共働き世帯の増加や子育て支援へのニーズの多様化に伴い、放課後児童クラブ(以後、学童クラブ)の重要性は、年々高まっています。今や学童クラブは、保護者にとってなくてはならない社会のインフラです。しかし、その役割が拡大する一方で、現場を支える職員の業務負担や環境整備が、持続可能な運営に向けた重要なテーマとなっています。
この記事では、東京都が実施した「都内学童クラブの業務実態把握のためのアンケート」の調査結果を詳しく紐解いていきます。「待遇」「人材確保」「育成」という3つの視点から現場のリアルな現状を整理し、よりよい放課後の環境をどうつくっていくべきか、具体的な改善の方向性を探ります。
現在、東京都では多様化するニーズに対応し、質の高いサービスを提供するため、国の基準とは別に都独自の運営基準を設けた「東京都認証学童クラブ事業」を開始しました。
今回のアンケートは、この新制度を検討するための基礎資料として実施されました。
具体的には、
都内学童クラブの状況や実施している取組・プログラムなどの業務実態を把握し、可視化することが目的です。
今回の調査結果によると、放課後児童支援員(常勤)の基本給(月額) は、「20万円~25万円未満」の割合が38.0%ともっとも高い結果でした。次いで「15万円~20万円未満」が29.6%、「25万円~30万円未満」が20.8%となっています。給与水準には一定の幅があることがわかります。

職員の平均の月額手当については、「5万円未満」の割合が73.9%ともっとも高く、次いで「5万円~10万円未満」が18.3%、「15万円~20万円未満」が3.3%という結果になっています。
厚生労働省の2023年度調査における全国平均(約31.8万円 / ※諸手当・賞与などを含む)と比較すると、業務の専門性や責任の重さに見合う待遇が、必ずしも十分とは言えないことがうかがえます。

常勤支援員の勤続年数では、「5年未満」の割合が52.5%ともっとも高く、半数を超えています。一方で、非常勤支援員は「5年〜10年未満」が35.5%、「10年〜15年未満」が20.2%と、長く勤めている方も一定数存在しています。

調査では、「職員が不足している」と感じている施設の割合も示されました。 支援員の不足状況については、「大いに不足」「不足」「やや不足」を合わせた“不足計”が65.1%に達しています 。限られた人員で子どもたちの安全を守る現場にとって、一人あたりの業務負荷をどう軽減するかが課題となっています。

人材確保の課題としてもっとも多く挙げられたのは、「求める資格や経歴等を持った人材が集まらない(50.8%)」でした。これに次いで、「仕事に対する認知度が低い(49.7%)」「若い人材からの応募が少ない(48.3%)」が続いています。 資格保持者の確保に加え、学童クラブの仕事そのものに対する認知向上や、若年層へのアプローチが重要な課題です。
職員の専門性向上には研修が欠かせません。調査では、多くの学童クラブが育成に前向きに取り組む姿勢が見えてきました。
「運営主体が研修計画を作成している」施設は76.8%にのぼり、多くの学童クラブで研修体制が整備されていることがわかります。実施状況においては、「区市町村が実施する研修を受講している」が75.9%、「学童クラブの運営主体が実施する研修を受講している」が72.8%と高い回答結果でした。

職員の育成において、82.1%が「研修の実施」を重要視しています。また、現場でのOJTや、施設長・職員間での意見交換も欠かせない要素として認識されています。
しかし、育成が困難な理由として、51.7%が「支援をする余裕がない」と回答しました。また「人材不足により研修に参加させることが困難(43.9%)」という声も多く上がっています。育成を担う職員の不足や、業務負担の重さが大きな壁となっています 。

日々の活動では、「季節の行事(93.4%)」や「創作活動(85.2%)」など、多彩なプログラムが提供されています。 一方で、これらを実施する上での課題として、52.8%の施設が「企画・準備する時間がない」と回答しました。時間的な余裕のなさや人材面での制約が、プログラム運営の大きな課題となっています。
今回の調査から考えられる、学童クラブ全体を通じた課題は以下のとおりです。
特に「処遇改善」は、職員の定着と質の高い支援に直結する最優先課題です。これらの課題解決が進むことは、職員の心のゆとりを生み、結果として子どもたちがより安心して過ごせる環境の実現につながります。 社会全体で学童クラブの価値を再認識し、現場を支える仕組みをアップデートしていくことが、今求められています。
東京都のアンケート調査は、「待遇」「人材確保」「育成」の3つの側面で学童クラブの現状を明らかにしました。子どもたちへの多様なプログラム提供とともに、職員の適切な処遇・育成が重要課題です。 これらの課題解決が実現すれば、子どもと職員の双方にとってよりよい「放課後」の環境づくりにつながるでしょう 。
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