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「生きるって楽しい」を子どもの隣で一緒に感じたい【平野由美子さん】
自分や他人を無理に変えずにそのまま受け止める
ー児発管になる前は幼稚園で働かれていたそうですね。もともと子ども好きだったのでしょうか。
実はこの仕事につく前は、子どもが特別好きだという感覚をあまり持ったことがなかったんです。だから保育士や幼稚園の先生になろうとも思っていませんでした。
転機は、わが子を保育園に預けるようになったことです。そこでお世話になった先生に「平野さん、保育園の先生に向いてそう」って言われて。私、すぐ調子に乗っちゃうタイプなので(笑)、「先生がそう言ってくれるなら、なってみようかな」と専門学校に進み、資格を取りました。
ーなぜ「向いている」と言われたのだと思いますか?
当時の私は若かったこともあって、大人と子どもの間に線を引かずに、いつも一緒にいる運命共同体のような感覚で自分の子どもと過ごしていたんです。育てているという大層な気持ちではなく、「頑張っているちっちゃい人を隣で応援していよう」という感じだったのが、今思えばよかったのかもしれません。
あとは、私の「エコな精神」もよかったのかも、とも思います。私はがむしゃらに頑張るよりも、どちらかというと省エネで生きていきたいタイプなんです。自分や他人を無理に変えずにそのまま受け止める。だから、子どもが靴を履こうとしてすごく時間がかかっているときでも、それを待つことになんの苦も感じないんですよね。頑張ってるな、と思ってただただ見守っていられるんです。
日々を楽しむ子どもたちに対する尊敬
ーその後、平野さんは幼稚園に就職されていますね。
当時、就活に全然身が入らなくて。最後まで動けずにいたら、担当教官が「知り合いの幼稚園を受けてみなよ」と声をかけてくれたんです。ピアノが弾けなかったのですが、「人柄重視だから関係ない」ということで、ご縁で入ることができました。
そこから働き始めて、幼稚園の子たちと関わるうちに、私は本当に子どもたちを尊敬するようになったんです。
ーどんなところを尊敬されたんですか?
幼稚園の子どもたちは、行事があるわけでもないのに、毎日キラキラした顔で登園してきて、帰り際に「先生、明日もくるね」と嬉しそうに帰っていくんです。学生時代の私は、学校があまり楽しくなくて、正直「行かなくていいなら行きたくない」と思っていたくらいでした。だから保護者の方から、子どもが「土日も『幼稚園行きたい!』って言って大変でした!」なんて話を聞いたりすると、日々を楽しむ彼らがとても輝いて見えて。「なんて素敵な人たちなんだろう」と、ひたすら尊敬していました。
ー充実した幼稚園生活のなかで、なぜ療育に興味を持たれたのでしょうか?
8年ほど働く中で、発達が気になるお子さんが多いクラスを担当したことがありました。発表会などで子どもたちがそれぞれに一生懸命取り組んで、私は「よくできた」と感じていても、保護者の方から「お姉ちゃんのときはもっとすごかった」という声をいただくことが何度かあったんです。
力不足で、保護者の方にもどかしい思いをさせてしまった。一方で、頑張った子どもたちにも申し訳ないという、複雑な気持ちになりました。せっかく関わるなら、この子たちの「できた」をみんなで喜べる環境で働きたい。そう思って、療育の門を叩きました。

大人がペースを合わせる中での「できた」への疑問
ー実際に療育の現場に入ってみて、どんな印象を持ちましたか?
最初は衝撃でした。1対1の個別支援を行う事業所に入ったのですが、療育の考え方がまったくわからない状態だったので。たとえば、「ちょうだい」と口に出して伝えることを目標にしているお子さんがいたとして、その子が大好きなミニカーを、手が届かない、でも見える位置に置くんですよ。今思えばすごく理にかなった練習方法なんですが、初めて見たときは「え、意地悪じゃない?」って(笑)。
絵本の読み聞かせも全然違いました。ストーリーを大切にする幼稚園とは違い、療育ではページをめくるたびに「はい、風船にタッチして」「上手! じゃあ次はあれにタッチできる?」というような進め方をするんです。「絵本も教材のひとつなんだ」と気づいたとき、自分の当たり前が根底から覆される感覚がありました。
ーそのときの驚きや感動が伝わってきました! その後、集団療育の事業所へ移られたのはどうしてですか?
個別療育でお子さんが「できた」瞬間を一緒に喜べるのは、本当に楽しい時間でした。でも少しずつ、保護者の方から「先生の前ではできるのに、保育園ではできないと言われてしまって……」といった悩みをうかがうようになりました。
大人と子ども1対1の静かな環境で、大人がペースを合わせる中で生まれる「できた」は、本当の意味での成長なのだろうか? このままでいいのだろうか? と疑問が膨らんでいきました。この子が生きていく世界は、ここだけじゃない。家庭でも、友達といても、その力をそのまま使っていってほしい。そう思って、集団療育を大切にしている今の法人に移ることを決めました。
その先を見据えて、子どもと向き合うおもしろさ
ー現在は児発管を務められていますが、最初から目指していたのでしょうか?
いえ、全然(笑)。入社当初は児発管になる予定ではなかったんです。ところが、予期せぬタイミングで急遽バトンを引き継ぐことになり、すでに研修を受け始めていた私が引き受けることになったのが始まりでした。最初は事務仕事のようなイメージを持っていたんですが、今の法人は児発管が現場に入って子どもたちと遊ぶことを推奨していたんです。それが私にはすごく楽しくて。
責任ある立場になったことで、お子さんを見る視点も大きく変わりました。今日の「できた」だけを追うのではなく、3か月後、半年後を見据えながら、その子の生活や成長の軌跡を長い目でとらえるおもしろさを知ったんです。
ーその先を考えながら向き合うようになられたのですね。では児発管として、特にやりがいを感じるのはどんなときでしょうか?
お子さんと「今、通じ合えた!」と感じる瞬間ですね。昨日まで滑り台の上で5分間躊躇していた子が、ふっと勇気を出して滑り降りてきたとき。着地点で待っている私と目が合って、「やったね!」という喜びがバシッと合わさる。あの瞬間は、何度経験しても鳥肌が立ちます。
保護者の方の変化も、大きなやりがいです。最初は不安を抱えていた方が、お子さんのことを自慢げに話してくれるようになる。「うちの子、こんなこともできるんですよ」という笑顔を見ると、この仕事をしていて本当によかったと思います。
ー逆に、児発管という仕事の難しさを感じることはありますか?
現在の困りごとに引っ張られず、お子さんが成長の道のりのどのあたりにいるのかを正しく見極めること、これは今でも難しいと感じます。アセスメントを見誤って、計画通りに成長を引き出せなかったときは、「保護者の方を悲しませたくない」と焦ります。そういうときはズレに気づいた時点で正直にお話しして、了承を得た上でしっかりと計画を修正するようにしています。

「生きるって楽しそう」と思ってもらえる大人でいたい
ー現在は、施設長と法人の児童発達支援部部長を兼任されています。平野さんが、働く上で大切にしていることを教えてください。
どんな立場であっても「あんな大人になりたい」「楽しそうに生きてるな」とポジティブに思ってもらえる姿でいたい、ということは常に意識しています。
実は私、この仕事を始める前は、みんなで過ごす集団活動がすごく苦手だったんです。でも、幼稚園の子どもたちからみんなでひとつのことをやり遂げる心地よさや楽しさを教えてもらいました。それを知っている今のほうが私の人生ハッピーだなって思っています。
ー部長として各事業所の方と接する上で、心がけていることはありますか?
各事業所のスタッフとなるべくコミュニケーションをとることを大切にしています。アプリで定期的にやり取りしたり、月に1回のミーティングでは直接話をします。あとは、私たちの法人では月に一回、本社から各事業所へ届け物を送る機会があるので、そのとき私はあえて自分で足を運ぶようにしています。少しの時間でも、直接顔を見て話す時間をつくることを大切にしています。
ー平野さんの今後の目標を聞かせてください。
私は、子どもたちに「生きてるって楽しいな」と感じてほしいのと同じくらい「私も児発管になってみようかな?」って思ってくれる先生が増えたらいいと思うんです。今は書類作業のイメージが強くて大変そうに見えるかもしれませんが、そこをどうにか解消して、児発管になりたくて、望んで就くような人を増やしたい。そんな人が一緒に働いている仲間からたくさん出てきてくれたら嬉しいですね。幼稚園に勤めて最初に出会ったあの子たちくらい、みんながキラキラと楽しんでいてくれたら、こんなに素敵なことはないと思っています。
ー保育や幼児教育の世界で働く先生の中にも、興味がある方は多いのではないでしょうか。最後に、そんな児発管を目指す方に向けてメッセージをお願いします。
定型発達のお子さんと関わってきた幼稚園や保育園の先生が児発管になることは、ものすごい強みになると思っています。「この年齢ならこれくらいできるよね」というゾーンを体感として持っていることは、療育の現場で絶対に活きます。迷っているなら、ぜひ一歩踏み出してみてほしいですね。

(撮影:櫻林栄吉、文・編集:コドモン編集部)
平野さんが働いている施設
施設名:元気キッズ チルズ
形態:児童発達支援、放課後等デイサービス(定員:1日40名)
設立:2022年
所在地:埼玉県朝霞市浜崎79-1
※2026年3月17日時点の情報です
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