令和7年(2025年)4月、放課後児童クラブ(以下、「学童」)に関わる運営指針が改正・施行されました。今回の改正は、現場の実情や社会的背景の変化を踏まえ、子どもたちの権利の保障や安全対策の強化、支援の質の向上を目的としています。
この記事では、こども家庭庁の児童厚生施設及び放課後児童クラブに関する専門委員である新潟県立大学の植木信一先生の解説をもとに、改正の背景やポイント、現場で求められる対応についてご紹介します。
植木信一先生の解説動画はこちら>https://webinar.codmon.com/vod/584
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今回の運営指針の改正では、日々の支援に直結する具体的な内容が多く盛り込まれました。
ここでは、特に重要とされる5つのポイントを取り上げ、それぞれの背景や現場での活用方法をご紹介します。
学童運営が、児童福祉法・子ども基本法・児童の権利に関する条約の理念に基づいて行われることが、改めて明記されました。職員が子どもの権利について理解を深めるための研修の必要性も強調されています。
「聴取」「反映」「フィードバック」という3つのプロセスを通じて、子どもの意見を尊重し、運営に活かす仕組みづくりが求められています。
障がいのある子どもや多国籍の文化的背景を持つ子ども、性的マイノリティの子どもなど、多様な価値観のもとで育った子どもたちへの配慮が指針に追加されました。
支援にあたっては、支援者ネットワークの活用や外部機関との連携が強調されており、個人の価値観だけに依存せず、制度や専門的知見に基づいた対応が推奨されています。
事故防止に向けた安全計画の策定が義務づけられ、災害時の業務継続計画(BCP)は努力義務として位置づけられました。
たとえば、送迎時の事故防止、プール指導時の安全管理、遠足時の引率体制など、具体的な場面を想定した対応が求められています。また、保育施設等事故情報データベースの活用も推奨されており、日々の運営に活かすことが期待されます。
保護者との連絡手段におけるICTの活用が正式に明記されました。タブレット端末やアプリを使った出欠管理や日々の記録の共有が推奨されています。
一方で、「お迎え時の一言」といった対面でのコミュニケーションの価値も引き続き重視されており、信頼関係づくりに役立つ時間として位置付けられています。
おやつや昼食の提供は、栄養補給の機会であると同時に、子ども理解につながるコミュニケーションの場でもあります。
食事の場で自然な交流が生まれることにより、子どもの感情や関係性の変化に気づきやすくなり、結果的に支援の質の向上につながります。
運営指針の改正は、制度の見直しだけではなく、日々の支援のあり方を振り返る機会でもあります。
ここからは、改正の内容を受けて現場でどのような対応が求められるのか、具体的な実践ポイントをご紹介します。
今回の改正では、「子どもの声を聞く」から「日々の運営に声を活かす」ことへと焦点が移りました。たとえば、学童内のルールや遊びの計画を子どもと一緒に考えるなど、子どもを主体者として扱う運営が求められています。
こうした取り組みにより、子どもが「自分の意見が反映された」と実感を持つことで、学童への安心感や信頼感がさらに育まれます。
日々の打ち合わせ、報告書の作成、保護者会や年度末の振り返りなどを通じて、チーム内での情報共有を習慣化することが大切です。
子どもの小さな変化を見逃さず、記録・共有することによって、支援の一貫性と質が保たれます。ICTを活用して記録のデジタル化や保護者との連携をはかるのも有効です。
子どもの権利、多様性、災害対応など、幅広いテーマに関する継続的な研修機会の確保が求められます。市町村が中心となり、外部機関と連携して質の高い研修環境を整えることが望まれます。
職員による自己評価の実施と、それに基づく第三者評価の導入が明記されました。評価結果を職員全体で共有し、改善点を見出していくことが、支援の質の向上につながります。
評価結果が公表されることで、地域の保護者や関係機関からの信頼醸成にもつながります。
災害時の支援体制整備も重要なポイントです。能登半島地震などの事例を踏まえ、職能団体や自治体とのネットワークづくりが求められています。
市町村単位の業務継続計画(BCP)にも、外部との連携視点を盛り込むことが推奨されます。
今回の運営指針改正は、制度の変更にとどまらず、支援の在り方や職員の姿勢を見直す契機となりえます。
植木先生は「子どもと大人が『また会いたい』と言い合える学童」が理想の姿だと語っています。その実現に向けて、制度を正しく理解し、背景を踏まえた上で、日々の実践に活かしていくことが大切です。職員一人ひとりの学びと、チームでの取り組みが、より良い「放課後の居場所」づくりにつながっていくはずです。
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