「こども誰でも通園制度」は、保護者の就労状況にかかわらず、生後6ヵ月〜満3歳未満の子どもを短時間保育施設に預けられる新たな仕組みです。令和8年度からの本格運用を目指し、現在は地域子ども・子育て支援事業(いわゆる13事業)の一部として全国で段階的に導入が進められています。制度の導入に期待が集まる一方で、現場では人手や対応体制への不安の声も聞かれます。
この記事では制度の基本を整理するとともに、モデル事業で見えた課題と対応する上での工夫の事例をご紹介します。
従来の制度では、保護者が働いているかどうかが保育施設の利用の基準となっていました。しかし「こども誰でも通園制度」では、このような就労状況や理由を問わず、専業主婦(夫)家庭や、育児休業中の家庭など、誰でも子どもを保育施設に預けることができるようになります。
制度の目的は大きく3つあります。
子どもの育ちを支える
同年代の子どもたちとの関わりやさまざまな経験の機会を保障する
保護者のサポート
育児の負担を軽くし、リフレッシュや相談の場を提供する
地域での育ちを支える環境づくり
保育施設が地域の子育て拠点となり、家庭とのつながりを広げる
少子化や子育て家庭の孤立が進む中で、この制度には「家庭だけでがんばりすぎない子育て」を支える役割が期待されています。
生後6か月から満3歳未満までの保育所や幼稚園などに通っていない子どもが対象です。中には、一時預かりやプレ保育の場合でも利用できるケースがあります。
ただし、実際の運用条件は自治体によって異なるため、最新の情報を確認しておくことが大切です。
一見すると「一時預かり」と似た制度ですが、実施目的と仕組みに大きな違いがあります。制度の主目的が「育ちの支援」にある点が一時預かりとの最大の違いです。
継続的に利用する前提での支援体制が求められるため、受け入れや記録対応の方法にも違いが出てきます。
出典:こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業実施の在り方に関する検討会┃こども家庭庁(2023年12月)
「こども誰でも通園制度」は、令和8年度から本格的に給付対象事業として制度化される予定です。令和6年度にはモデル事業と制度設計が進められ、「実施の手引き」により配置基準や運営方式など制度の枠組みが整理されました。
現在(令和7年度)は、国による詳細通知とともに、施設ごとの参加判断や準備が求められる重要なタイミングとなっています。
スムーズな導入に向けては、令和7年度のうちに「制度に参加するか」「どの方式で運用するか」「ICTや補助金をどう活用するか」など、施設としての方針を明確にしておくことが重要です。
こども誰でも通園制度では、保育施設の状況に応じて「一般型」と「余裕活用型」という2つの実施方法が用意されています。
一般型では「制度専用の枠」として独自に職員配置を行うため、制度の基準(保育士割合50%以上)が必要とされます。一方、余裕活用型では、認可保育所や認定こども園など既存施設の通常の人員配置基準が適用されます。
また、障害や医療的ケアが必要な子どもを受け入れる場合や、専用保育室を設ける場合には、追加の体制整備が必要になることもあります。
園の広さや体制、補助条件に応じて、無理のない方法を選ぶことができます。
「こども誰でも通園制度」は、保護者の就労にかかわらず、すべての子どもに育ちの場を提供するという大きな目標を掲げています。その一方で、現場での受け入れに向けては、人手の確保や保護者対応、事務作業の負担増といった実務面の課題が浮き彫りになっています。
ここでは、モデル事業に参加した保育施設の声や報告書の分析をもとに、特に保育現場にとって優先度の高い3つの課題を取り上げ、それぞれに対して現場で実践された工夫や対応の視点を整理してご紹介します。
モデル事業に取り組んだ自治体のうち、81.6%が「保育者の確保」を課題と回答しています。特に制度では専任従事者の配置や保育士比率の要件が求められるため、通常の保育運営に加えて新たな人員を確保することが難しいという声が多く挙がりました。
【現場での対応例】
〇「余裕活用型」を選ぶことで、通常の職員配置基準内で制度に対応
〇 登園希望の曜日や時間帯を見越した、パート職員のシフト調整
〇制度導入の方針や対応枠をあらかじめ職員間で話し合い、役割のすり合わせを実施
登園曜日や時間帯が固定されない制度の特性上、従来の固定シフトだけでは対応が難しくなるケースがあります。モデル園では、既存職員の配置計画を柔軟に見直しながら、制度を無理なく運用する体制を整えていました。
制度を利用する保護者の多くが、子どもの様子について詳しく知りたいという希望を持っており、保育者の約7割が「保護者対応の時間や労力が増えた」と回答しています。
とくに登園頻度が少ない場合には、保育者から子どもの様子を十分に伝えきれないというジレンマも見られました。
【現場での対応例】
〇「今日の様子」を簡潔にまとめたひとことコメントの送付を習慣化
〇保育中の活動を記録した写真や共有カードで家庭とのつながりを強化
〇保護者に制度の目的や利用形態を事前に説明し、期待値を調整
短時間・不定期の利用では、毎日のように顔を合わせることが難しいため、わずかな接点でも安心感や信頼を感じてもらえる工夫が必要です。モデル園では、「何をどこまで伝えるか」を整理し、情報共有の効率化と丁寧さの両立を図っていました。
制度利用者と在園児で処理の仕方が異なるため、記録作成・請求処理・連絡手段の煩雑さが現場負担につながっているという声が複数の園から寄せられました。特に、運営費や人員に余裕のない園では、事務作業が重くのしかかる傾向が強く見られました。
【現場での対応例】
〇ICTツールで登降園記録・請求処理・連絡機能を一元化
〇在園児と制度利用者を同じ運用フローで管理できるか事前に確認
〇試行期間を設けて、フローの簡略化とマニュアル化を実施
制度利用者が少人数であっても、紙や別管理で記録を扱うと業務が二重化し、ミスや負担につながるリスクがあります。モデル園では、ICTを活用して日々の記録や請求の連動を整備することで、職員の手間を減らしながら正確性と効率を両立する工夫が進められていました。
こども誰でも通園制度は、保護者の就労状況にかかわらず、すべての子どもに育ちの支援を届けることをめざしています。現在はモデル事業を経て、令和8年度の本格運用開始に向けて制度の整備が進められている段階です。
モデル園の報告では、制度にともなう課題や不安がありながらも、現場ごとの工夫によって乗り越える様子が多く見られました。制度への理解を少しずつ深めながら、自園でどんな工夫ができそうかを考えることが、準備の第一歩といえそうです。
参考:
こども誰でも通園制度の 本格実施を見据えた試行的事業の実施に関する調査研究報告書(令和7年3月)
こども誰でも通園制度について┃こども家庭庁
令和7年度こども家庭庁当初予算案
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