ー鳥居さんが療育の道を志したきっかけを教えてください。
私には高校生の息子がいるのですが、彼との幼少期の体験が大きなきっかけでした。息子は衝動性がとても強く、行動面でも気持ちの面でも怒りが表に出やすい子どもだったんです。周りから誤解されることも多くて、「親がちゃんと叱っていないからだ」と言われることもありました。
児童館などで遊んでいても、急にお友達を押してしまうことがあったりと、とにかく周りに謝ってばかりの毎日でした。手を出されてしまったお相手のお子さんとその親御さんのことを思うと心苦しいですし、なにより私自身も息子とどう向き合えばいいのか困り果ててしまい、当時は本当につらかったです。
ー大変な状況だったのですね……。
そんなとき、市の相談窓口で勧められて、息子と一緒に母子通園の療育施設の見学に行きました。説明を受けているときに息子がものを投げてしまい、いつもの癖で「すみません」と謝ろうとしました。すると、先生が私よりも先に「元気いいですね!」「これからが楽しみですよ」と声をかけてくださったんです。
あのときは、本当に涙が出るほど嬉しかったです。息子のありのままを肯定してもらえる、そのままでいていい場所があるんだと感じられました。自分自身が救われたからこそ、今度は同じ悩みを持つ保護者の方の助けになりたいと思うようになったんです。
ー母子通園の施設だったとのことですが、他の保護者の方とも交流はありましたか?
息子と一緒に通う中で、他の保護者のみなさんとお話しする機会もたくさんありました。お子さんのタイプはそれぞれ違っても、みなさんやはり周りからの目について深く悩まれていたのが印象的です。
あとは、その施設で出会った児発管の先生が、本当に素晴らしい方だったんです。どんな些細な相談でも「うんうん」と優しく聞いてくれました。否定も肯定もせず、でも温かく一緒に考えてくれる。施設全体の先生たちが同じ方向を向いて支援できているのは、その先生の後ろ支えがあるからだと感じていました。

ー療育施設で働く以前は保育園で働かれていたと聞きました。療育ならではのやりがいはどんなところにありますか?
新卒で入った幼稚園で5年、その後もっと月齢の低い子どもたちとも接してみたいと思い、保育園で10年ほど勤務してきました。療育の現場に移ってからは、保育以上に一人ひとりを丁寧に見るアプローチが求められると感じます。集団を動かす保育もやりがいがありますが、療育にはその子に合った声かけや環境設定を深掘りしていく楽しさがあります。
今の施設では年齢が低いお子さんが多いため、2、3週間という短い期間でも成長が目に見えて感じられます。それが大きな喜びですね。職員同士で「この子は今この段階だから、次はこのアプローチをしていこう」と、ひとりの子のために真剣に話し合える環境にもやりがいを感じています。
ー療育施設で働き始めたころの印象的な出来事はありますか?
勝ち負けが苦手なお子さんと「しっぽ取り」の活動をする際、先生たちが活動前のデモンストレーションで、負けて怒るところまで演じて見せることがあります。「負けたら、怒ってもいいんだよ」とあらかじめ見通しを立ててあげることで、子どもたちも安心して参加できるんです。
こうしたわかりやすい提示は、発達特性のあるなしに関わらず、どの子にも必要なことだと思うんです。それもあって、療育で働き始めてからは「あの子には、こんな関わり方もできたかも」「あのときこんな声がけをしてあげたかった」と、保育園時代のいろいろな子どもたちの顔が浮かぶようになりました。
ー現在、児発管として保護者の方と関わる上で大切にしていることを教えてください。
保護者の方の気持ちにゆっくり耳を傾けることですね。お話しするときには、あえて子育ての悩みとは少し違う角度から話題を振るようにしています。お休みの日はどう過ごされているのか、何に興味があるのか。そうした何気ない会話からその方の人となりを引き出すことで、本当に求めている支援の形が見えてくる気がしています。
ー児発管として働く上で、ご自身が当事者だった経験も活きることはありますか?
実は保護者のみなさんには、私が当事者であることは積極的にはお話ししていないんです。時と場合によってはお話することもありますが、同じ当事者でも、人それぞれに事情も考え方も違うと思うので。
ただ、以前の私と同じように周りから誤解を受けて苦しまれている方が、ここで胸の内を打ち明かしてくれたときは、「本当によくわかります」と心から共感します。もちろん一人ひとり事情は違うので決めつけはできません。ですが、まずは保護者のみなさんの心に寄り添える存在でありたいと思っています。

ー子どもたちとの関わりについても教えてください。
昨年通っていた年長の男の子が、最初は大人を試すような行動ばかりとっていたんです。感情の起伏が激しく、周りから誤解されやすい子でしたが、私たちは「ありのままを受け止める」ことをモットーに関わり続けました。
すると、あるときから急に心を開いてくれたんです。「大好き」と言ってくれたときは、もう、すごく嬉しかったですね……!
ーそれは嬉しいですね……!
お別れ会のときもその子が号泣してくれて。そういうところに彼のよさが全部出ているな、と思いました。それだけ感受性が豊かなのに、リアクションが周りの思う「当たり前」と少し違うだけで、よさが伝わらずに損をしてしまうのは本当にもったいないことです。
ー鳥居先生の今後の目標を教えてください。
私は子どもたちには、自分が持っている特性をマイナスに捉えてほしくないんです。だから私たちの施設では特性が出たとき、自然と「それおもしろいね」と関わります。彼らが自尊心を下げず、その特性を強みに変えて生きていけるように背中を押してあげたい。
そのためにも、まずは行政の障がい福祉課の方や相談支援員の方など地域とのつながりを強く持ち、多くの方に私たちの施設のことを知ってもらいたいですね。
ー最後に、療育の世界に興味を持っている方へメッセージをお願いします。
児発管として子どもたちと関わると、自分の常識は常識じゃないということに日々気づかされます。子どもたち一人ひとりの発達を深く考えることで、自分自身の視野が広がり、ものごとの捉え方も豊かになっていく。そのプロセスはとても楽しいものです。
勇気を持って一歩踏み出し、挑戦することで、ご自身の世界も間違いなく広がるはずです。子どもたちの未来のために、そして自分自身の成長のために、このやりがいある療育の世界を一緒に盛り上げていけたら嬉しいですね。
ちなみに、我が息子は、今ではすっかり穏やかでユーモアあふれる優しい子に育ちました。児童発達支援で過ごした日々を振り返るとき、彼が必ず口にするのが「あの2年間は忘れられない」という言葉です。
子どもたちとその保護者さまの心にいつまでも残る素晴らしい日々を、この世界に関心のあるみなさんと紡ぎ出していけたらと思います。
(撮影:櫻林栄吉、文・編集:コドモン編集部)

鳥居さんが働いている施設
施設名:児童発達支援ぱすてるキッズ
形態:児童発達支援(定員:10名)
設立:2025年
所在地:埼玉県新座市野火止5-4-10
※2026年4月20日時点の情報です
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