令和7年度(2025年度)から、保育者の処遇改善等加算制度が大きく変わることになりました。これまで3つに分かれていた加算制度が一本化され、よりわかりやすく、事務負担の少ない仕組みになります。
この記事では、処遇改善等加算の一本化について解説します。
処遇改善等加算とは、保育人材の確保と定着を目的に、保育者の給与を改善するために国が設けた制度です。平成25年度(2013年度)から段階的に導入され、現在は3種類の加算(Ⅰ~Ⅲ)があります。
今までの加算制度は以下の通りです。
処遇改善等加算Ⅰ(平成27年度~)
○ 対象: 園長を除くすべての常勤・非常勤職員
○ 内容: 職員の平均経験年数・キャリアパス(職位・職責等に応じた賃金体系等の整備や研修の実施等)の構築等に応じた加算
処遇改善等加算Ⅱ(平成29年度~)
○ 対象: 副主任保育士、専門リーダー、職務分野別リーダーなど特定の役職の職員
○ 配分ルール: 4万円の処遇改善を受ける職員を1人以上設定し、残りを5千円~4万円未満で配分
○ 内容: 技能・経験に応じた加算
処遇改善等加算Ⅲ(令和4年度~)
○ 対象: 園長を除くすべての常勤・非常勤職員
○ 内容: 賃上げ効果が継続される取組を前提に行われる加算
今までの処遇改善等加算制度には、いくつかの課題がありました。
● 制度が複雑で分かりにくい:3つの加算制度はそれぞれ趣旨や対象者、要件、加算額の算定方法等が異なり、理解しづらい状況
● 事務手続きが煩雑:各加算ごとに賃金改善計画書と実績報告書の提出が必要で、施設や自治体の事務負担が大きい
● 柔軟な運用が難しい:特に処遇改善等加算Ⅱでは、施設の職員構成によっては、配分ルールの「賃金改善40,000円配分対象の職員を1人以上」を決めることが困難なケースもあった
● 現場とのギャップ:小規模施設では対象となる職員がいない、経験年数要件を満たす職員が不足している、研修受講の機会が限られているなど、現場の実情と制度要件の間にギャップが生じることがあった
こうした課題を解決するため、こども家庭庁は処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲの一本化を実施し、令和7年度から新制度が開始されました。
令和7年度(2025年度)からの処遇改善等加算は、3つの「区分」に整理されます。
区分①「基礎分」
○ 経験に応じた昇給の仕組みの整備や職場環境の改善に関する加算
○ キャリアパスの構築が区分①の必須要件
区分②「賃金改善分」
○ 職員の賃金改善に関する加算
区分③「質の向上分」
○ 職員の技能・経験の向上に応じた追加的な賃金の改善に関する加算
○ 対象職員への配分方法と金額を報告する必要がある
処遇改善等加算の一本化には、以下のようなメリットがあります。
事務負担の軽減
○ 計画書・報告書の統一化、確認方法の簡素化により、施設と自治体双方の事務作業の負担が軽減
柔軟な人事・給与体系の整備
○ 40,000円支給の配分ルール撤廃により、より適切な人材配置と賃金配分が可能
制度の透明性と分かりやすさの向上
○ 賃金改善の方法が統一され、運用がしやすくなる
新制度では、誰に加算を配分するかについて以下のように変わります。
区分③「質の向上分」(旧処遇改善等加算Ⅱ)
○ 40,000円支給の「1人以上」配分ルールを撤廃し、施設の判断で対象者と金額を決定可能
○ 一人当たり40,000円を超えない範囲での配分
○ 年度内に研修修了を予定している者であって、副主任保育士等に準ずる職位や職務命令を受けている者も配分対象として認める
特に区分③「質の向上分」の要件変更は、40,000円配分対象者を設定することが難しかった施設にとって、大きな変更点となります。
賃金改善の方法が統一されます。
令和7年度からの新制度では、今までの加算ごとに異なる要件を統一し、シンプルな仕組みに整理されます。
○ 「区分②『賃金改善分』」と「区分③『質の向上分』」の合計額の1/2以上を基本給・決まって毎月支払われる手当により改善
○ 残りの1/2以下については、賞与・一時金での支払いも可能
これにより、施設の実情に合わせた柔軟な賃金設計が可能になるとともに、給与管理の負担も軽減されます。
自治体での賃金改善の確認方法も変わります。
○ 区分②「賃金改善分」と区分③「質の向上分」をまとめて賃金改善の確認を行う(一括した確認方法)
○ 主に2つの点を確認:
1.加算額以上の賃金改善となっていること
2.加算以外の部分で賃金水準を下げていないこと
新制度では、賃金改善の確認方法において「定期昇給相当額(※)」の特定が新たに必要になります。
○ 特定方法: 施設の給与規程に基づく定期昇給の仕組みに沿って算出(例:毎年4月に基本給の○%アップなど)
○ 賃金改善確認での取扱い: 現年度の賃金総額から定期昇給相当額を差し引く
○ 意義: 加算による改善と自然増(定期昇給)を分けて考えることで、純粋な賃金水準の変化を把握できる
加算や定期昇給額等の影響を除いた「純粋な賃金水準」での比較をすることで、より公平で透明性の高い制度運用につながります。
※定期昇給相当額:職員の勤続年数や経験の増加に伴って、施設の給与体系上、自然に発生する昇給部分 。賃金規定や定期昇給前後の月の給与から算出する。
新制度では、計画書と実績報告書の様式も簡素化されます。(令和6年度~一部先行して実施)
○ 全ての区分をまとめて一括申請・報告が可能に
○ 報告内容も簡素化され、施設の事務負担が削減される見込み
新制度では、介護分野と同様に「特別事情届出書」の仕組みも導入されます。
これは、利用児童数の減少等により経営が悪化し、基準年度の賃金水準を維持することが困難な場合に、特例措置として、労働者(従業員)と使用者(雇用主)の合意の下で起点となる賃金水準を「必要最小限な範囲」において引き下げることを認める制度です。
令和7年度(2025年度)からの処遇改善等加算の一本化は、制度を簡素化し、事務負担を軽減しながら、施設の実情に合わせた柔軟な運用を可能にする重要な変更です。
「より公平で柔軟な給与配分」「分かりやすい給与の支払い方法」「透明性の高い制度運用」というメリットがあり、保育人材の確保・定着と保育の質の向上につながることが期待されます。
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