問い合わせへの対応スピードや内容、マニュアルの充実度、研修の有無などを事前に確認しておくことで、導入後の安心感が大きく変わります。また、他園の事例紹介や活用ノウハウを定期的に提供してくれる会社であれば、自園でも自然と使い方が定着していきます。

パソコンやタブレットにまだ十分慣れていない職員がいても、サポート体制が整っていれば、安心して導入を進められます。長期的に伴走してくれるパートナーとして、信頼できる事業者を選ぶことが、導入成功への第一歩です。

保育ICTシステムで広がる、先生と子どもの時間

保育ICTは、保育者の業務省力化や労働環境の改善につながるだけでなく、保育の質の向上にも寄与します。自園にあったシステムを利用することで、保育者が子どもと向き合う時間を確保し、よりよい保育環境を整えることができます。
まずは、保育ICTシステムの事業者に相談し、自園での運用・活用方法を検討してみてはいかがでしょうか。
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