子どもも保護者も職員も「また明日も来たい!」と思える園にしたい【日向美奈子先生】

すてきな園長先生 保育

今回お話を聞いた方

日向美奈子(統括園長)
出身地:東京都
職歴:幼稚園(5年)、認可保育園(4年)、認可外保育園(5年)、認可保育園(10年)
園長先生歴:15年
趣味:ミュージカル鑑賞
日課:犬との散歩

親子の時間を大切にしてほしくて始めた「荷物のいらない保育園」

日向先生の園では「荷物のいらない保育園」を実現されています。園にはどんな物が用意されていますか?

布団一式、おむつ、おしり拭き、歯ブラシ、エプロンなど、日中に子どもが使う物のほとんどすべてを園で用意しています。

2歳までの子どもには衣服も用意しているんですよ。子どもたちは登園すると自分の好きな園の服に着替えて1日を過ごします。そして、帰りには自分の服に着替え、日中に着ていた服は園でクリーニングに出すという仕組みです。なお、2歳までなのは、3歳からは洋服の好みが、よりはっきりと出てくるため、それからあまり汚さなくなって着替えが必要なくなるためです。

本当に手ぶらでいいんですね。でも、費用がかかるのではないでしょうか。

いえ、うちの園では無償で行っています。認可保育園の予算は同じなのに、どうして可能かというと、職員の採用をSNSで直接行っているからです。職員の給与を下げたり、保育に使うべき費用を回したりしているわけではありません。どうして無償にしたかというと、利用できる家庭、利用できない家庭がでないようにしたかったんです。

すごいですね。どうして、そのようにしようと思われたのでしょう?

私はずっと保育士をしてきたので、保育も子育てもよくわかっているつもりでした。ところが、我が子が生まれて保育園に預けるようになって初めて、登園準備が大変なことに気づいたんです。買い物、調理、夕食、入浴、子どものケア、片付けなどを終えてから、翌日の登園の準備……おむつ1枚ずつに名前を書き、エプロンや着替えなどを用意しなくてはいけませんよね。こんな手間をかけなくてもいいようにしたいと、ある出来事がきっかけで思ったんです。

どんなことがあったのでしょう?

子どもが、一時的に「吃音(きつおん)」になってしまったんです。当時、私は常にとても忙しく、子どもを急かしてしまっていたかも……と自分を責めました。もちろん、因果関係があるかどうかはわかりませんが、すぐに生活を改め、子どもとゆっくり向き合えるようにしたところ改善したんです。そうした体験から、自宅に帰ってから寝るまでの短い時間を「親子の時間」にしてもらえるように、「荷物のいらない保育園」を実現したいと思ったんです。

保護者の方からは、どんな反応があったのでしょうか。

利用は希望制ですが、衣服以外は全員がご希望されていますし、とても喜んでくださっています。「夜、子どもに向き合う余裕ができて、絵本を1冊読んであげられるようになりました」「布団を持ってバスに乗るたび、周囲に申し訳なく思い『すみません、すみません』と謝っていましたが、そういうことがなくなって本当に助かっています」などという声をもらって、非常に嬉しく思っています。

確かに準備するときだけでなく、荷物が多いと送迎時も大変ですよね。

そうなんです。布団に着替え、歯ブラシ、エプロン、おむつなどを入れた大きなバッグを持って、子どもを抱っこして……なんて本当に大変ですよね。ちなみに職員も、個人の持ち物を管理したり、記名のない物品の持ち主を探したり、なくなった物を捜索したりなどの手間が減って、子どもたちと向き合う時間が増えたことを喜んでいます。

普段の保育の様子を見て共感した人が面接に応募してくれるように

日向先生が保育において、もっとも大切にされているのはどんなことですか?

「私がみんなを楽しませるんだ」というマインドを常に持つことです。この「みんな」というのは、子どもはもちろん、保護者、職員、自分自身。「楽しくない」のを環境や他人のせいにするのではなく、自分自身が動くことで「楽しくする」ことが大切だと思っています。それから「謙虚さ」です。保育士は最初から「先生」と呼んでもらえますから、傲慢にならないよう気を引き締めていたいと思っていますし、職員にもそう伝えています。

保育の「ここがおもしろい!」と思うことを教えてください。

そうですね。たくさんありますが、私は子どもならではの言葉、感性、行動にふれるたび、とてもおもしろいと思っています。先日、2歳児のトイレに付き添ったのですが、おしりにショベルカーの絵が描いてあるパンツをはくときに、その子が「絵がついてるのが前だ」と言い張るんです。「絵がついてるのが後ろなんだよ。先生のパンツもそうだよ」と伝えたら、「先生もパンツはいてるの?」って聞くんです。思わず笑ってしまいました。

かわいいですね! 反対に「ここが大変」と思うところもお聞きしたいのですが。

保育には「正解」がないので、そこが難しいなと思います。例えば、ひとりの子へのアプローチがうまくいっても、他の子に同じ方法が通用するとは限りません。同じことをしても、子どもによって受けとめ方が違うんですね。それから、 統括園長として大変だと思っているのは、「保育の質」を左右する人材の確保、評価です。

冒頭でSNS採用を行っているというお話をうかがいました。

そうなんです。職員を採用するために広告を出したり、就活イベントに参加したり、人材紹介会社に紹介を頼んだりすると、多大なコストがかかります。そこで、弊社ではTikTokを通して直に採用しているんです。

毎日のように職員が行っているTikTokライブでは、普通の就活では聞きづらい「給与」「産休育休」「人間関係」などについて匿名で質問してもらえます。また、うちの保育の様子を詳しく知ってもらうことができるので、ミスマッチも起こりにくくなりました。

人材の評価ではどんなことが難しいのでしょうか。

保育園には役職がクラスリーダー、主任、副園長、園長くらいしかないんですね。あとは勤務年数しか評価基準がありません。でも、勤務年数だけで仕事を評価するというのはおかしいですし、本当は何か評価のための基準があったほうがいいと思います。

今、私は「日本保育連盟」という団体の理事を務めているのですが、その中で「認定保育士制度」の創設に動いています。①高い水準の専門性及びスキルの習得 ②保育士のキャリア形成の促進 ③保育士の待遇向上 ④保育士の定着率の向上 のための認定制度です。

「子育てしやすい世の中」を実現するために大学院で学び直し

そもそも、日向先生が保育の仕事に就こうと思われた理由を教えてください。

小学校高学年のころ、父の仕事の都合で千葉の集合住宅に住むことになったんですね。そこには小さな子が多くて、一緒に遊んでいるうちに「小さな子はかわいいな」と思うようになりました。それでぜひ保育の仕事をしたいと思い、短大で保育士と幼稚園教諭の資格を取ったんです。

卒業後は、どのようにキャリアを築かれたのでしょうか?

短大卒業後は、すぐ幼稚園に入職しました。とてもやりがいがあったのですが、当時、幼稚園の担任は1クラス1人で、産休や育休が取得しづらい状態だったんです。そこで結婚を機に比較的、産休や育休の取得しやすい同法人内の保育園へ異動しました。ただ、2人目の子どもを出産したあとに体調をくずしてしまって退職し、そこから3年間は専業主婦でした。

その後、今の園を始めたのにはどんなきっかけがあったのでしょうか?

起業していた夫に「一緒に保育園をつくろう」と誘われたのがきっかけです。最初は保育園運営は大変だろうし、無理だと断ったのですが、夫から熱意たっぷりに説得されたこと、ちょうど待機児童が問題になっている時期で困っている親御さんの力になりたいという思いがあったことから、2010年に認可外保育園を開設しました。その後、2015年には認可保育園を開設し、 2025年現在では10園を運営しています。

10園の統括園長というのはやりがいがありそうですね。今後の目標を教えてください。

私は5年前に4年制大学に編入し、今は大学院へと進み、児童心理学を専攻して「親の育児不安」について研究しています。少子化を止めるため直接的なアプローチをすることはなかなか難しいですが、保育現場や子育ての知識に加え、しっかりとした学識を身につけることで、子育てがしやすい世の中になるよう国や行政に働きかけていけたらと思っています。

最後に保育を学ぼうか迷っている人、すでに学んでいる人にメッセージをお願いします。

日本の職業の7割は、広義の「サービス業」です。サービス業では、サービスをする側が「ありがとうございました」と言うことがほとんど。保育は福祉と位置づけられていますのでサービス業とは違いますが、そういう面もあります。保育者は「ありがとう」とたくさん言ってもらえる幸せな職業です。子どもが好きな人、保育に関心のある人、この世界に入ってきてください。お待ちしています。

(文:大西まお、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)

日向先生が働いている園
施設名:キートス
形態:認可保育園
所在地:千葉県

※2025年6月2日時点の情報です

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